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2020.8.16 サカナクション『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』

サカナクションにとって初となるオンラインライブ、『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』と題されたこの公演、あらゆる面で別次元のクオリティ。これぐらいやらなければサカナクションではない、という気迫が随所に感じられる、少し恐ろしくなるような2時間だった。後に語り継がれるやつだった。


倉庫の前で、スマホを覗き込む山口一郎(Vo&Gt)。その画面の中に同じ姿勢の自分。ドロステ効果なオープニングを経て、倉庫の中へと颯爽と入っていく途中、「グッドバイ」のコーラスが聴こえ始める、、、その場所へ行くことは叶わないが"山口一郎がステージに向かう"という流れでライブへと臨む状況を追体験。段々と大きく、はっきり浮き上がってくる音、そして山口がアコギを鳴らして「グッドバイ」で幕を開ける。大量のスモーク、真っ赤な照明に満たされ、メンバーの表情すら見えない。また5人とも真っ白な衣装を身に纏っているため光と一体になって見える。さながらジェームス・タレルの現代アート・オープンフィールドを想起させる奥行きや輪郭を無に帰すような光の空間の中で演奏される「グッドバイ」は没入感たっぷりであった。

タイトル通り、多彩な光を用いて彼らの幅広い楽曲を演出していくこのライブ。ファンク歌謡「マッチとピーナッツ」では伝家の宝刀・オイルアートとカラオケビデオチックな振り向きを見せる女の子のショットと演奏場面を混ぜ合わせながら楽曲の退廃的でセクシーな艶に磨きをかける。「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに。」ではステージ上にカラフルなレーザーが降り注がれ、小躍りしたくなるリズムを際立てる。そこから真っ白な空間に真っ白な光を浴びせながらノンストップで緩やかに「ユリイカ」へと繋がれていく。普段のライブ通り、都市の写真を背景に演奏されるが今回は背後だけでなくステージの両サイドもスクリーン。3方向を囲まれたまま、町と自然を次々と切り変え「ユリイカ」の郷愁を極限まで引き出した。


ダークなベースラインが引き連れてきたのはまさかの「ネイティブダンサー」。前曲の白から一転、夜を想起させるハイファイなライティング。ロングショットを取り入れ、撮影方法も各曲によって全く異なる。また、今回のライブは3Dサウンドなる音響システムで届けられており、イヤホンで聴くと一層にその音の粒立ちを感じ取れるのだ。次は長いイントロからじわじわと音の海へ引きずり込む「ワンダーランド」。光の中で拳を握りしめる山口一郎の姿が印象的だった。サビで一気にひしゃげる音像と同様にノイズまみれの映像がドバドバ押し寄せ、まるで脳内へ直接流れ込んでくるような鮮烈な体験を浴びせてくる。その後、スタッフの姿が見えたことで何とか現実に引き戻された強烈な時間。イヤホンで聴くと音の濁流に飲まれそうになった。


「流線」で急速にクールダウン。最初に似た赤いライトだが、この曲ではメンバーのシルエットを背後に映し出す角度で照射。燃え盛るようなギターソロに呼応するように、光もその濃さを増す。続く「茶柱」では3台の不思議な造形の間接照明のみがステージを照らす。ピアノの音を中心に、ミニマルに展開するこの曲。音数に連動するかのように光の数も次々変わる。どっぷりと深海へと沈めた後、「ナイロンの糸」が中層まで引き上げる。ステージ前方を覆ったスクリーン、水滴が滴る円形のグラフィックの中心に、山口が後光と共に透けて見えるショットを定点で映し続ける序盤は息を飲む。もはやバンドであるという形態にとらわれず、音楽とアートと溶け合うサカナクションの矜持を感じる。影のみになれどもそこで音を紡ぎ続ける。偉大だ。

