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短編

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思い付いたら書く奴
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記事一覧

『称賛』

 「働かざるもの食うべからず」とはよく聞くが「食って出すもんにも金は払わなならんのだから働け」という理論はどうかと思った。しかしながら良く考えれば、尻を拭く紙も流す水も只じゃない。なるほどと感心したが、職場の先輩としての自己紹介で言うのはどうなんだ。
 変わらんな。田中。

 シルバー人材派遣として駐輪場で働く事になり、なんだか途端に歳を取った気がして仕方がなかった。孫もいるのに何を今更、と半ば不

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誰が駒鳥殺したの?

「ごめんね」

 寝ていたと思った彼女から、突然呟かれる。彼は驚いた様子もなく、ただ寝言かどうか確認する為スマホから彼女の背中に目を移した。

「どうした?」

 彼女が特に動いたわけでもないが、彼は確かに彼女が起きていると確信して話しを聞いた。彼からの優しい問いに、ようやく彼女は動きを見せる。薄い掛け布団を肩までかけ直す、拒否にも似た仕草。

「芝居……続けたかったよね」

 思いもよらない事だ

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愛しの魔王様

小説家になろうからの逆輸入。noteバージョンです。と、いっても短くしただけw

 この世界には2種類の文明がある。持つ者と持たざる者の文明だ。則ちヒトとマモノだ。

 人間は何も持たずに生まれてくる。魔力も知力も体力も。立ち上がるのに1年かけ、親の教えを理解するのに10年かけ、魔法を使える様になるのにさらに10年。多くの者はそこで火を灯せるようになって学ぶのをやめる。なぜなら、もう寿命が半分過ぎ

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百物語『あなたなんて怖くない』

百物語『あなたなんて怖くない』

かーるさんの#note百物語2017.に参加します!
都市伝説が題材なのであまり恐くないかなと思います。

***

 夜の8時くらいだったかな。そんなに遅くない時間。寝るには全然早くて、でも、見たいテレビもなくて。 
 だから、自分の部屋のベットでスマホもってゴロゴロしてたんです。 
 そんな時に、その電話が掛かってきました。 
 ゲームしてる時だったから、誰からか確かめる間もなく出てしまいまし

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綴る

目指す音はグランドピアノの一番高い音。

引き絞られた細い細い線を何度も叩く危うさ。
どんなに長く押さえていても音は伸ばせない。
脳にだけ残る幻の全音符。

 

目指す味はみぞれのカキ氷。

口に入れた瞬間に感じるのは冷たさと水の味。
その奥にある、或いは最後に残る薄い甘み。その甘さを求めて何度も口に入れたくなる。
けれど、けしてお腹は満たさない。

 

目指す色はオフィーリア。

溺れゆくの

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一人劇『深層図書館』

ホリ(一人分だけの上からの明かり)、女性が梯子に腰掛け本を読んでいる。
女性がページを捲る毎に全体も明るくなる。
照明が全て明るくなったところで、女性が客席を向く。

「ああ、いらっしゃい」

読んでいた本を閉じ、本棚に戻す。

「また沢山お酒を飲んだのね」

「駄目よ。夢を見ないほどの眠りは疲れなんて取ってくれないんだから」

女性は少しキョトンとしてから、一人で納得したように何度か頷く。
そし

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弔いの木

 人が死ぬと木に生る。皆が同じ種類の木。

 遺族の思い出を栄養にして、悲しみの氷を溶かした水で、生い茂る。

 それが弔いの木。

 

 

 我が家の庭には2本の木が生えている。

 1本は母。1本は弟。 

 2本並んで立っているが両方発育が悪い。
 母の木は栄養はたっぷりあるが水不足気味。弟の木は水はまだ足りているようだけど栄養不足。

 2本は補いあって、普通よりも長い時間をかけて、花

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進めよ勇者。誰がために。

こちらは、雨の中でひとりさん【勇者は遅れてやってくる】
タキさん
【間に合わなかった勇者】
元木一人さん
【食事】

と引き継がれた、ある勇者の物語の私バージョンでございます。
先にそちらを読まれていると更に楽しめるかと思います。(*_ _)ペコリ

 

「ご〜が〜い! 号外〜! 最新号だよ〜! なんと! ついに! 勇者様が西の領区の魔物の軍団を討ち滅ぼした! 勇者様のご活躍が見たい人は買って

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雪金魚

生まれ落ち、空から落る雪金魚。

自由落下に思えぬ速度で、落ちている。

ゆるり、ゆるり。

尾ヒレが掻けば、こぼれ落ちる六芒星。

それだけが、空へと還る。

舞い上がる欠片を眺めながら、墜ち行く先を見据えてる。

池に入れば消えてしまうの。

小さな小さな鳴き声を聞き届けた両手が差し出される。

冷たいでしょうと笑う両手は、雪金魚には温かい。

水になったら飲み干して。

最後に望まぬ願いを口

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ヒカリのタキ

整頓されているようで、入り組んだビル群を規則正しく歩いて行く。
都会に押しつぶされて生き残れなかった、今はもう低くなってしまったその塔に私は登る。
コツはいるが、その建物は珍しく屋上に上がることが出来た。
ここはまだ誰にも見つかっていない『幽霊の出る廃ビル』になる場所だ。きっと、いつか『そう』なる。自殺志願者なんていっぱいいるのだから。
それまでは私の場所だ。

一番最初の幽霊に私はなるつもりはな

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ジャングルジム

ジャングルジムに登っている。

南側は今はマンション。

ジャングルジムに腰掛ける。

沈む夕陽は優しいのに目に刺さる。

 

遠くを見つめると、聞こえてくるのは踏切の音。

 

【みんないなくなったね】

みんな、なんて名前の人知らない。

【追いてかれたね】

帰る場所は人それぞれだよ。

【随分前に引っ越したあの子は元気にしてるかな?】

してるでしょ。私も元気にしてるんだから。

【誰

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『639KB』

 その時代の人類の持てる力を全て注ぎ込んで造られたAIは、数多の物語と同じく、人類の大規模抹殺を企てた。

 
 
 どのエンジニアにも、例えばアメリカのヒーローにも、怪しい辻褄合わせの占い師にも気づかれる事なく、人類はAIの選別した一万人と、運よく生き残るだろう数千万人を残して滅亡するはずだった。
 しかしさらに計算を続けて、後は[実行]するだけの段階になって、AIは動きを止めた。計画そのものだ

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たいかいいかがさまですか?

たいかいいかがさまですか?

 少し大きめのワイングラスに、塩水を注ぐ。濃度は0.5%程。3cmしかない幼体を観察するのに丁度良い。

 初めは書斎だった筈のこの場所は、小さな水道を付けてしまったせいで、作業の道具や趣味の物が乱雑に置かれた、しかし居心地の良い、秘密基地の様な場所になった。

「早く元気になれよ」

 そっと、細心の注意を払い物音一つさせずにワイングラスをテーブルに置く。
 蒼色のドレスを纏った姿がグラスの底と

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共同制作小説

共同制作小説

 私は一つのnoteに今、新しい筆を下ろそうとしている。
 この喜びはきっと誰にも伝わらないだろう。
 頭の中を刺激する有象無象の者たちが、バケモノへと変わる瞬間を垣間見た驚きと興奮だ。
 彼らの言葉は私を食い殺そうとしてくる。
 或いは、さあどうぞ召し上がれと私を誘ってくる。
 自分で想像していたよりずっと攻撃的な気持ちで私は画面を眺めた。

 私の脳が欲望を満たせと掻き立てる。
 食事もいらな

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