マガジンのカバー画像

NOVEL

36
運営しているクリエイター

#小説

白雪美香は彼氏ができない!_最終話

白雪美香は彼氏ができない!_最終話

↓ 第3話

15 白雪美香は気にしない!

チョコは眉間に皺を寄せ、顎に手を当てる。
「でもなぁ。ないと思うけどな」
そう口に出した後、自分を納得させるようにチョコは二、三度頷いた。

「ないかな~?」
ユキミは訝しげに宙を見た。視線を移す途中で、部屋の壁に貼っておいた山崎賢人のポスターと目があった。大きく黒目がちな目が、こちらとジッと見る。やば。やっぱりかっこいいわ、山崎賢人。ユキミがぼんや

もっとみる
白雪美香は彼氏ができない!_第3話

白雪美香は彼氏ができない!_第3話

↓ 第2話

8 青ひげペローは一目惚れする!

9 白雪美香はダイエットを決意する! 

「なんか悔しい!」
ユキミはチョコの部屋で、足をチヨコに押さえてもらいながら腹筋の真っ最中だ。分厚い脂肪の下に隠れ切った腹筋は、仕事をするそぶりを微塵も見せない。ユキミの腹筋は、ユキミの腹を持ち上げる気力なく脂肪の布団の下で眠りについている。冬眠中の腹筋を叩き起こそうとユキミはなんとか体を持ち上げようとする

もっとみる
白雪美香は彼氏ができない!_第2話

白雪美香は彼氏ができない!_第2話

↓ 第1話

4 白雪美香はイケメンが好き!

チョコはカバンにしまっていたスマートフォンを取り出すと、こんがりと日に焼けた指先で画面をタップした。慣れた手つきで青ひげペローのページを開く。チョコはペローにどハマりしているのか、フォローまでしているらしい。

「めっちゃウケる」
チョコがニヤニヤして言った。

「マジでこんな人おったら嫌なんやけど。これで会おうと思う人とかおるんかな」
ユキミは苦虫

もっとみる
白雪美香は彼氏ができない!_第1話

白雪美香は彼氏ができない!_第1話



プロローグ

「はぁ、はぁ、はぁっ」

白雪美香は、ぽっちゃりとした白く柔らかな肉体を揺らしながら、福岡市のセントラルパークと言われる大濠公園を走っている。

5月中旬の福岡は夏日になることもあり、今日の気温は25度を超えていた。気温が上がることは白雪美香もわかっていたが、ここまで暑くなるとは予想だにしていなかった。もう夏じゃないか、と白雪美香の荒い呼吸の中にため息が混じる。今更ながら厚手の服

もっとみる
青ひげペローの婚活日記_白雪姫とLINE編

青ひげペローの婚活日記_白雪姫とLINE編

先日マッチングした白雪姫(仮名)と、LINEを交換することができた。

ちょっと強引だったかもしれないが、なんとかここまでこぎつけることができた。LINE交換をするタイミングは、「短期間でメッセージのやり取りが続いた後が多い」という情報を仕入れたため、私は白雪姫が返信したくなるような内容を数度のメッセージから予測し、ラリーへと持ち込んだ。

作戦は成功。

きっと趣味が合うと思われたに違いない。

もっとみる
コイン・チョコレート・トス_第5話

コイン・チョコレート・トス_第5話

↓ 第4話はこちら

🪙 57.6グラム2月11日(水)

カタンと音がした。

布団に入ったまま幸子はチラリと新聞受けを一瞥する。幸子はそのまま動かない。バフっと掛け布団を頭からかぶる。全てがもうどうでもよくなっていた。

ザアザア降り続く雨の音が二日酔いの頭に響く。
風が吹くたびに新聞受けに刺さった新聞の隙間から、雨の匂いが湿ったアパートの室内に流れ込んだ。雨はびたびたと壁や窓にぶつかっては

もっとみる
コイン・チョコレート・トス_最終話

コイン・チョコレート・トス_最終話

↓ 第5話はこちら

🪙 150.9グラム2月12日(木)

