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ことばにできない「エッセイ集」

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ことばにできない。 出せない手紙の束のようなものです。
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記事一覧

塵芥記

塵芥記

転職が決まり、社内での引き留めの呑みも終わってしばらくすると、送別会とも言わない純然たるただの呑みが、続くようになった。
上司が毎晩、顔は知っているが話したことはない社員を引き合わせてくれる。疲れていたり嫌だったりという理由では、極力人の誘いを断らないように決めているが、こうも連夜続くとさすがに、素面の体臭すら酒精を感じる気がし始める。それでも、毎夜赤坂見附の改札で上司の背中を見送り、それからゆっ

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「生死の彼岸 : 祖母はまだ、私を見ているようだった」

「生死の彼岸 : 祖母はまだ、私を見ているようだった」

2021年夏祖母の危篤の報を受けた。入退院する様子を、そしてゆっくりと意識の無くなっていく様子を代わる代わる見舞いに行く兄弟から聞きながら、それでも生前の挨拶を諦める事に決めたのは、私が祖母のことを、あまりよく知らなかったからだろう。

生死の彼岸:祖母はまだ、私を見ているようだった

みちこさん。伊予ばあちゃん。卒寿をとうに越え、白寿も見える祖母は、2022年眠ったまま年を取る。2021年の

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Inktober2021 day11-20

Inktober2021 day11-20

急に寒くなった。吐く息にまだ白さはないが、ここ数日雨が続いたこともあり、帰りの夜道では指先にかじかむ痛みを感じる。また一つ年が終わるのだ、いつのまにか。

一昨年から #インクトーバー  に参加して、3年続けて十月の間毎日絵を描いている。ほんとを言えばもちろん、毎日絵を描くのは難しいから、出来るだけ書き溜めを作って十月を迎えるが、それも中盤に差し掛かると無くなって、日々明日のための絵を描くことになる

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Inktober2021 day1-10

Inktober2021 day1-10

今年もインクトーバーをやっている。ただし、去年は文章も毎日書いていたから、ちょっと今年の方が手抜きだ。
思えば去年は、すさまじいバイタリティだった。noteを始めて、すぐだったということも関係しているのだろうか、2020年の10月は、毎日一時くらいまで起きて、明日の投稿のために絵を描き、仕事の行きと帰りの電車の中では、スマホの画面を見つめて文章を書いた。

認められたかったんだよな、私は。認められ

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不意に来て急にいなくなった

不意に来て急にいなくなった

 昨夜は蒸す様に暑かった。今日ももう街は、コートを着ている人の方が珍しい。冬物のダブルジャケットは、歩き出すとじき鬱陶しい暖気が溜まり、前ボタンを外さなくてはならなくなった。長めのすそが、風になびく。季節の変わり目はいつも、不意に来て急にいなくなる。
先日、表に通じる軒の窓を開け、ぼんやりと外を眺めていると、一羽のモンシロチョウが家に入った。見ていると、そのまま部屋をふわふわと飛び回り、そしていつ

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引っ越しはリヤカーで

引っ越しはリヤカーで

 2021年2月の末の土日は、運良く晴れた。五度目の引っ越しは、終わった後考えれば運の良い事づくめの、暗雲立ち込める嵐のようだった。

27日11時、Aさんとレンタカー屋の最寄駅で待ち合わす。お互い早めに着きすぎてしまった。昼飯に中華を選ぶと、いつものようにレバニラがこんもり出てくる。良い店だ。Aさんは、私が新卒入社した会社に半年ほど遅れて入って来た中途社員だ。我々のLINEにはお下劣な単語しか並

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Day10,「Hope」Inktober2020

Day10,「Hope」Inktober2020

 18の時、幼なじみが交通事故で死んだ。それについては、もう既に書いているが、あの頃インドまで行って、人の生きている意味を探していた。「命の秤」

形のないものほど、探すのには苦労する。形がないんだから探しようもないのは当たり前だが、そんなことも知らず、本や、人の話に転がっていないかと、随分読んだし聞いた。結局、全ての形のないものの答えは、"納得"でしかないと気付いた。どうやって自分の気持ちを納得

