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珈琲の大霊師086

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第15章

    黒銀の童豹

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 経緯はどうあれ、ツェツェとサラク討伐軍を退けたリフレール一行はその後の動きを決める為に会議室にいた。
 
「だから、それは承諾できないと先程から言っています」

 リフレールが苛立たしげにクルドに言うと、負けじとクルドも声を上げる。
 
「何故だ?あの軍勢を退けたあのリルケという娘の術を用いて敵を退けつつ、王都を占領してしまえば王政をいちから立て直す事が可能だ。現在の王を隠居させ、貴方が王となればいい。このクルド以下、第8師団は全員その覚悟ができている」

「あの術は何度も使えるものではありません。それに実効支配した所で、各貴族や近隣諸国が黙っているとも思えません」

「では、内乱覚悟で兵を集め、各拠点を攻略するんですかぁ?」

 少しうんざりした様子で、ロウが何度も繰り返している言葉を口にした。それにも、リフレールは揺るがず答える。

「内乱などしたら、それこそ周辺諸国に体を預けるようなものです」

「……つまり、リフレール様は、一切戦闘を行わずにこの国を取り戻す事ができると?」

「……できるのではありません。やるのです」

「そんな無茶な!」

 ロウが悲鳴に近い声を上げて、机に突っ伏す。ジョージは、そろそろ限界だと判断した。
 
「あー、とりあえず今日の所は少し休んだ方がいいんじゃないか?さっきから、同じ事しか言ってないぜ?折角、外の連中を追い払ったんだ。良く考えてから決めりゃあいい」

「でも、こうしている間にも他の国境線では、小競り合いが起きて……!」

 リフレールも、ジョージにだけは言っても仕方のない愚痴に近い言葉を投げかける。以前のリフレールから想像もつかない行動なのか、クルドは少し困惑しているように見える。
 
「焦って事がどうにかなるなら、いくらでも焦れよ」

 と、ジョージは冷たく引き離す。すると、リフレールの表情が一瞬強張り、項垂れ、深呼吸と共に顔を上げた。

「……そうですね。焦った頭で何を考えても、妙案になるはずがありません。折角、リルケさんが自分を犠牲にしてまで手に入れてくれた平穏ですし、まずは、休みましょう。クルドも、いいですね?」

「……はっ」

「では、この場は解散。クルドは、篭城の構えを解き、柔軟な体勢を取れるようにしておいて下さい」

 両軍が撤退した以上、全ての兵をこの砦にぎゅうぎゅう詰めにしてわざわざストレスをかけることもない。
 
 が、ジョージはふと不安を感じた。しかも、理由の無い不安だ。何か、ジョージの経験から来る何かが

「いや、まだ完全に戦闘が終わったとは限らない。ここから見えない範囲まで下がっただけの可能性もあるだろ。篭城の解除は俺も賛成だが、とりあえずそれは明日の昼間にしておいて、解除後も警邏を増やした方がいい」

 基本的に楽観的なジョージにしては、慎重な意見だとリフレールは感じた。
 
 ジョージは、自分が何に引っかかっているのか分からなかったが、自分の勘を信じて言ったのだ。
 
「最もだ。では、明日の昼に篭城を解除する指示を出しておく。今日は、俺も早めに休む事にする」

 と、クルドは少しだけ笑顔を見せ、ロウを伴って部屋を出て行った。
 
 二人が出て行ったのを見届けてから、リフレールはジョージの傍に歩み寄って、そっと腰掛けた。
 
「ジョージさんなら、もっとこう、後は大丈夫だーって感じに言うのかと思っていたのですが、何か引っかかる所があったんですか?」

「……ああ、そうなんだけどな。俺も、何に引っかかってるのかいまいち分からねえんだ。ツェツェ軍も、討伐軍も始めて経験したリルケの力に怯えて逃げた。で間違いないと思うんだが、何かこう、忘れてる事があるんじゃないかって気がするんだよなぁ」

「ジョージさんがそう言うなら、きっとそうなんだと思います」

 信頼しきった表情で、リフレールは確信を持ってそう言った。すると、ジョージは少し照れたように頭を掻いたのだった。

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