富士川三希

長崎県出身。ふじかわみきです。 『星々』や『敗者復活文学賞12、13回』や『高橋源一郎…

富士川三希

長崎県出身。ふじかわみきです。 『星々』や『敗者復活文学賞12、13回』や『高橋源一郎の小説でもどうぞ』などに参加中。 こちらにも5分程度で読めるものを載せてます→https://novel.daysneo.com/author/mikifujikawa0/

記事一覧

【1分で読める小説】#シロクマ文芸部「かき氷」『ゴーラーになる君へ』

かき氷が好きでよく食べる人、全国のかき氷屋さんをまわったり、SNSにあげたりする人のことを、「カキゴーラー」略して「ゴーラー」と言うらしい。   十年くらい前から…

富士川三希
2か月前
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【1分で読める小説】#シロクマ文芸部「紫陽花を」『彼女はこちらを見ない』

紫陽花を見つめる彼女の瞳がこちらに向けられることはない。おそらく永遠に。僕を見ることはあっても、僕を見ているわけではない。そんなこと、結婚する前から解っていた。…

富士川三希
3か月前
9

【5分で読める小説】#シロクマ文芸部「金魚鉢」『君に広い世界を』

金魚鉢が大小二つ、口にフリルが付いた昔ながらのガラス金魚鉢だ。それが、今も実家のリビングの隅っこに仲良く並べられている。中には一匹ずつ金魚が飼われている。 晃太…

富士川三希
4か月前
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【1分で読める小説】シロクマ文芸部「変わる時」『引き返せない気持ち』

変わる時は一瞬だ。気が付いたら変わっていて、いつからそうだったのか、元からそうだったのではないかと思いを巡らせ無駄に終わる。 駅のロータリーに出ると、併設された…

富士川三希
6か月前
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【3分で読める小説】シロクマ文芸部「始まりは」『魂の守護者』

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 始まりは、一冊の本だった。 書類整理がひと段落した笹城アンナは、研究室を出て足早にラウン…

富士川三希
6か月前
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【1分で読める小説】シロクマ文芸部「梅の花」『春待ちこがれ』

「梅の花のほうが好きだわ、わたし」 何と比べて、とは彼女は言わなかったけれど、その視線は蕾のままの桜に注がれている。 「長い間咲いているんですもの」 その言葉の…

富士川三希
7か月前
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【5分で読める小説】シロクマ文芸部「布団から」『はい、出来上がり。』

布団からもぞもぞと右手を出し、ペタペタとヘッドボードを触る。ようやく右手が体温計を見つけた頃には、どっと疲労感が溜まっていた。 脇に差し、しばし低い天井を見つめ…

富士川三希
8か月前
11

【10分で読めるインタビュー記事】小学生ゴルファー・瀧田琥白(たきたこはく)くんの軌跡

2023年10月22日(日)に行われた、『第17回JLPGA全日本小学生ゴルフトーナメントinふくしま』高学年男子の部/個人の部で、小学6年生の瀧田琥白くんが優勝した。 試合では…

富士川三希
8か月前
11

【5分で読める】#シロクマ文芸部「振り返る」『風が吹く』

 どこかに避暑地はないものかと香苗は振り返った。こめかみから流れ落ちる汗を拭う。  校庭を囲う様に生えた木々の陰は、応援に駆け付けた保護者たちで満員だった。加え…

富士川三希
9か月前
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【1分で読める小説】#シロクマ文芸部「かき氷」『ゴーラーになる君へ』

【1分で読める小説】#シロクマ文芸部「かき氷」『ゴーラーになる君へ』

かき氷が好きでよく食べる人、全国のかき氷屋さんをまわったり、SNSにあげたりする人のことを、「カキゴーラー」略して「ゴーラー」と言うらしい。
 
十年くらい前からそんな呼び名が付いたらしいけれど、僕の家での十年前ってどんなだったっけ。
 
風鈴が揺れる音と一緒に、少しだけ風が吹き込んできていたし、テレビからは、ヒットした時の金属バットの高らかに澄んだ音が聞こえていた。

お腹の下からはガリガリ、と

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【1分で読める小説】#シロクマ文芸部「紫陽花を」『彼女はこちらを見ない』

【1分で読める小説】#シロクマ文芸部「紫陽花を」『彼女はこちらを見ない』

紫陽花を見つめる彼女の瞳がこちらに向けられることはない。おそらく永遠に。僕を見ることはあっても、僕を見ているわけではない。そんなこと、結婚する前から解っていた。

「お滝さん」

僕は縁側に座る彼女の横に座った。微妙な距離を開けて。小雨を降らす雲の隙間からわずかに日の光が庭に射しこんでいて、空色の紫陽花に当たっている。

ふと、彼女が口を開いた。
「仕方のない人よね。私の名前を紫陽花につけるなんて

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【5分で読める小説】#シロクマ文芸部「金魚鉢」『君に広い世界を』

