雪の奥のふるさと

天然のかまくらを横目に歩く。キャリケースとブーツの軌跡を、雪が面白そうに掻き消していく。

真っ白に埋もれた小さなふるさと、
消え入りそうな街の奥に、ひとりで帰った。

年賀状お雑煮おせちオードブル、お笑いの特番と箱根駅伝。年始の諸々が心に流れ込んできて、かつての思い出を呼び起こしては、私を孤独な現実に突き落とす。あたたかいストーブの前であたたためたミルクを胃に流し込みながら、心が空白で満たされていくのを静かに感じる。

あと何回、私は年始を迎えるのだろうと思う。誰と、どこで、どんな風に。幸せそうなCMが流れてきて、かなしくなってチャンネルを変えた。確かにここで生きていた日々があったのに、どうやって笑っていたのか思い出すことができなかった。

どうか皆いつまでも元気で幸せでいてほしいと願う。私より無理をして生きる私の家族が、どうか私ぬきでも幸せに生きていってくれたらいいと思う。母親が咳をする度心配で仕方ないのに、どんな言葉が救いになるかわからないままでいる。私の言葉はここでは何の意味も持たない。かよわい子供が吐き出した寝言のように、行き場をなくしたまま漂い続けてしまう。

同級生が野球選手になったの、すごいね。
同級生が起業したらしいの、すごいね。

私以外の話題で空白を埋める。私がどこで誰とどんな風に生きているか、生きようとしているか、本質的なことは何一つ話せない。

でも今はこれでいい。
他愛もない話をして母親が笑ってくれるなら、それでいい。

家族なのだということを確認して、幸せを静かに願って、そのままひとりに戻ろうと思う。

ふるさとは遠くにありて思うもの、
そして、

静かに存続していてほしいと
ひとりで夜に願うもの。

眠れない夜のための詩を、そっとつくります。