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東京でOLをしながら小説を書いていた頃

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だいすきでだいきらいだった東京。
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#エッセイ

2022.4.29 最後のコメダ珈琲

マンションを出たら雨。3階の部屋まで戻るのが面倒でそのまま歩き出そうとしたけれど、PCが濡れる可能性を考慮し回れ右。

1年間通い続けたコメダ珈琲。値上がりしたメニュー表から、好きだったエッグバーガーが消えている。祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

代わりに頼んだピザトーストが想像の1.4倍でかい。胃の調子が悪い。ナイフとフォークで食べるのは少し恥ずかしい。家だと本が読めないという理由で持っ

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渋谷駅で写真を撮っているのなんて、たぶんあの瞬間は私だけだった

渋谷駅で写真を撮っているのなんて、たぶんあの瞬間は私だけだった

To 1年前の私
CC これからの私

お元気ですか。
突然ですが、今から大切な話をします。

1年後の今日あなたは、あなたがこれから通い始める会社を退職致しました。

自分で考えて決めたことです。

今のあなたに話しても、何ひとつ信じられないかもしれません。

だってあなたは今、自分が「普通」のレールにのれたことに心底安堵しているだろうから。
それだけがあなたの自己肯定感をぎりぎり保ってくれてい

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近況 2022.4.3

近況 2022.4.3

 泣き腫らして10時半。

 私に処理できる問題と、処理できない問題は分けて考えなきゃ、と思い至る。 
 
 血縁のこととか、考えるとおかしくなっちゃいそうなこととか、色々悩みはあるけれど、私が泣こうが喚こうが、どうにもならないことはどうにもならない。

 せめて私は私の暮らしをやるしか、ない。
 
 最近は暮らしが崩壊していた。転職と引っ越しを同時に行うことになり、その準備とこれからの不安で息が

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近況 2022.3.26

わたしは、生きていていい人間なんだろうか。

床で動けないままぼんやり考える。

これは、生きている故の罰なんだろうか。

吐き気と動悸とフラッシュバック、先に耐えられなくなるのは、身体だろうか、心だろうか。

*

アマプラで『ずっと独身でいるつもり?』を観た。その勢いで、『東京男子図鑑』を観た。

しんどかった。圧倒的に東京だった。
東京のことそんなに知らないけど、1年も付き合えばわかることも

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近況 2022.02.27

ご無沙汰しております。
この文章をつくるまでに、随分時間がかかってしまいました。思考を文字起こしするエネルギーを振り絞り、同時に、文章を綴ることへの恐怖感や不信感と闘いながら書いています。

2月に入ってから、心身に支障をきたしていました。頭の中に砂嵐が流れ続け、いついかなる時も休まることができていませんでした。

去年の4月に社会人になり、大好きだった人や場所と離れひとりで暮らすようになって以来

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心臓

この世に掃いて捨てるほど人がいるとして、有り余り食いつぶされるほど会社があるとして、

どうして、ならば何とかなると安心できるだろう?

世の中に人間がいて、会社があって、それとは別の私という人間がいる以上、

世の中の人全員から、世の中の会社すべてから、必要とされない可能性は存在する。

数値化すればとても小さなその確率が、私にはあまりにも眩しく認識できる。その僅かな可能性の光が心を鉛色に染め上

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小説なんて書いている場合ではないのはわかっていた。

会社を辞めたいと伝えて2日、次の働き口を探すための準備も住処探しも退去手続きも役所手続きも保険程度の通院も全部何とかしなければならないのに、小説なんて書いている場合ではない。でも同時に、小説を書かなければ生き延びることなど不可能な気がした。

TOHOシネマのレイトショーをいつまでも予約できない。まだ夜の東京タワーを見ていない。この絶望の正体が

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人身事故

月曜日は人身事故が多い。だから遅延しても始業時間に間に合うよう、一本早い電車に乗る。
遅延した時にかなしくなっていたのは4月までだった、「ただいま遅れが発生しており申し訳ありません」というアナウンスに「誰も悪くないよ」と答えていたのは5月までだった。段々「何でいまなの」と思うようになり、「遅延したので遅れます申し訳ありません」とメールをすることに疲れ果て、そして「私だって飛び降りたいのに」と思うよ

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雪の奥のふるさと

天然のかまくらを横目に歩く。キャリケースとブーツの軌跡を、雪が面白そうに掻き消していく。

真っ白に埋もれた小さなふるさと、
消え入りそうな街の奥に、ひとりで帰った。

年賀状お雑煮おせちオードブル、お笑いの特番と箱根駅伝。年始の諸々が心に流れ込んできて、かつての思い出を呼び起こしては、私を孤独な現実に突き落とす。あたたかいストーブの前であたたためたミルクを胃に流し込みながら、心が空白で満たされて

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「よいお年を」

「よいお年を」

よいお年を、という言葉が好きだ。
一年のかなしみもくるしみも未解決の問題も、すべてゆるされる気がするから。

会社で交わされる「よいお年を」は、程よくお互い無関心で、程よく労りあっていて、程よくあたたかくて、さみしかった。

外に出るとあちこちでひとが酒を飲み吐き散らかし、乾いた吐瀉物を鳩が啄んでいた。

一年分の記憶をキャリーケースに押し込めて帰省した。新幹線から見える景色が白くなっていく、脳裏

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十字架を抱えその先へ

十字架を抱えその先へ

大人になっても文章を書き続けていたら、言葉に言葉をもらうことが増えた。
色んなひとが、色んなところから言葉をくれた。

離れたところに住んでいる親友。別の国に住んでいる友達。あまり話したことのなかった友達。別の領域で表現活動をしている、かつてのクラスメート。

本好きな小学生だった私、すべてに怯えた中学生だった私、表現活動を始めたばかりの高校生だった私、物憂げな文系学生だった私、人生の過程で出会っ

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サンタさんへ

ずっと、なにかをほしいと思うことが苦手だった。

どうせいつか死ぬのに大きなものを所有しても無意味だと思っていたし、学生の頃はそう長く生きる予定がなかったから貯金欲もなかった。時々委託して書いたシナリオやコンビニバイトで稼いだお金は全部、大切なひとたちと会う時間に費やしていた。死ぬときは所有物をすべて持っていけないのだとしたら、人生をあたためてくれるのは素敵な思い出だけだと思っていた。
ほしいもの

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他人だけど優しい大人

今日、スーパーのガチャガチャの前で
小さな姉妹が
小銭を床にばら撒いてしまったのを見た。

おとなたちは少し遠くから
あらあ、という顔をして見ていた。

干渉することに躊躇しているような空気に
何だかすごくかなしくなってしまった私は

散らばったお金を拾い上げ
女の子にそっと手渡した。

ありがとうございます、と言われた。
だから、はいよ、と答えて
その場を離れた。

もやもやしながら帰路につき

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期待

自分にしか期待しない、と軽やかに決めてみた。
傷つくのは期待するからで、裏切りという概念も期待しなければ存在しない。
それでも誰かに、何かに期待していたかった、期待して痛かった。でももう季節は冬だし、痛みに耐え難い気温になってきた。
期待することをやめたら虚無感で死んでしまう気がしたから、全部自分に期待することにした。自分がしたいことに目を向けて、自分が潜りたいところまで潜って、居心地の良いところ

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