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今聴きたいmonobright/MONOBRIGHT/モノブライト

個人的に待ち続けてきたモノブライトのサブスク配信が2021年の桃の節句に解禁。首謀者・桃野陽介(Vo/Gt)の名から取られたバンド名であり、これまでも3月3日にイベントすることもあったので、3月サブスク解禁と告知された時から今日の解禁を予想して準備してきたこの記事。全アルバムとその歴史を振り返り、今聴きたいモノブライトの隠れた名曲を15曲を挙げてます。


止まらない変態、その歴史

①結成~『monobright one』
2006年に北海道で弾き語りを中心に活動していた桃野陽介が、同郷のミュージシャンであった松下省伍(Gt)、出口博之(Ba)、瀧谷翼(Dr)とともに結成したmonobright。翌年上京、そして7月には1stシングル「未完成ライオット」でメジャーデビューという驚くべきスピードでシーンに現れた。白ポロシャツに全員メガネという当時の出で立ち、ゼロ年代のロックシーンで共有されていた"文化系かつややナード"な印象で売り出そうとしていたんだろうなぁ。

そういったソニーによるイメージ戦略をよそに好き勝手やった初期の総決算が『monobright one』。元々はXTCの『Black Sea』をリファレンスとして始まったバンドゆえ『~one』にも軽快なダンスロック、ニューウェイブ的な意匠が施されている。加えて、桃野のアクの強い歌声と歌謡曲の色が濃いメロディライン、性衝動や若き苛立ちを独特の語感で綴る歌詞が強烈なオリジナリティになっていた。ベボベとルーツは近いが、青さの角度が違う印象。



②シーンど真ん中への侵攻~『monobright2』
チャートアクションは奮っていなかったが、溢れ出る可能性をレーベルと事務所が支えた結果、2008年からはタイアップ曲も多く生まれる。映画「アフタースクール」のエンディングに「あの透明感と少年」、アニメ「銀魂」のオープニングに「アナタMAGIC」。2009年年明けにはMUSIC STATIONにも出演し、演奏終わりに桃野が繰り出した珍奇なアクションによってタモリさんが失笑する場面も。今で言えば井口理くらい話題になって良かったはず。

その結実となった2009年4月の2ndアルバム『monobright two』はアルバムとして最大のヒット。1stから引き継がれたエロと若さに加えてより分かりやすいポップさも顕在化し、また中盤にはピアノ弾き語りによる温かな卒業ソング「別の海」など盛り込んだ結果、聴き心地はかなり忙しなく、ごちゃっとしている。つまり、monobrightの旨味をこれでもかと堪能できる。最初に聴くにはうってつけの1枚。ライブ定番曲として残り続けた曲も多かった。



③白ポロからの脱皮~『ADVENTURE』
デビュー時からのトレードマークだった白ポロシャツを脱ぎ捨てて以降、ホーンセクションを取り入れた「JOY JOY エクスペリエンス」や、初のドラマタイアップ(「サムライ・ハイスクール」主題歌)「孤独の太陽」など音楽性を少しずつ広げるシングルをリリース。2010年2月にその先1年以上のスケジュールを発表して期待を煽るなど、突飛な活動方針も相変わらず。4月リリースの「英雄ノヴァ」のような、スケールの大きなロックナンバーも届いた。

どんなアルバムが届くのだろうと待っていた2010年秋、先行シングル「雨にうたえば」で感じ取った予兆は的中。3rdアルバム『ADVENTURE』はこれまでの姿から大きな"変態"を遂げた作品になった。ダークなテイストの打ち込み楽曲「黒い空」や桃野の囁くような歌唱が心地よい「裸の目をしたミュータント」、サイケデリックなダブ「」など新機軸の楽曲が揃う。スピーディーな楽曲も極端な展開や繰り返しを持つ曲ばかりで驚愕の転換作だった。



④ヒダカトオル加入~『新造ライブレーションズ』
『ADVENTURE』の衝撃も冷めやらぬ中、2010年にはBEAT CRUSADERSのヒダカトオルの加入を発表し、MONOBRIGHTへと改名。2011年1月には早くも新体制によるEP『淫ビテーションe.p』をリリース。1曲目からヒダカがボーカルを務めたり、従来リスナーの不安要素をも逆手に取った容赦ない改革。シングル「COME TOGETHER」ではかつてないアンセム感、更に「DANCING BABE」は映画「婚前特急」の主題歌となり、「堂本兄弟」にも出演した。

5月には4thアルバム『ACME』をリリース。ヒダカの導きによってより野性的かつダイナミックなアレンジが芽生え、新たなロックバンドらしさが付加された、これまた大きな"変態"を遂げた1枚であった。また、同時期に増え始めた各地のロックフェスではほぼ新曲を演奏する奇行を披露。それは結果としてライブレコーディングによる2012年の5thアルバム『新造ライブレーションズ』へと繋がる。手法ごと刷新してしまう大胆さがこの頃にはあった。


