後悔だけの人生はイヤだから、翌日すぐにまたワークマンに母と行った
最初に言い訳する。車の運転が大キライで大の苦手である20年以上ペーパードライバーのゴールド免許のわたしは、最近、膝を壊した母の代わりに、片道30分歩いて食料の買い出しに行く覚悟であった。
しかし、母は、少し運転するくらいなら、膝は大丈夫だという。
なんだかんだで、結局、その言葉に甘えて、70代の母が運転する車で、地元の田舎の大型スーパーに行った40代のわたしである。
当座の食料をしこたま買い込み、それらを車に運んだ。
すると、母は
「ワークマンも見たい」
と言い出した。
あのワークマン様が、有りがたいことに、数年前にこんな田舎にも進出してくださっているのである。
ワークマンの機能性は自然に厳しい田舎にピッタリだし、それでいて、田舎ではなかなかお目にかかれない高いデザイン性に感動していた。
母は女性にしてはかなりガッチリした体型だから、同世代の女性の服の型が合わない。かと言って、男性の服だと腰がくびれた型でなかったり、デザイン的にも合わなかったりする。
その点、ワークマンは女性の服も、男女兼用の服も、母の体型や雰囲気に合っていると思ったのだ。
すぐに母に勧めると、母もすぐにワークマンが大のお気に入りになった。
この日は、ワークマンの店内を軽くザッとまわり、冬用のジャケットコーナーにきた。
「自分ではどんなデザインが合うかわからないんだよね」
そういう母に、白地に墨汁を吹き掛けたようなジャケットをすすめた。
いちばん手前にあるLサイズを取って母に渡すと、早速、全身鏡の前で母は試着を始めた。
母の表情から、気に入ってるのが伝わってくる。もうこれは、買うんだろうなぁと思っていたら
「ちょっとキツイ」
と言って、母はジャケットを元の場所に戻すと、アッサリとワークマンをあとにした。
(ほんとうは気に入らなかったのかな?)
大型スーパーの駐車場に戻る途中で、わたしはなんの気はなしに母に話しかけた。
「買おうかどうか悩んでいる物があって、でも、買わなくて。後日、どうしても欲しくなって、その店に行くと、もうその商品はないの。でも、自分には縁がなかったって、キッパリ忘れられる」
すると、母が
「わたしはダメ。すごく落ち込んじゃう。あのジャケットも何日後にワークマンに行くと思う。でも、売り切れていたら、かなり落ち込む。たかだか1,900円なのに、考えすぎちゃって即決できない。貧乏性はこういうときイヤになっちゃうね」
わたしは慌てて
「今すぐワークマンに戻ろう」
と言ったけれど、母は首を縦に振らなかった。母はこうなったら、絶対にお店に戻らないし、たとえ戻ったとしても、商品を買わないのだ。
自宅に戻り、夕飯を作り、二人で食べて、お風呂に入り、布団に横になった。
電気を消して布団の中で目を閉じると、ワークマンとジャケットと母の後悔が、頭の中をずっとグルグルまわっていた。
(母は後悔してばかりの人生だったんだな。気がつかなかった。そう言えば、冬用のジャケットはもう10年くらい同じのを着ている気がする)
「よしっ!」
わたしを決意をし、眠りについた。
翌朝、目覚めて朝食をとっていると、母に告げた。
「ワークマンに歩いていく。往復1時間で戻ってくるから」
母に内緒で買ってプレゼントをしようと思ったが、サイズが合わなければ意味がない。
「わたしも行く」
母の予想外の返事に驚いた。
午前中のうちに、またしても母が運転する車でワークマンに行くと、果たして! 昨日のジャケットはまだ売り切れてはいなかった。
昨日よりも入念に試着をし、冬はジャケットの中にたくさん服を着るだろうからと、少し余裕を持たせて3Lサイズを買うことにした。
(母に内緒で買わなくて良かった)
と思った。3Lサイズを買う発想は、小柄なわたしにはまったくなかったからだ。
贅沢は悪だと思ってしまって、物を買ったら買ったで落ち込む母であるが、家について、マジマジとジャケットを見つめる表情からは、安堵が感じられた。
「これで、落ち込んだり、後悔したりしないで済む。ありがとう」
うぬぼれだろうが、少しだけ母に親孝行できたと思った。
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