【5分で読める小説】#シロクマ文芸部「金魚鉢」『君に広い世界を』

金魚鉢が大小二つ、口にフリルが付いた昔ながらのガラス金魚鉢だ。それが、今も実家のリビングの隅っこに仲良く並べられている。中には一匹ずつ金魚が飼われている。

晃太郎がまだ高校生だった頃、小学生だった妹が祭りで金魚すくいをして持ち帰った二匹なのだが、突然持ち帰ったものだから水槽が家にあるはずもなかった。しかし、昔使っていたような痕跡のある大小の金魚鉢を、父親が家の押入れだか庭の倉庫だかから探して来た

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【1分で読める小説】シロクマ文芸部「変わる時」『引き返せない気持ち』

【1分で読める小説】シロクマ文芸部「変わる時」『引き返せない気持ち』

変わる時は一瞬だ。気が付いたら変わっていて、いつからそうだったのか、元からそうだったのではないかと思いを巡らせ無駄に終わる。

駅のロータリーに出ると、併設されたパン屋から香ばしい匂いがした。とたんぐぅと小さくお腹が鳴る。
一本早い電車で来たし、買っちゃおうかな。

いや、と思い直し、直樹は先にスマートフォンのマップアプリで涼花に教えられた住所を確認した。

D大学前駅南ハイツ。

左手のロータリ

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【3分で読める小説】シロクマ文芸部「始まりは」『魂の守護者』

【3分で読める小説】シロクマ文芸部「始まりは」『魂の守護者』

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

始まりは、一冊の本だった。

書類整理がひと段落した笹城アンナは、研究室を出て足早にラウンジに向かった。本日三杯目のコーヒーになるが気にしない。

コーヒーを一口飲み下し小さく息を吐きだすと、窓の外に目をやった。木々の緑が眩しく輝き、数人の学生が笑いながら陽の下を歩いているのが見える。窓の外と内では流れる空気と、時間さえも違

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【1分で読める小説】シロクマ文芸部「梅の花」『春待ちこがれ』

【1分で読める小説】シロクマ文芸部「梅の花」『春待ちこがれ』

「梅の花のほうが好きだわ、わたし」

何と比べて、とは彼女は言わなかったけれど、その視線は蕾のままの桜に注がれている。

「長い間咲いているんですもの」

その言葉の割に、彼女は桜から視線を逸らさない。いつ花開くのかじっと待っているようでもあるし、そわそわしているようでもある。ほんの少し諦めも交じっているようにも感じるけれど、はて、何に対する諦めなのか。

「とても暖かい春がありまして、この姿でお

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【5分で読める小説】シロクマ文芸部「布団から」『はい、出来上がり。』

【5分で読める小説】シロクマ文芸部「布団から」『はい、出来上がり。』

布団からもぞもぞと右手を出し、ペタペタとヘッドボードを触る。ようやく右手が体温計を見つけた頃には、どっと疲労感が溜まっていた。

脇に差し、しばし低い天井を見つめる。ピピピ、と鳴った体温計の表示を確認しておれは溜息をついた。一日寝てようやく三十八度。

ベッドから出たくない。

けれど小さく、ぐぅとお腹が鳴った。カーテンの隙間から射しこむ西日が眩しくて顔を顰める。

大学生になって初めて風邪をひい

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【10分で読めるインタビュー記事】小学生ゴルファー・瀧田琥白(たきたこはく)くんの軌跡

【10分で読めるインタビュー記事】小学生ゴルファー・瀧田琥白(たきたこはく)くんの軌跡

2023年10月22日(日)に行われた、『第17回JLPGA全日本小学生ゴルフトーナメントinふくしま』高学年男子の部/個人の部で、小学6年生の瀧田琥白くんが優勝した。

試合では両親がハラハラと見守る中、ピンチをピンチとも思わない堂々としたプレーで、7アンダーという2位に3打差をつけるスコアをマークした。
彼は常に先の事を考えたプレーしている。その日の自分のコンディションに合わせてクラブを選び、

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【5分で読める】#シロクマ文芸部「振り返る」『風が吹く』

【5分で読める】#シロクマ文芸部「振り返る」『風が吹く』

 どこかに避暑地はないものかと香苗は振り返った。こめかみから流れ落ちる汗を拭う。
 校庭を囲う様に生えた木々の陰は、応援に駆け付けた保護者たちで満員だった。加えて、木陰を形成する葉はぴくりとも動かない。

 体育祭である今日は、昼前にも関わらず容赦ない日差しが降り注ぎ、生徒たちの体力を削っていた。香苗が控えているテントの下でも、生徒がぎゅうぎゅう詰めの中、体操服の襟元をつまんで揺らしたり、手で顔を

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