⑤『monobright three』~活動休止
2012年には2度目の「銀魂」タイアップである「ムーンウォーク」をリリースし、ヒダカが脱退。これを機に再び白ポロシャツに戻るも2013年のベストアルバムでメジャー契約は終了。その時点で振り返ってみても目に見えて波乱万丈だったメジャー期を経たバンドがインディーズでどんな音楽を作り出すのか、という思いだったが同年リリースの『monobright three』はポップなのに捻くれてるという原点へパワーアップして回帰を果たす快作だった。

ところが活動ペースは落ち、2015年にはドラマー瀧谷が脱退。万事休すかに思えた2016年に届けられたのが6thアルバム『Bright Ground Music』。この作品の素晴らしさについては、次の今聴きたい15曲の項目に譲るとする。充実した状態のまま、セルフカバーアルバム『VerSus』をリリースし、次の一手は?というタイミングの2017年に活動休止。理由は「何かやろうというユーモアが浮かばなくなった」。何と悔しく、苦しい理由だろうと思った。


今聴きたい15曲

2017年末の活動休止から3年と3カ月。今年はモノブライト結成15周年だ。それを祝してかは分からないがとにかくサブスク解禁。これでアルバム曲を広く紹介しやすくなる!いつか訪れるかもしれない活動再開までに、彼らが残した自由自在でヘンテコで、血沸き肉躍るロックたちを改めて聴き直そう。


1.デイドリームネイション
元々は桃野がソロで弾き語っていた曲であり、オリジナルメンバーが揃って初めてセッションしたのがこの曲。というmonobrightの歴史における原点たる楽曲だが、歌い出しは<狂い出す花嫁は君の事だって。>なのだからその記名性は充分。滑らかに運ばれるメロディはキャッチーだが、サビたる部分は分かりづらく、また句読点を多用した歌詞の節々は向井秀徳からの影響も。恋を<感覚と視覚のコラボレーションする思い>と記した感性も鋭い。

2.WARP

monobrightを語るうえで隠せないのは、陰気なムードを纏いながらも明け透けに性衝動、つまりはリビドーを歌っているバンドだということ。シングル曲として初めてエロティックな歌詞に臨んだのがこの「WARP」。激しいバンドサウンドと不穏なメロディの中、一行たりとも行為から逸れないリリックは改めて読むと衝撃。上擦った桃野の歌声とゆらゆらしたギターワークも妙に色っぽい。ただ、それを感じさせないMVのハイセンスっぷりも最高。


3.夏メロンマティック
表題曲に紐づき、夏の楽曲だけでまとめられた「あの透明感と少年」。その中でも特にピュアで眩しいポップソングに挑んでいる1曲。イントロから軽快に跳ねるピアノが印象的だし、淡々としながらも美しいメロディを壊さない桃野の柔らかな歌唱が印象的。古いJ-POPやナイアガラサウンド、はっぴいえんど周辺からの影響も語っていたバンドゆえ、こういう路線を走っていくことも全く違和感はなかったのだが、結果としてかなり異端な楽曲となった。


4.涙色フラストレーション

性衝動を描くバンドであると同時に強い生衝動も感じるバンドであるがこの曲は当時の楽曲の中でも異彩を放つ。桃野が高校時代の交際相手に向けて書いたというこの歌が映すのは、居場所の無さに苦しむ少女の姿。<あなたを探しに僕は歩いてたら まだ生きてる気がするんだ>や<彼女はなき今も考えているだろうか?>という締め方に胸が痛む。この物語の正体を完璧に把握しようとするのは無粋だろう。優しく壊れそうな思いを込めたタフな名曲。


5.ハイスクールキュンキュン~SCHOOL OF LOCK!バージョン~
この頃のmonobrightとTOKYO FMのラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」の蜜月関係は記憶にある人も多いはず。当時、SOL!が開催し、Galileo Galileiやねごとを輩出した「閃光ライオット」のイベント名は明らかに「未完成ライオット」からだし、テーマソングとしてこの曲を書き下ろし。当時のパーソナリティのやましげ校長とやしろ教頭による口上もエディットされたこの曲、今聴くと20,30代のSOL!リスナーは懐かしさで爆ぜ消えちゃうかもしれない。


6.歌も僕との妄想
インディーズ時代からの楽曲でありながら、『monobright two』の最後から2番目に収まった1曲。"妄想"というのもmonobrightを評する際によく用いられる常套句だが、この曲には何となく彼らの音楽の核を閉じ込めているように思う。叙景に滲む感傷、性愛に潜む哀愁。そのほかの曲には描かれないような、その裏側にある秘めたる思いが滴っている。創作の世界の中は無限で自由。現実の世界までも飲み込んでしまえる音楽へ向けた畏怖のような。


