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父母へ 結婚しない私より

地元は結婚・出産ラッシュ。父母が結婚し私を産んだ歳は当に過ぎた。

私を想ってなにも言わないあなたたちも、きっと思うことが増えてきたことでしょう。

これでも大変申し訳ないと思っているのです。

大学へ行かせてくれ、留学までさせてくれ、国の権威にも選出され、果ては大手企業か国家公務員かと好き勝手言う親戚をよそ目に、地方のベンチャー企業に就職したこと。

そのときも、やはりあなた達はなにも言わず、ただ私の門出を祝福し、「好きにしなさい」とだけ。でも知ってます。近所の口さがない世間話に母が参っていたこと。私が誰もが知る大手企業にでも入社していれば、そんなもの一刀両断できたというのに。

祖母が私の結婚の心配を口にするたび、慌てた顔で会話に入り、「この子はこの子の人生があるから」と祖母に言い聞かせながら、チラリと私を見やる母の顔。そこには一抹の不安のようなものが見受けられました。そんなとき、いつもありがたさと申し訳なさが拮抗し、ありがたさが勝っていた数年前。今では申し訳なさが募ります。

高校時代の友人が集まれば、今や独身子なしの方が少数派。夫が子が、と話す彼女たちとは今では疎遠になりました。今もあるグループLINEが動いても、私はただ既読をつけるだけ。

招待状をいただいた結婚式だけは、楽しく行っているけれども。少しずつ素直に祝えない自分があることに気づかないようにしています。結婚願望がないことと、独身者が減る寂しさは、どうも別物のようだと知りました。

沈黙を守っていた父は、とうとう「だれか人生を共に歩める人を探してほしい。結婚はしなくても構わないから」と言いました。性別も国籍も関係なく、誰でもいい、そばに居てくれる人を、と。

ただただ、娘がこれからひとり歩む道を心配したのでしょう。さすがの私も、ひとりで歩むには、人生は寂しく長く厳しいものだと知っています。それを増長させるのはこの世の中だということも。だから今は、父の言葉も素直に聞けます。一方で、それを承知で私には結婚ができないということも知っています。そんな心配をさせてしまって、ほんとうにごめんなさい。

でもね、私もあなたたちに知っていて欲しいことがあるのです。

私が職場で大変に人に恵まれて、たくさんの人に育てられ助けられ生きていること。

恋人や家族という関係性ではないけれど、私を人生に参加させてくれて、心配し気遣い世話してくれる友人たちがいること。

ある友人は、夫が単身赴任なことだし子育てに参加してくれないかと誘ってくれました。私が出産をする気がないと、けれども子供の成長を楽しむ人間だと、理解している友人です。

先輩は、婚活のプロフィールに私のことを書いたそうです。いつか自分の後輩が家に転がり込んでくるかもしれないが、それを受け入れる人でないと結婚しないと。どこまでが本当のことなのか、確かめる術はありませんが、ともかく私は、彼女のこれからの人生に私の席があったことが何よりも嬉しかったのです。

父母へ。きっとこれからも私はあなたたちに心配をかけることでしょう。世間の悪意ある目線があなたたちに向かうこともあるでしょう。

でも知っていてください。私がとても幸せに生きているということ。結婚も出産もないけれど、あらゆる関係性の中で、たくさんの愛情をたくさんの人からもらっていること。たとえ独りよがりの強がりだとしても。

あなたたちの娘は幸福な人生を歩んでいることを、どうか知っていてください。

父母へ 結婚しない私より

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