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【短歌とエセー】令和5年6月9日

変化する人の心にくたびれて数学ばかり考えてゐる

初句をお題として与えられて詠んだ歌です。
 
5月29日の歌6月5日の歌が、心の奥底からの思いに突き動かされるようにして詠んだものであるのに対し、これは主に知性によって作った歌であると言うことができます。
 
単なる計算力によるスピード勝負などでは決してない、本当の数学の何たるかを自分なりに感じ、数学のことを好きになったのは、微積分を学び始めた高校2年生の頃でした。
 
無限級数を多項式によって近似する手法であるテイラー展開、その特別な場合であるマクローリン展開を用いて、ネイピア数(自然対数の底e)の近似値を求めることができるのを知ったときには、わくわくしました。
 
数学基礎論(数理論理学)の初歩に触れて、「矛盾からは任意の命題が導出される」ことを知ったときや、「ほとんどすべての星は赤い」という命題の否定を正しく言えるようになったときなどには、自分にとって本当に学ぶ価値のあることを学んでいるという感じがしました。
 
これらはいずれも大学受験の範囲を越えた内容でしたが、それまでの算数、数学教育の中では経験することのできなかった自由な楽しさ、数学という学問の喜びを初めて感じることができた体験でした。
 
以来、数学は私にとって良き友であり、掛け替えのない憩いであり続けています。数学においては、誤差もノイズも、経年劣化も考える必要がありません。駆け引きも嫉妬も、心変わりも倦怠も存在しません。数学とは、人の世においては経験できない事象に触れることができる、一種の理想の世界です。
 
真に才能ある数学者には、一定の憧れを抱きます。しかし、私自身は数学を職業にしようとは思いませんでした。

私がためらいなく全身全霊を捧げることのできる価値は真ではなく、ましてや善でもなく、ただ美のみです。どのような数式にも定理にも、音楽と、そして何より生身の女性に対するほどには決して夢中になることはできない、自分という人間の本質を、よく知っていたからです。


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五十嵐創(Twitter & Instagram: @soh_igarashi)

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