「ボイル」は多くの視聴者がハイライトと語るであろう名演。ここまでの中では比較的シンプルでクールな前半、しかし中盤の言葉を畳み掛ける壮絶な山口の歌唱の場面でカメラが寄り、その険しくも切実な表情を捉える。<朝にかけてライズしたんだ>を合図に後ろの幕が切り開き、光で満ちる空間、、この一連はあまりにも眩しく、脳裏に焼き付いて離れない。深海(心象)へと「ナイロンの糸」を垂らし、魚群が水面で活発化する(ライズ)ようにして、彼らの音楽もまた浅瀬へと引きあがり熱狂を巻き起こす、、この一連のストーリー性には興奮せざるを得ない。これこそアルバム『834.194』が示していた"開けていくこと"そのものである。それをベストアルバム以降で用いている、自身の音楽の深みという尺度を用いて鮮やかに描いてみせた。


背後のセットが丸ごと切り替わってのライブ後半。ここでようやく視聴者に向け語り掛ける山口、「一緒に夜を乗りこなしましょう!」の合図で始まる「陽炎」からは怒涛であった。"スナックひかり"なるセットで「どうもサカナクションです~」と笑顔を振りまく山口は、そこに観客席を間違いなく見出しているし、いつものライブと同じく珍妙なダンスを繰り広げる様は先程までとは違う、開放的なモードでこちらと繋がろうとしている。次の「モス」ではようやく王道のバンドセットが展開。そう、後半はいつものサカナクションの姿に近い。曲の並べ方も夏フェスで披露しようとしていた50~60分のセットリストなのでは?と思えてくる。踊り子2名と共に披露された「夜の踊り子」の安心感など、彼らのライブを見ている実感が押し寄せる。


2010年代のフェスアンセムとなった「アイデンティティ」も、とんでもない光量の演出を背負って"光ONLINE"仕様の見せ方にアップデート。ラララの声は轟かない、しかし我々がこれまで体験してきたあのラララの洪水が自然と思い浮かんでくる。彼らの音楽は、ライブ体験とも生々しく直結しているのだ。近年定番の繋ぎである「多分、風。」ではまるでステージが回転しているかのようなライティングで未知の境地へと誘っていく。そしてそこからシームレスに「ルーキー」にまで到達してしまうのだから昂りは最高潮。フロアへ放たれるグリーンのレーザーはもはや彼らのモノ。サカナクションは常に、光で我々とコミュニケーションしてきたのだ。そんな彼らが"光"を冠して行うライブが決定的でなくて何だというのだ。あまりにも説得力がある。


アンビエントな音が少しばかりのチルをもたらしたのち、ラップトップがセッティングされて「ミュージック」。リアルタイムでメンバーを包みこむエフェクトやグラフィックが高揚感を一層押し上げ、バンドセットへ戻る瞬間にエフェクトを外すことでそのバンド感をも引き立てる。双方に見事かかった演出には嘆息しかない。チアダンサーと共にゴージャスなグルーヴを成す「新宝島」の<このまま君を連れてゆくよ>の頼もしさは、オンラインライブでも健在。テクノロジーと共に、どんな景色を見せ続けてくれるのだろうかともう次に期待が止まらない。「ワクワクすることがないと面白くない」の前口上を経て、「忘れられないの」の多幸感。<つまらない日々も 長い夜も いつか思い出になるはずさ>なんて、歌われちゃったら感涙するよ。



エンドロールでは「さよならはエモーション」をプレイ。メンバー、スタッフクレジットと共にシックな演出で演奏されたラストソング。<夜を乗りこなす>をキーにコロナ禍で様々な試みを行ってきた彼らに相応しい決意の1曲。<アスヲシル ヒカリヲヒカリヲヌケ>の響きがこのライブを未来へとパスしてくれているようだった。残りのクレジットを流す中、メンバー退場の模様も映し出された。多数のスタッフの存在を感じ、そこが倉庫であったと改めて明示された時の驚きと余韻。チームサカナクション、極まれりだ。


-setlist-
1.グッドバイ
2.マッチとピーナッツ
3.「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに。」
4.ユリイカ
5.ネイティブダンサー
6.ワンダーランド
7.流線
8.茶柱
9.ナイロンの糸
10.ボイル
11.陽炎
12.モス
13.夜の踊り子
14.アイデンティティ
15.多分、風。
16.ルーキー
17.ミュージック
18.新宝島
19.忘れられないの
20.さよならはエモーション


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