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珈琲の大霊師

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シャベルの1次創作、珈琲の大霊師のまとめマガジン。 なろうにも投稿してますが、こちらでもまとめています。
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2019年1月の記事一覧

珈琲の大霊師091

珈琲の大霊師091

 今回、ツェツェ王国へは、サラク第一継承者として行く為敢えて移動手段に馬車を選んだ。武力派による攻撃があった場合は、余程の事でもない限りは交渉とリルケで何とかする予定だ。
 
 というわけで、砦からツェツェ国へ続く細い山道を馬車はガタガタと進んでいた。山間だが、砂漠と近いこともあって緑は少ない。
 
 御者は、クルドの部下だ。
 
「モカナの奴、無事だといいんだがな」

「もし、短絡的にモカナちゃ

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珈琲の大霊師090

珈琲の大霊師090

 ツェツェ王国は、一昔前は流浪の戦闘民族として名を馳せ、大陸中にその名を轟かせていたツェツェ族が鉄や馬などの最新兵器に山間まで追い詰められ、集落を作ったのが始まりだ。
 
 故に、子供も女も、成人するまで厳しい戦いの中に身を置く事を義務付けられている。
 
「ていっ!!はぁッ!!」

 という気合の声に起こされてモカナが身を起こすと、全く見た覚えのない土壁の家に寝かされていた事に気付いた。
 
 

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珈琲の大霊師089

珈琲の大霊師089

「ウラウラウラウラー!!」

 銀髪褐色肌の少女は叫びながら腕をぶんぶん振り回して、その指先から炎を撒き散らした。銀色の三つ編みポニーテールが靡き、炎の揺らめきをキラキラと反射している。

 部屋の隅に移動した訳は、回り込まれない為だ。隅からならば、一方的に部屋全体に炎を撒き散らせると踏んだのだろう。

「ぬぅッッ!!ロウ!消防部隊を呼べ!」

「はっ、はいっ!!」

「させねーさ、バーカ!!」

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珈琲の大霊師088

珈琲の大霊師088

 そして深夜、中庭の茂みで息を潜めていた影が目を開く。

 猫科の肉食獣を思わせる足取りで、音も無く起き上がると、気配を消して動き出した。警備の兵達は深夜の静けさに眠気を誘われている。

 中庭から砦の中核施設への出入り口には、衛兵が二人立っている。

 影は、手に持った何かを自分がいる方向とは逆の茂みに投げ込んだ。それは、弱ったネズミだった。

 ガサッ

「ッ!?何だ?おい、そこだったよな?」

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珈琲の大霊師087

珈琲の大霊師087

 ジョージの心配は杞憂だったのか、それから三日間、警備を増やしたが何も攻めてはこなかった。

 その間に、砦は篭城を解除して、兵士達は近くの村の警備に戻った。

 そして、軍議は主にモカナのおかげで進展していた。

 会議室には珈琲の香りが絶えない。モカナが、各人が「欲しい」と思うタイミングで珈琲を注ぎに来るからだ。

「現状では、軍を動かすべきではない。というのは分かりますけど、かといってその作

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珈琲の大霊師086

珈琲の大霊師086

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第15章

    黒銀の童豹

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 経緯はどうあれ、ツェツェとサラク討伐軍を退けたリフレール一行はその後の動きを決める為に会議室にいた。
 
