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透明な水底の夢

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詩集 ❘ 十代の透明な悲しみの断片
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#アート

専門書に載っていないことーー但し書き 

専門書に載っていないことーー但し書き 

切り傷の意味を、大人は知らない

私たちだけが、知っている

――言葉ではなく、理屈でもなく、感情だけで知覚していた

  理由をみつけることの難しい衝動の数々

  身体が言葉を見つけるのは、いつだって時間がかかる

専門書に載っていないこと

専門書に載っていないこと

心が痛くて耐えられなかったから
心の痛みを別の場所に移植した

切り傷の意味を、大人は知らない
私たちだけが、知っている

片思いの権利 

片思いの権利 

神様にお願いをする
私の ”好き” を奪わないでください

告げられなくてもいい
届けられなくたっていい
添い遂げられるなんて、思っていない

ただ、今はあの人を好きでいさせてください

神様、お願いです
私の好きを奪わないでください

友情と同情と、その名を隠した感情と

友情と同情と、その名を隠した感情と

心を半分、あのこにあげた
問題をきいて、解決するために

時間も半分、あのこにあげた
悩みをきいて、慰めるために

「だって、親友だもの」という、それは大変に便利な隠れみのだった
実際、親友だったのだから、それはしごく当然なことだった

あのこは、左にいけば問題は解決するというところを
どうしても、右を選んでしまう
わかっていても、いつも右を選んでしまう

――つまるところ、私は肩入れをしすぎたの

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十代の真実/ サイドA

十代の真実/ サイドA

私は死んだ
私たちは死んだ

私たちは恋をしていた
自分の全てを捧げてしまうほどの、大きくて熱い恋

その恋は、叶わなかった
私たちの恋は、叶わなかった

私たちの恋は死に
そして、私たちの一部も死んだ

私たちの心が流した涙は、あふれ、たまり、流れ、
一つの大きな泉をつくった
死んでしまった心のカケラは、そこに棲む

私たちは生きている
生きて人生を進めている

それでも、私たちの悲しみは終わら

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気付かれない失語症 

気付かれない失語症 

思考は、言葉になる前に消える
くちもとまで出かかって、わたあめのように消える

伝えたいことがあるのに
言葉に置き換えることができない

伝えたいことがありすぎて
どこから始めていいのかわからない

誰にも届かない
誰にも届けられない

たまった言葉は湖になり、私はそこに沈んでゆく

水の中ではもう、声を出すことも出来ない

私はいつも私を裏切る 

私はいつも私を裏切る 

本当は知っている
知っていて、目をそらしているだけ

頭の中で考えなければ、言葉にならないから、
そしたら認めなくてもいいから、
だから、見ないふりをしているだけ

簡単なこと

いつだって、こうやって、私は自分をごまかして、
見つめたくないことから注意をそらす

そのせいで、心が思考に裏切られたと思うなんて、ちっとも考えもしないで

感情に関する覚書 

感情に関する覚書 

その正体を知らないふりして
金色の小箱に閉じ込めて鍵をかけて水に沈めた

名前もつけず

本当は空に放ってやるべきだったのだ
鳥のように