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スケッチ

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仙台でカメラマンを夢見る男性、北多川悠(キタガワユウ)は彼女の江美と二人暮らしをしている。 ある日原因不明の病で北多川は視力を失う。 彼が辿る運命とは。 とある楽曲をベースに紡…
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2021年6月の記事一覧

スケッチ⑭

スケッチ⑭

二週間後の午後、東堂さんから電話があり、約一ヵ月後に自費での個展開催の目処がたった話を俺は聴かされた。
近いうちに、という話を東堂さんから事前に聴かされていたものの、余りに軽やかなそのスピード感に内心俺はかなり驚いていた。
東京芸術劇場。
東堂さんが口にしたその会場で、二日間に亘る個展の開催を予定しているとのことだった。
その場所の名前すら聴いた事のなかった俺は、東堂さんからご存知ですかと尋ねられ

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スケッチ⑬

スケッチ⑬

夕飯は、江美が作るベトナム料理だった。
一緒の部屋に住んで生活しているものの、仕事の時間帯がお互いに違うせいですれ違いが続き、テーブルを挟んで食事を共にするのは久しぶりな気がしていた。
自分自身でこんな風に物事に対して久しく感じるとき、江美も同じように感じていることが不思議と多い。
きっと、こうした団欒の機会をずっと静かに求めていたのだろう。
買ってきた野菜や肉をキッチンで調理をしながら、リビング

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