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死にぞこないの趣味の世界

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#読書感想文

開高健『輝ける闇』を読んで

開高健『輝ける闇』を読んで

noteで、元女子校文芸サークル部員が開高健『風に訊け』を紹介していた。
ニヤニヤと、たしかにあの才女が好きそうな本じゃわいと思いながら、ふと思い出した。
開高健って、ベトナム戦争に行っていなかったけ…。

実を言うと、僕はいまインドシナ戦争について調べているところ。
せっかくだからと、開高健『輝ける闇』を買った。

迫力があった。
小説ではない。従軍記者としてのルポルタージュだ。
モデルがいるの

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夏の一冊 ―若いひとに推薦する本

夏の一冊 ―若いひとに推薦する本

せっかくの日本の夏なので、平和とか戦争について考えようか。

学校の感想文なら、なおさら結構。
でも短くて分かりやすいのがいいよね。

村上龍の本だ。

せっかく君は若いのだから、原理的にものごとを考えてみてごらんよ。
平和とはなにか。
それは現状の維持だ。
現状のままが続けば、もっともっと楽しくなれる連中が、平和を望む。
連中はヌエのようだ。腑抜けのくせに、世渡り上手で、キレイゴトばかり並べ立て

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ダヴィド・ディオップ『夜、すべての血は黒い』を読んで 

ダヴィド・ディオップ『夜、すべての血は黒い』を読んで 

素晴らしい小説だ。面白いし、半日で読めた。
しかし神の真理にかけて、早川書房の広報に騙されてはいけない。
主題は第一次世界大戦ではない。主題は戦争というものでもない。
そもそも戦争を糾弾する話ではない。また主人公はセネガル人だが、決して植民地主義を糾弾する目的で書かれた話でもない。それゆえ日本のポストコロニアリストや平和愛好家のために書かれた話では断じてない。

主題は人間らしさであり、その人間ら

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ウエルベックに見られる女性像 ―『滅ぼす』から

ウエルベックに見られる女性像 ―『滅ぼす』から

ミシェル・ウエルベック(1956年生)は、僕とは異なり、保守派である。
ところが彼の女性観に、非常にしばしば、僕は同意してしまう。
そのことは僕をモヤモヤさせる。
でも同意するという事実と、向き合わなければとも思う。
読み終えたばかりの『滅ぼす』から幾つか例をひこう。

痛みについての特殊な知識
例えば次のシーン。
アルアルだ。とてもよく実感できてしまう。
ポールとプリュダンスという夫婦が、ある事

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ミシェル・ウエルベック『滅ぼす』を読んで

ミシェル・ウエルベック『滅ぼす』を読んで

読んで良かった。
あんな厚い本、上下巻で?と、最初は迷った。
でも古本屋で安く買えたので読んでみた。
読んで良かった。

保守派
ウエルベックは保守派で、僕はどちらかといえば革新派だ。
例えばウエルベックはナチズムとフランス革命を、どちらも既存の価値体系に取って代わることを目指していたとして、同一視する(『滅ぼす』第7部)。
当然のことながら、僕はこういう意見には反対だ。イラっとする。

けれども

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ミシェル・ウエルベック『地図と領土』を読んで

ミシェル・ウエルベック『地図と領土』を読んで


仏文学者ではないから、優れた書評はできない。ただ気になった点をノートしておく。

現代の孤独へのスタンス
おそらくウエルベックの小説『地図と領土』のテーマは、現代人の孤独だ。
誰もが独房にうずくまる、パノプティコンと化した、現代がテーマだ。
フーコーがそれに警鐘を鳴らしてから、既に半世紀が経った。
時代はひさしく寂しい。みんなむなしく孤独だ。

そんな孤独な人々をウエルベックは膨大な情報から浮か

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