【ハーブ天然ものがたり】ひよどり花
キク科ヒヨドリバナ属
札幌でくらしていたころ、冬のあいだはベランダにみかんや柿やキウイなんかをおいて、ヒヨドリたちをよくお招きしていました。
夏のあいだはまったくやってこないヒヨドリたちも、北国のながい冬を越すために、朝もはよからヒーヨヒーヨとベランダにきてはごはんの催促をしていたものです。
ヒヨドリが鳴く季節に花を咲かせることから、ひよどり花という和名がつけられたキク科ヒヨドリバナ属のハーブは日本の在来種で、北海道から九州まで、田舎道や山道、林道に自生しています。
ヒヨドリバナ属のひとつに秋の七草にかぞえられた藤袴(表題写真)があります。
ひよどり花もそうですが、藤袴の茎葉を摘んで乾燥させると桜の葉っぱのような香りがします。(桜餅の香りといったほうが想像しやすいでしょうか)
花が藤色で花びらのカタチが袴に似ていることから「藤袴」の名がついた説が有名ですが、摘んだのち乾燥させるとほのかな桜葉の香りを放つことから、藤花香含草とか薫袴と呼ばれ、そこから藤袴になったという説もあります。
藤袴の学名は Eupatorium japonicum、種小名にジャポニカがつかわれていますが、古い時代に中国からはいってきて帰化した花といわれています。
ただし日本書紀に「蘭」の名で記載されているのは藤袴という説もあり(ヒヨドリバナ属の総称という説もあり)、もともと在来種として日本国土にも自生していたという考えが有力になりつつあるようです。
古名の蘭はあららぎと読まれ、植物界の巨大クラスターであるラン科が学術的に整理・認知される以前は、藤袴をあらわす文字でした。
蘭は「香りよい草」という意味でつかわれていたようです。
藤袴がはなつ桜の葉っぱらしい香りはクマリンと呼ばれる成分で、日本から遠くはなれた中南米に自生するマメ科植物、クマルの木の実から得られることが発見され、香り成分「クマリン」の語源になりました。
クマルの木の別名にトンカがあり、木の実はトンカビーンズとも呼ばれています。
木の実(豆)から抽出された香り成分は桜の葉っぱの香りがする精油として「トンカビーンズ」の名で市販されており、過去になんどか使用したこともあるのですが、桜のほどよい香りを表現するのはむずかしかったことを覚えています。
桜の香りはときおりふわりと鼻をかすめるくらいがちょうどよい、わびさびの極み構成要員。
たとえば桜の香りだけが強烈に充満している空間で香りと出あったとしたら、嗅覚はむせかえり、おどろき疲れて辟易し、一生桜餅のおいしさを味わえなくなってしまうかもしれません。
香り成分クマリンは長期使用や大量摂取すると肝毒性の「懸念がある」と定義されているので、トンカビーンズの精油など使用する場合は、ほのかに香るていどにおさえるのは理にかなっているわけです。
ヒトの嗅覚のしくみはまだまだ発展途上でわからないことだらけですが、クマリンの香りは植物が毒にも薬にもなることを明示し、ほんのちょっとなら良薬、とりすぎたら劇薬になることを香り具合で示唆してくれているのかな、と思うことがあります。
漢方では「蘭草」という名で、藤袴は活用されています。
むかしの日本では、野に咲く藤袴を摘んで匂い袋にしたり、浴湯にいれて香りをたのしんだり、洗髪の仕上げにつかってきた歴史があるようですが、現代日本では野生種の藤袴は消え去りつつあります。
陽あたりのよい川岸や湿地にたくさん自生していた秋の七草も、いまでは環境省のレッドリストにのり、準絶滅危惧種に指定されています。
かすかな気配、ほのかな香り、おぼろな印象。
フシギなことに消えゆくものほどヒトのこころにふかく刻印され、深層心理の奥の院に鎮座して、するとこんどは言動や行動におおきな影響をあたえるようになると感じています。
都市化が進み、里山システムがなくなって、さらに氾濫をおさえるために川岸を整地する工事が進むことで、日本国土から消えゆく植物はたくさんありますが、藤袴をはじめとするハーブたちは逆にヒトのこころに栖をうつして、みえないフェイズから強大な影響力を発揮しているのかもしれません。
いつかどこかでみた野の風に吹かれる藤袴の群生は、「とくべつな記憶の貯蔵庫」にしまいこまれ、ふとした瞬間に表層意識にあらわれては、自然と背筋をシャンとさせ、それでいてたおやかな桜の香りにつつまれるこころの平安を、その場にもたらしてくれると感じています。
よき父「エウパトル」と賢者ケイローン
ヒヨドリバナ属(Eupatorium)はアメリカ、アジアにも自生種があり、そのうちガーデンハーブとして有名な種にスィートジョウパイがあります。
和名でムラサキヒヨドリバナとよばれ、おおきなものでは2メートル越えすることもあるので見つけやすいです。
ジョウ・パイはアメリカ先住民の名前で、アメリカでチフスが流行した折にこの植物をつかって人々の治療をした先人から名づけられました。
カマシア(ひなゆり)や松明花、月見草など、アメリカ大陸先住民族がのこしてくれた植物の叡智は、ヒトにとっての効き目とか美しさの領域をはるかにこえて、地球上に創造されたいのちにはそれぞれに役割があり、生育する場所によってとくべつなちからを得ることができる、という地球法則をつたえるものだと感じています。