「だから、それは承諾できないと先程から言っています」

 リフレールが苛立たしげにクルドに言うと、負けじとクルドも声を上げる。
 
「何故だ?あの軍勢を退けたあのリルケ

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珈琲の大霊師085

珈琲の大霊師085

 その日の夕方、砦のバルコニーでリルケへの懲罰が執行される段取りとなった。

 執行時間の30分前。バルコニーには、モカナと、一つの鉢植えだけが、その時を待っていた。

「……本当に受けるんですか?」

 殊勝にも座して待つリルケに、モカナは心配そうに尋ねた。

「うん。これは、私の為だから。私が、改めて皆の仲間になるための。だから、ちゃんと受けなきゃ」

 どんな痛みも耐えてみせると意気込むリル

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珈琲の大霊師084

珈琲の大霊師084

 物見台に戻ったジョージは、リフレールと共に周囲を見回した。
 
 すると、さっきまで地表を埋め尽くすように居た討伐軍とツェツェ軍の姿が見えない。
 
「あら?まだ戦闘は始まってなかったんですか?」

「あぁ、いや、まあ確かに戦闘が始まる前にリルケが仕掛けたんだが、もうその時はあっちも軍を展開してたはずなんだがな」

 両軍の姿を求めてキョロキョロと見回していると、少し離れたオアシスにラクダ騎兵の

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珈琲の大霊師083

珈琲の大霊師083

 残されたモカナは、ドロシーの目を借りてリルケを見やる。
 
 自分の肩を抱いてガタガタと震えている姿は、見るに耐えない。だが、モカナはその隣に腰を下ろす。決して触れられないが、隣にいようと思った。
 
「モ……カナ、ちゃん。ごめん、なさい。ごめ、んな、さい」

 俯いたまま、目に涙を溜めて誤るリルケには、いつもの明るい雰囲気は欠片も見えなかった。

「ボクも、ごめんなさい」

「……なん、で?」

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珈琲の大霊師082

珈琲の大霊師082

 
 リルケは、自分の体が、暗い炎に内側から灯されるのを感じた。

 ジョージは、青い空間の中でリルケとドロシーを見つけた。ドロシーだけは、この空間に干渉できるらしかった。そうでもなければ、ジョージはモカナを見つける事はできないだろう。
 
 ドロシーの前に立ってこっちを向いているリルケの目が、暗く光っているのが見えた。それに、異様な殺気が漂っている。あんなリルケは始めて見た。
 
「リルケ、お前

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珈琲の大霊師081

珈琲の大霊師081

 今や、リルケは万を超える命を従えていた。一人一人からほんの僅かな精気を吸うだけでも、今までに無い力が漲ってくるのが分かった。
 
 もし、戦闘できないように全員からだるくて動けないくらいまで精気を吸ったら、どうなってしまうだろうか?
 
 そんな事を考えている自分に、リルケは慄いていた。
 
 それは、想像を絶する力を手に入れられるに決まっていた。
 
 今だってそうだ。考えられない程、青い世界

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珈琲の大霊師080

珈琲の大霊師080

 そして、ツェツェ軍にも”それ”は訪れた。
 
 吼える男達。それが波紋のように広がって、ツェツェ軍を飲み込んでいった。
 
 討伐軍と同じ事になる、かと思いきや、不思議な事に未だに砦を目指す人間がちらほらと見える。が、大抵は後続が来ない事を訝しがって後ろを振り返り、正気を取り戻させようと躍起になっている。
 
 ジョージはそれらの自由に動ける兵達を観察した。
 
「……あの、戦闘衣装だと分からな

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珈琲の大霊師079

珈琲の大霊師079

「おーお、見事に囲まれてるなぁ。今は両軍睨み合いでこっちにはまだ寄って来ないか」

 ジョージは、砦中央の物見櫓の上から両軍を見渡していた。既に両軍による包囲網は完成しつつあった。これで、両軍が連携していたら恐ろしいが、実際は敵同士であり、互いが最も近づく南北の境界線では今にも戦闘が始まりそうな雰囲気だ。
 
「だが、時間の問題だ。片方がこちらに取り付いたら、恐らく境界線では互いに小競り合いをしつ

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珈琲の大霊師078

珈琲の大霊師078

「……もう一度言ってくれないか?」

「ああ。外の連中は、俺が大部分を追い払える……。まあ正確に言うと、戦闘不能にできるって言ったんだ」

 ジョージは、本題から唐突に切り出した為、クルドは耳を疑ってしまった。たった一人で、砦を包囲できる規模の軍隊を退けられると言うのだから当然だ。
 
「どうやるというんだ?」

「説明しても、多分分からないぞ。まあ、体験してみるのが一番か?」

「体験?……俺に

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