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小説

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ISSS 小説「In seaside,so said.  」—case:谷生瑞希世—

ISSS 小説「In seaside,so said. 」—case:谷生瑞希世—

 波の上に、月の光が散っている。少し風のある夜だった。

 星がよく見える。上を向いて歩こう……そんな歌い出しは、日本で暮らしていれば自ずと浮かぶフレーズだ。
 海のにおいというものは、想像は爽やかなものだが、実際に近づいてみると生き物の匂いがする。というと――やや生臭いということだ。

 谷生瑞希世《たにうみきせ》は深呼吸をした。生臭いとわかっているが、どうも癖になる。まだ洗剤の香りが残る生乾き

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【創作】蚊がヴァンパイアだったらギリ許せる話ノベライズ 年越し!バックトゥザフューチャー編

【創作】蚊がヴァンパイアだったらギリ許せる話ノベライズ 年越し!バックトゥザフューチャー編

自創作で描いてる「蚊がヴァンパイアだったらギリ許せる話」のノベライズを書いたので宣伝です。twnovelを元手にコミカライズして、漫画オンリーで本編を進めた創作のノベライズオンリー話です。 ややこしいね。
詳しい敬意は下の記事。

本編漫画はpixivに書いてます。よければ読んだって〜。

そんなわけで。

ノベライズの本編をちょっぴりお届け。サンプルが読めます。pixivの方でもあげてます。

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【小説】おもいで

昔応募した作品供養。R18文学賞に送りましたがあんまりR18じゃなかったですね…

 三十人で事足りたはずの宴会に、飛び入りで六人も増えた。合宿が終えた頃には皆打ち解けるのだから、こうなると予想して、四十人で予約しろ、といっておいてよかった。
 深山英治はひとりごち、声量がどんどんあがっていく居酒屋を見渡した。経済ゼミの教授と、民俗ゼミの教授が隅で酒を注ぎあっている。
 過疎化の進む地方に若者を呼

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【SS画像】水族図書映画館

【SS画像】水族図書映画館



Twitter別垢での文章の印象アンケートで票が多かったものをモチーフに書きました。
水族館も図書館も映画館もいきたい。

【小説】リリの電話

【小説】リリの電話

リリの電話

 白山リリは町でいちばん嫌われている女の子だ。果樹農家がいくつか並ぶ山の付近の、誰が見てもボロ小屋としか思えない小さなアバラ小屋に住んでいて、片親で父親は酒浸りで、職も就かない、町の中でも有名な鼻つまみものだ。
 それなのに、リリはクソがつくほど美少女だ。
 亜麻色の長くて軽やかな髪、長いまつ毛に囲われたガラス細工みたいに透き通った瞳。白い肌に小さくて細い顎。身長は中学三年生らしい平

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【予告】小説を公開します

【予告】小説を公開します

いま書いている小説が普通に一万字超えそうなのと、一回有料noteにしてみたかったので、100〜300円くらいで公開できたらしたいなと思っています。うまく行かなかったら普通に無料です。
小さい町から出たい少女が町のはなつまみもののクソ貧乏なクソ美少女を友達になるというていで利用しようとして近づく話です。

以下サンプル

よろしくお願いいたします。

【おはなし】ヤギと結婚した王子

 ある豊かな国で、王子様の婚礼が行われた。
 王子は親族の若者たちの中で、最も結婚が遅く多くの民から心配されていた。
 これで安心国も世継ぎも安泰だと、民衆は喜んだが、だれもその妃を見たことがない。それだけが気がかりであったが、偉い人間の顔など、誰も覚えてはいないので、大した問題にはならず、かわりに「どんな美しい人なのだろう」と空想論議が多く交わされた。
「きっと雪のように肌が白く、絹のような髪の

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【小説】いずれも の 焼き芋

いずれも

   焼き芋

 真昼の白い光が、理科室の窓辺に差しこむ。まだ暖房が入る寒さではないため、薄ら寒い教室を温める眩しい熱に目を細め、今高涼夜は眠気と戦っていた。
 黒板を滑るチョークの音。昼食済みの午後の眠気。少し掠れた、低い気怠げな先生の声。なんと睡眠に適した環境だろう。
 少し走って目を覚ましたい。無意識のうちに足をばたつかせ、涼夜の意識は次第に一〇〇メートルのコースを走る。
 もっ

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【小説】迷彩

 渡り廊下に続く扉を開けると、熱気が身体にまとわりついた。夏の日差しはあまりにも強く、今日の最高気温は今週で一番高い。肌に湧く汗は気にしても消えるわけではない。そもそも、考えることも嫌になる、この暑さなのだ。
 蝉の声は少ないが、渡り廊下は中庭の木々に囲まれている。すぐそばでアブラゼミが、力の限り鳴いていた。
 一体あの小さい体躯のどこをどう振るわせれば、こんな声が出るのだろう。
 竹町英司は本を

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【小説】飛来する夜

 わたしが目を覚ますときは、いつも夕陽が隣にいる。
 今日も保健室。重い瞼の下で目を動かすと、わたしの手を握る夕陽と目があった。
 外は薄暗い。彼女は電気もつけずに、わたしの目覚めを待っていた。
「おはよう明衣」
 彼女はわたしの名前を呼ぶ。きっと両親よりも彼女のおはようを聞いている。
 重い体を起こし、夕陽の肩にもたれかかる。セーラー服の襟の、少しごわごわとした感触に顔を埋める。夕陽の柔らかなボ

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【小説?】小説小説

小説小説

題名

 小説内の事実、かつ簡潔で的確な一文が入る。
 追随する世界観、主人公や登場人物の動作が語られる。
 三人称であれば視点を移すことが可能。一人称と三人称は混ぜない。
 最初は一人称の方が語りやすい。視点が固定されているから、目に見えるものを書けばいい。
 説明をするなと言われるが、説明をしなければいけないこともある。文脈の中で、不自然でないように。
「セリフの中では、説明をしな

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【小説】殻箱

 目が覚める時は、いつも深夜だ。
 キッチンのテーブルに突っ伏したまま、薄暗い部屋を瞬きもせずに見つめる。時計の音がうるさい。振り子時計がいい、ときみが言って、アンティークショップで買ったものが、夜中の二時を告げた。
 最近はよく、眠れていない。
 首を少し上げると、倒れた缶ビールといくつか開いた睡眠薬が入っていた空の包装が、ピントの合わないままそこにある。
 それのすぐ向こうに、小さな紺色の箱が

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【小説】PIP

 ベランダに出ると、もう日が傾いていた。薄暗い青が空に広がっている。何だかんだ見慣れた景色だが、改めて眺めると感慨深い。煙草を一本雑に取り出し、比住慶太郎は考えた。

 重たい黒髪を煙とともに吹き上げ、少し蒸した風に乗せる。

「なあ、煙草の箱増えてない」

 ガラス戸を開け、同居人の由井要が額の汗を手の甲で拭きながら顔を覗かせた。

 明るい髪色をした、すっきりとした好青年というような印象を持つ

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ほんものの星

ほんものの星

 きみに憧れたことを許してほしい。

 夜の、強すぎる街灯の光に照らされたつまさきを見つめながら、わたしはそう思った。
 急に立ち止まってしまったことに、きみは気づかないで進んでいる。足音でわかる。でも、歩みはゆっくりで、たぶん今気づいたのだ。でも戻ってこようとしない。わたしは顔をあげない。
 なんだか、どうしてか、顔をあげたら泣いてしまいそうな気がする。
 きみに出会ってからいつ

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