ある植物(あるいは動物でも)をぼんやりながめていると、そのいのちに宿るとくべつなエネルギーを感じられることもあり、いちど「それ」にふれると、はだしで大地に立ったり、風にふかれてねっころがったりするときに、「それ」のとくべつな気配がかすかに足のうらをくすぐったり、からだを通りぬけていったなぁ、と思うことがあります。
アメリカ先住民の人々は創造物が教えてくれるレッスンにこころをひらいて生きることを自分にゆるし、動物や、植物や、石や風や大地がはこんでくる、かすかな気配からいろんなことを教えてもらっていたのだろうな、と。
そして気配はかすかなものであるほど、「とくべつな記憶の貯蔵庫」にしまいこまれるのではなかろうか、と。
ギリシャ語でよき父を意味するEupatoriumは、ヒヨドリバナ属の学名ですが、その語源は紀元前のポントス王国をおさめた王さまの名前です。
母親との王権あらそいを経て、ポントス国王になったミトリダテス6世エウパトルは、ハーブを熟知していた王として有名です。
国とり合戦と王権をめぐる骨肉のあらそいが常だった時代背景のせいか、とくにハーブの毒部分にフォーカスされたものが記録にのこされています。
父王がなくなった幼少期に、権力あらそいにより母親に監禁されていのちを狙われたミトリダテス6世エウパトルは、王宮を逃亡して数年間を荒野で過ごした、という記録がのこっています。
荒野には野草という毒にも薬にもなるお宝が満載で、ハーブの研究をするにはうってつけだったのかもしれません。
BC132 - BC63を生きたと記録されているエウパトル。
古代ローマの博物学者で自然界を網羅する百科全書「博物誌」を書きのこしたプリニウス(23年 - 79年)によると、エウパトルは支配していった国でつかわれている22言語すべてを駆使できるほど記憶力がすぐれた人物だったといいます。
もしも見聞したもの、体験したことすべてを忘れることができなくなったら、この地上世界で生きるためのバランス感覚を磨くのは、想像を絶する苦行みたいなものになるかもしれません。
母親との王権あらそいによるいのちのやりとりを、まだ幼く記憶力に秀でたエウパトルはどのように消化したのでしょうか。
からだにもあたまにも、そしてこころにも、いちどに咀嚼・消化できる許容量があり、そのときに受けいれられる(腑におちる)分以外は、のみこんでしまったが最期、消化できずに身のうちを傷つける毒と化す場合があります。
ゆえに忘れることでこころを防衛して均衡をたもつ手法は世の常と思いますが、じつのところ忘れていることなどひとつもなく、すべては「とくべつな記憶の貯蔵庫」に保管されているだけなのかもしれません。
身のうちで毒と化したものは、やがて解毒できるほどにキャパが広がったときにようやく消化完了となりますが、解毒剤の材料は自分のこころに巣食う闇のなかにあり、それを卑下したり裁いたりせずに、受けいれ、ゆるし、手放すことで、自家製の薬になってゆくのではないかな、と。
ふだんはすっかり忘れている「とくべつな記憶の貯蔵庫」には、かすかな気配やほのかな印象とともに、消化できない毒も保管されているのだろうと感じています。
すべての記憶と表層意識がオープンになるほど、あらゆる体験や知識がとどこおりなく有機的にむすびつけられて、消化力=循環力も活発になります。
12月の冬至まで地球からみた太陽は射手座を移動中ですが、射手座の神話に「半人半馬の賢人ケイローンはヘラクレスがまちがって放った毒矢に苦しみ、ゼウスに死ぬことを請願して天にあげられ星座となった」というのがあります。
ミトリダテス6世エウパトルはハーブに熟知することで毒への耐性をもち、毒をあおってもすぐに死ぬことができず苦しんだと記録にのこされていますが、それはまるで死なない程度に肉体を傷つけながら、生の矛盾(毒)を消化できてしまう、賢者ケイローンの神話元型をいきた物語のようだと感じています。
もうひとつのエウパトル
「ハーブ学名語源辞典」には、学名 Agrimonia eupatoria、(バラ科のアグリモニー、和名で西洋金水引)の種小名は、現在のトルコ北部にあったポントス国の王、ミトリダテス6世の名が語源だと記されています。
古代ローマの博物学者、プリニウスの時代から医療効果と魔力をもちあわせているハーブとして伝承されてきたアグリモニーは、イギリスの医師であり細菌学者、ホメオパスのエドワード・バッチ博士(1886 - 1936年)が考案した、バッチ・フラワーレメディ(38種の野生の花を使用した代替療法)に選ばれたハーブのひとつです。
バッチ・フラワーレメディでは自身のなかにある光と闇を分裂させ、光の側面だけにフォーカスして闇の側面を統合できずにいる性質に、アグリモニーが助けになるとあります。
エウパトルの名がどうしてアグリモニーの種小名につかわれたのかは調べきれませんでしたが、毒の制御に精通したミトリダテス6世は、ヒトのこころに巣食う闇の材料を調合することで、万能の解毒薬が完成することを知っていたのかもしれません。
植物界のなかには「毒を以て毒を制する」ことで、ゆたかに花開き結実して後続にいのちをつないでいく種はたくさんあります。
ハーブに精通したエウパトルにとって、そうしたいのちの在りようはごく自然なものだったのだろうな、と。
毒にも薬にもなる植物のエッセンスは、霊魂と地球人格者のあいだをつなぎ、ブロックや滞りをことごとく消化する媒介者なのかもしれません。
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