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Day2,「Wispy hair」Inktober2020

Day2,「Wispy hair」Inktober2020

 中一で上京したての頃、随分か細かった。心細くもあったが、そもそも変わり者で、繊細で、打たれ弱くて、その上喧嘩っ早いから、とても生きるのに苦労した。精神的なか細さは、そのまま弱さと人当たりの悪さに直結する。他人に対する思いやりを持てる程心に余裕がなく、噛み付くことでしか自分を保てなくなる。
フィリップ・マーロウが、ロング・グッドバイの中で言うとおり、世界は、”強くなければ生きてはいけない、だが優し

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Day1,「Fish on」Inktober2020

Day1,「Fish on」Inktober2020

 魚は嫌いではない。むしろ、好きな方だと思う。見た目がまず美しい。流線型で、砲弾の様だし、鱗は鎧の様だ。魚自体には戦いは似合わないのに、見た目は戦士の様で、泳ぐ彼らを見るとぞくりとする事もある。
味も好きだ。刺身、焼き、蒸し、煮、なんでも美味い。特に刺身は、日本人に生まれたことをいつも感謝しながら食べている。父方の実家は海の近くだったから、魚の食べ方には厳しかった。綺麗に中骨を残して食べることが出

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なんとなく、今ならわかるよ

なんとなく、今ならわかるよ

 人生におけるさようならは、英訳するほどgood byeなことは、頻繁には起こらない。単なるbyeや、後味の悪いbad byeや、二度と会えないforeverなbyeがざらにあり、good byeはたまぁに見る程度だ。というか、good byeと言える相手ならsee you againで済むし、good byeなんて、会話上ほとんど使った覚えがない。だが、あんなに苦しくて、辛くて、寂しかったbad

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独りぼっちの蟻だった

独りぼっちの蟻だった

 生家にはずっと、テレビがなかった。友人が見ている番組の話題に混ざれない小学生はつらい。うちはテレビを買う金はないのかと思った。その頃言った、大きくなったらでっかいテレビを買ってあげる、という台詞は、今でも時々、遠い目の母の口から聞く。金がないわけでは無かったこと、一種の教育のためだったことは、後々分かった。僕はテレビを見ない人間に育ち、今更プレゼントしようとは思わない。それに、既に両親は、あの頃

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夏の終わりの新年報

夏の終わりの新年報

 今日、27から28歳になった。
昔から、誕生日にあまり感慨の無い方だった。特別な祝い方をされた記憶が強くない。ただそれは、感受性の乏しさに端を発すものだろう。思えば両親や兄弟は、いつも懸命に祝ってくれていた。彼らが贈ってくれた釣竿や、靴作りのための洋書や、巨大な包み紙にぎっしりと詰められた卵形の食玩菓子を、手元に残ったものは少ないがそれでも、喜びとともに思い出せる。反対に、贈ったものはあっただろ

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いつか笑える日がくるさ

いつか笑える日がくるさ

 なぁ。見てるか。ラインでも言ったし、顔突き合わせても言ったけど。まだまだ、俺たちには色んな形で成功が待ってるよ。今は馬鹿みたいにつらいけど。なぁ。まだ負けないよな。まだやろうぜ。そう、ビルゲイツにはなれないが、諦めさえしなければ、いつか笑える日がくるさ。

 友人が、います。正直交友関係が狭くて、数えるほどしかいませんが、それでも時々酒を呑んだり、悩みを打ち明けたり、馬鹿笑いする、友人達がいます

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私について私が語る時、私ができること

私について私が語る時、私ができること

 noteに書き始めて、およそ一週間が経ちました。PV数が、全部集めて600程度になりました。多分自分で50回ずつくらい見てるので、本来のPV数は100くらいかもしれません。それでも、10人ずつくらいの人が読んでくれていると思うと、有り難くって飛び上がりそうです。
毎日、ぼんやりと今日は何を書こうか、、と考えている自分がいます。出来ればたくさんの人に読んでもらいたい。心を傾けてくれる人に届けたい。

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