心臓

この世に掃いて捨てるほど人がいるとして、有り余り食いつぶされるほど会社があるとして、

どうして、ならば何とかなると安心できるだろう?

世の中に人間がいて、会社があって、それとは別の私という人間がいる以上、

世の中の人全員から、世の中の会社すべてから、必要とされない可能性は存在する。

数値化すればとても小さなその確率が、私にはあまりにも眩しく認識できる。その僅かな可能性の光が心を鉛色に染め上げ、同時に呼吸を剥奪する。

脈打つ心臓を口から吐き出して水で洗う。傷だらけのハート型の物体が泣き叫ぶのを遠くから眺める。この傷はいつついた傷だろうか。思い出すことすらできない。夜。

求めよさらば与えられんと唱えた奴も、無理しなくていいという優しそうな文句も、頑張っていれば報われるという標語も、みんなみんな大嫌いだ。

求めようとしたし無理だってしたし頑張ってきたつもりだけど、結局全部無駄になるなら、人生に何の意味があったっていうんだ。

「お前にはあとがないお前にはあとがないお前にはあとがない、楽観的な言葉も慰めもお前には縁がない、お前は世界と縁がないのだよ、とっくに絶縁していたのだよ」

泣き疲れた心臓を飲み込み深夜、崩壊した部屋の真ん中でTwitterを開く。救いようのない海の中、それでも救いを求める愚かさを呪う。

誰も嫌いになりたくなくてひたすら自分を嫌いでいたあの頃、死にたいと思うことをゆるしてほしいと懇願していたあの頃、幼くて無垢でかわいく絶望していたあの頃の私へ、

こっちに来るな。

お前だけは幸せになれ、こんなところで死んではいけない。お前は誰かから愛される人間だ、どこへ行っても大丈夫な人間だ。だから、

お前の代わりに私が死ぬよ。

指パッチンで舞台は暗転、刹那香るは宵の憂

2022.2.16

眠れない夜のための詩を、そっとつくります。