7.雨にうたえば

これまでの作風をガラリと変えた『ADVENTURE』を象徴する1曲。逆再生のようなフレーズから、雨音のような四つ打ちが鳴り、ズブズブとその曲世界に沈み込んでいくような1曲だ。荘厳かつ静やかに組み立てられたトラック、サビたるセクションでは<oh>のシャウトだけが響き渡り、基本的にカラフルで躁的だったバンドの音楽性とは真逆。こんな大転換、最近のバンドではあまり見ないなぁと。シングル初回盤にはYMOのカバーも収録していた。


8.オードリー・ヘプバーン泥棒
ヒダカトオル加入後の1stリリース、『淫ビテーションEP』の収録曲。ケラリーノ・サンドロヴィッチが率いていたバンド有頂天の楽曲のカバー。元々、サブカル嗜好の濃い作風ではあったが、ヒダカ加入以降は更にその傾向があからさまになったように思う。元の楽曲が素晴らしいのは勿論だけど、彼らがカバーしてすごくしっくりくる楽曲。学園と青春と映画スター、『グミ・チョコレート・パイン』に文脈までもがMONOBRIGHTに加わったような。


9.見たか
「COME TOGETHER/DANCING BABE」のカップリング。ヒダカ加入後は、直情的な楽曲が増えたような気がする。この曲も、危険な匂いを放つロックチューンでありながら、桃野がこれまでになく自分のことを明快な言葉で歌っているように思う。バンドとしての変わり目において、こういう生々しい吐露が刻まれた曲はドキュメント性が高く、これまでのMONOBRIGHTにはなかった。Bメロにのみ加わってくるヒダカの歌声も良いスパイスになっている。


10.Timeless Melody
4thアルバム『ACME』収録。ヒダカ加入によって、原点たるニューウェイブサウンドが再び還元されることになり、その最も分かりやすい1曲。流れるような聴き心地に良いメロディに、シングルカットしてもおかしくないほどにキャッチーなサビ。この辺りはビークルでPOPを追求してきたヒダカが作曲を担当していることが大きく寄与しているが悲しげに性を歌うという桃野の強みも全面に押し出した理想的な共作。ナヨナヨした印象のオケに題材だ。


11.ウォークウォークウォーク
全曲をライブ会場でレコーディングするという珍しい試みで制作された5thアルバム『新造ライブレーションズ』の後半を飾る1曲。序盤はアッパーな曲が揃ったアルバムだが、この楽曲はミドルテンポかつロングトーンなギターが光る1曲。ギターとコーラスを担当するゲストミュージシャンとして田渕ひさ子(ナンバーガール/toddle)が参加し、楽曲に彩りを添えている。録音環境の為か、ライブハウスの熱気を含んだ独特の刹那感が刻まれてるように思う。


12.youth

ヒダカ脱退、メジャー契約終了、白ポロへの回帰などを経て辿り着いた6thアルバム『monobright three』収録。これまでMONOBRIGHTが得意としてきた凝ったコードワークやストレンジなサウンドをビルドアップしたグルーヴで練り上げたアルバムの中、とてつもない切なさを放っている。ルーツの1つである同郷のbloodthirsty butchersの影響も強い、ジャキジャキとしたギターサウンドの中で、戻れない青さを歌う。大人だからこそ歌えた回顧の1曲だ。


13.MOTHER

ドラマー瀧谷の脱退を経て作られた7thアルバム『Bright Ground Music』。歌っていく事象というのは年を経て変わっていくものだが、モノブライトが母親について歌うという跳躍には当時とても驚いた。母性について歌うことは余りあるほどあったが、実母の心情を乗り移らせ、自分の始まりとして歌う。人生について歌うようなタイプのバンドではなかったはずなのに、いつしかそうなっていく。これこそが生き物としてのバンドの面白さだと思う。


14.冬、今日、タワー

北海道からの上京という物語を含んでおきながら、分かりやすく東京を歌った曲はなかったモノブライト。桃野の持つ天賦の叙情性を全出力した名バラードだ。『Bright Ground Music』は聴いていてリラックスできるという従来のモノブライト作品ではあり得なかった感想を持つ。体をブチ上げるでなく、心にそっと寄り添うような1枚だ。現時点でのラストアルバムとなっているがそれも納得。全て出しきった後の余韻が広がっているような気がする。

15.DANCING BABE(VerSus Ver.)

現時点でのラスト音源となっているのがセルフカバーアルバム『VerSus』。基本的にはより整理されたアレンジでバンドとしての成長を見せつけるカバーが多い中、「DANCING BABE」は原曲よりもパワフルなロックナンバーとして装いを新たにしている。当時は映画タイアップとして少しレトロな仕上がりだったが、前のめりに愛をぶつけるような、モノブライトらしさ全開のカバーに。過去と対峙したその先を観てみたい、と今も強く思っている。


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