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奈倉有里「文化の脱走兵」を読む

奈倉有里「文化の脱走兵」を読む

 この本は、2022年のウクライナ侵攻を受けて奈倉さんが書いた『クルミ世界の住人』というエッセイをきっかけとして始まった連載(月刊誌『群像』にて)をまとめたものである。
 『クルミ世界の住人』は、筆者が小学校の頃、遊びに行った同級生の家で、その子のお父さんがクルミを割っているシーンから始まる。
 おじさんは筆者に「クルミは好きか」と訊き、筆者がうなずくと「クルミが好きな人に悪い人はいない!」と大喜

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登場人物について考えています

登場人物について考えています

 物語を読む大きな喜びのひとつに、登場人物を愛する、ということがありますよね。
私が例外なく愛してしまう登場人物の特徴として、イノセンスの中に生きている人、という特徴が挙げられます。
ここで言うイノセンスというのは、純潔とか穢れのなさではなくて、純真である、ということです。まことの自分である人たち。
「進撃の巨人」に出てくる「無垢の巨人」も、ここで言うイノセンスにはあたりませんよ。あれは、無知とい

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タイトルについて考えています

タイトルについて考えています

 作品のタイトルというのは、すごく大切なものですよね。
 例えば「夜と霧」。ユダヤ人精神科医、フランクルによるナチス強制収容所の体験記ですが、その原題は直訳すると「心理学者、強制収容所を経験する」という、まったくそのままなタイトルだったってこと、ご存知でしたか? 私はそれを最近知って驚き、その超訳の妙にただただ感心してしまいました。
「夜陰に乗じ、霧にまぎれて人びとがいずこともなく連れ去られ、消え

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また原点へ

また原点へ

私の創作物語「星は風にそよぐ」は、note創作大賞の一次選考を通過することができませんでした。

持てるすべてを投入して取り組んだ作品だっただけに残念でなりませんが、お読みいただき応援してくださった方々には、感謝の気持ちでいっぱいです。

結果発表の後2、3日は、かなりションボリしていました。でも、落選の経験は過去に何度もしているので、打たれ強くなったのでしょう。
今は「星は風にそよぐ」の続編を書

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海が見たいときに

海が見たいときに

夏と言えばバカンス!(バカンスって日本では死語ですか?まだ使ってる?)
だけど、農家の夏は忙しくて、野菜ばっかり見ています。海が見たいです。

こんなときは、海が舞台の大好きな漫画を少しずつ味わいます。
五十嵐大介さんの「海獣の子供」。映画にもなりました。主題歌は米津玄師さんの「海の幽霊」。

このMVを初めて観たときは驚愕しました。以来、これは私が世界で一番好きなMVです。
これを観た人はもう全

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番ねずみのヤカちゃん ~耳に残るは「たいへん、たいへん!」の声~

番ねずみのヤカちゃん ~耳に残るは「たいへん、たいへん!」の声~

「番ねずみのヤカちゃん」(作/リチャード・ウィルバー 絵/大社玲子)との出会いも、地域文庫の先輩による「すばなし」でした。
なんと、20分以上の「すばなし」です。
おもしろさに、我を忘れてしまいました。
あっと言う間の20分です。

あるところに、おかあさんねずみと、四ひきの子ねずみがいました。
子ねずみたちのうち、三びきは、おとなしくて、しずかな子でした。
でも、四ひきめは、「やかましやのヤカち

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星の王子さま~宮崎駿さんも魅せられた『かくしているから』~

星の王子さま~宮崎駿さんも魅せられた『かくしているから』~

サン・テグジュペリの「星の王子さま」の、みんなが知っているフレーズ

サン・テグジュペリは、これを伝えたくて伝えたくて仕方がなかったんでしょう。
「星の王子さま」を読んでいると、くり返しくり返し、このメッセージに出会います。

大切なこの秘密を、王子さまに最初に教えてくれたのは、仲良しになった”キツネ”です。

キツネは王子さまに、『仲良くなる』とはどういうことかを教えてくれます。

王子さまの小

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うたうしじみ~しじみを救うためにとった魔女の驚くべき行動~

うたうしじみ~しじみを救うためにとった魔女の驚くべき行動~

関東に住んでいた頃、地域文庫の活動に参加していました。文庫の本を貸し出したり、おはなし会を開いたり。

文庫の活動の中で、”すばなし”も学びました。
文庫を担っているのは、文庫活動30年以上のキャリアを持つ方々で、ほとんどの方がおはなしの名手。
本当に勉強になりました。
浴びるように聞かせていただいたおはなしの中で、衝撃と言っていいほど心を打たれたものが、いくつかあります。

その1つが、この『う

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ふたりは  ともだち~世界を照らすふたり~

ふたりは ともだち~世界を照らすふたり~

本がますます売れなくなってきているんですってね。
うちのダンナさんに「子供の本を書く人になりたい」と言うと、「化石」と言われます。
でも、子どもたちには、わくわくしながらページをめくる体験をしてほしい。
デジタルの本じゃなくて。
どうか、紙の本よ、消えないで! 
紙の本を守るために、私ができること、それは「これを読んだら、世界がもっと明るく見えてきますよー」という本たちを、ご紹介していくこと。

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