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私が髪を伸ばす理由

人が髪を伸ばす理由はなんだろうか。

私は無論、ショートの女の子が好きだ。
ショートは永遠の憧れであり
幻想であり浪漫である。
あくまで私の趣味嗜好である。

そんな私が髪を伸ばす理由。

約5年前。
幼馴染を亡くした。
今でも鮮明に思い出す。
あれは高校2年生の春だった。

なんでもない普通の1日だった。
いつも通り学校へ行き、昼食を終え
午後の授業が始まる少し前。
ふと携帯を見ると母から1件の不在着信。

学校だと分かっているはずなのに
どうしたのだろう、と思いつつも
校内では使用厳禁だった携帯をポケットに
押し込み、午後の授業を受け終わる頃には
すっかり電話のことは忘れていた。

友人と部室へ向かい部活の準備をしている最中
母から1件のメール。

私の幼馴染が亡くなったことを
報せるものだった。

一瞬、母が何を言っているのか
分からなかった。
正しくは、頭がついていかなかった。
分かろうとすることを拒否したのだ。

そこからはあまり覚えていない。

気がつくと私は泣きながら
学校の外まで来ていた。
親友である部長が私のただならぬ様子を見て
帰るように促したことが後日分かった。


“天真爛漫”という言葉がよく似合う娘だった。

小学生で転校してきた私は、
隣のクラスのその女の子が
気になって仕方なかった。

透けるように白い肌と
腰まで伸びた長い髪。
スラリと伸びた手足に
小動物のような瞳。

一目惚れ なんて言葉は同性では
可笑しいかもしれないが、
まさに一目惚れだったと思う。

きっかけこそ忘れてしまったが、
私と彼女が仲良くなるのに
そう時間はかからなかった。

毎日一緒に帰り
同じピアノ教室に通い
冬はコンサートに出た
日本舞踊の稽古に行き
夏はバレーの大会に出た
キャプテンと副キャプテンだった
3年生になると吹奏楽部に入り
運動会や学芸会で一緒に演奏した
同じ頃に犬を飼い始め
毎日散歩に行った

来る日も来る日も一緒だった

中学校に上がると同時に私が転校したため
会う頻度こそ減ったものの
家族ぐるみの付き合いだったため
定期的に遊んでいた。

そんな彼女が倒れたことを知ったのは
中学生になってしばらくしてからだった。

日本でも珍しい病気で
抗がん剤の投与が必要とされた。

抗がん剤治療が始まってまもなく
彼女のトレードマークとも言えた
ロングヘアはすべて抜けてしまった。

お見舞いに行った際、
緊張している自分がいたが
病室にいた彼女はあっけらかんとしていた。
頭にはニット帽を被っていた。

1学年遅れるが、高校に行きたいと
話した日を覚えている。

抗がん剤治療を終え、順調に体調も回復し
自宅療養に切り替わった。
久しぶりに自宅を訪ねると
人生初ショートヘアの彼女が出迎えてくれた。

最後にプリクラを撮って別れたが
この時のプリクラは最初で最後
彼女がショートヘアで映ったものだった。

それから無事に高校に合格し
念願だった制服を着て
彼女は高校生になった。
1学年遅くはなってしまったが
そんなことは関係なかった。

私は病気を乗り越えた彼女が誇らしかった。

しかし、高校生活も1年経ち
無事に修学旅行を終えた頃
病気の再発がわかった。

あっという間に入院が決まり、
それから彼女が力尽きるまでに
時間は残されていなかった。
私はショートヘアの彼女に会ってから
もう二度とあの見慣れたロングヘアの女の子に
会うことはなかった。

ヘアドネーション
という言葉をご存知だろうか。

ヘアドネーションとは、
寄付された毛髪のみで作られた
メディカル・ウィッグのことであり
病気や先天性の脱毛などで頭髪に悩みを
抱える18歳未満の子どもたちに
無償でウィッグを提供する取り組みである。

私がこの取り組みを知ったきっかけは
病気だった幼馴染である。
彼女ももちろんウィッグを被っていた。

彼女の死から5年が経ち、
私に出来ることは何だろうと考える。

髪の毛の寄付には原則
31㎝以上の長さが必要である。
さらにこれは、ショートヘアのウィッグを
作る際に必要な長さであり、
ロングヘアのウィッグを作る為に
必要な長さの髪の毛は慢性的に不足している。

しかし、31㎝以下の髪の毛でも
キャップ付きの医療用ウィッグの製作に
使われるなど、ただの産業廃棄物になるはずの
髪の毛は少しも無駄にならない。

私が髪を伸ばす理由。
それは、私自身がヘアドネーションを通して
私の幼馴染のように髪の毛を無くした
子どもたちにウィッグを提供すること。
そして、ヘアドネーションをもっと
多くの人に知ってもらうこと。

まだまだヘアドネーションの認知度は
高いとは言えず、賛同サロンも
全国で約3500店舗。

普段、美容室で何気なく切ってもらう髪の毛が
誰かの役に立つかもしれない。
勇気や自信に繋がるかもしれない。

この記事をきっかけに、少しでも多くの人に
こんな取り組みがあることを知ってもらえたら
幸いである。

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