すっかり眠りこけてしまった。

ー昨日が眠れなかったせいかもしれない。夢も見ず、畳と布団と同化して眠った。多分、微動だにしてないんじゃないかと思う。寝返りだって打っていなさそうな気がする。

幸子は泥のように眠った。

2月11日(水)

特に何もしなかったのに、幸子はなんだか疲れてしまっていた。

天井のシミの声が自分自身の声だった

もっとみる
コイン・チョコレート・トス_第4話

コイン・チョコレート・トス_第4話

↓ 第3話はこちら

🪙 4.0グラム2月10日(火)

遠慮気味のアラームの音。

壁の薄いアパートで隣の部屋に聞こえないように、その日はこっそりとアラームが鳴った。
その時刻4:20。

幸子は今日は珍しく、手に届く距離にスマートフォンを置いた。アラームの音を耳にして幸子はすっと手を伸ばし、アラームを止める。

仕事でもないのに幸子が早起きをするのには、もちろん理由があった。それは、新聞が誤

もっとみる
コイン・チョコレート・トス_第3話

コイン・チョコレート・トス_第3話

↓ 第2話はこちら

🪙 4.5グラム2月9日(月)

「眩しい」

幸子はペラペラのカーテンから漏れる日の光で、朝が来たんだと気づいた。

アラームにも気づかないくらい眠りこけていて、泥のように眠っていた。ここ一週間以上、感情の起伏が激し過ぎたせいだ。疲れていても仕方がない。

幸子はずりずりと畳の上をほふく前進し、充電コードを挿したままのスマートフォンを手に取る。画面で時刻を確認する。9:3

もっとみる
コイン・チョコレート・トス_第2話

コイン・チョコレート・トス_第2話

↓ 第1話はこちらから

🪙 3.75グラム2月8日(日)

カタンと音がした。

新聞受けに新聞が落ちる音。ブロロロロと新聞配達のバイクのエンジン音が遠くなる。たぶん、明け方の四時半。
まだ外は暗い。

今朝も毛布がずり落ちているが、今日はそこまで気にならないなと幸子は思う。

昨日めかし込んで出かけた先で買った電気ファンヒーターのおかげだ。電気ファンヒーターはコスパとしてはよくないが、当座を

もっとみる
コイン・チョコレート・トス_第1話

コイン・チョコレート・トス_第1話



🪙 プロローグy=-3x²の放物線を描きながら、宙を舞うコインチョコ。

玄関の白い天井の少し下の位置を最高到達点とし、コインチョコは幸子の手の平に落ちてきた。幸子はそれを両手で優しくキャッチする。

幸子はコインチョコが左手に落ちてきた瞬間、上から右手をそっと添える。コインチョコがどちらかを向いているかが見えないように静かに隠す。

表か、裏か。

全ての決断は、コインチョコに委ねられた。

もっとみる
口の中で幸せ弾ける六花亭のつゆ

口の中で幸せ弾ける六花亭のつゆ

「なんで、あんなこと言っちゃったんだろ……」

私は小さく独りごちた。
部屋の電気もつけずに、カーテンも閉めずに、窓から入り込む月明かりだけが頼りの夜。

ケンカなんてするつもりもなかったのに、ホントになんであんなこと言っちゃったのか、自分でもよくわからなかった。もしかすると、やきもちと彼への恋心を焦がしながら待っていた五日間の気持ちが爆発しちゃったのかもしれない。

北海道への出張。

彼と一緒

もっとみる
遺言_あとがき

遺言_あとがき

年度はじめの昨日、短編小説を公開しました。

この小説はイトーダーキさんの最後の一行小説大賞から生まれた小説です。

え、この企画めちゃくちゃおもしろ!と思って、勇んで最後の一行を考えました。するとどうでしょう。不思議と最初の一行と最後の一行の間のストーリーが知りたくなるのです。最後の一行っぽいものを考えるだけでいいのに、私の頭の中では、勝手に話が走り出しました。

おお、この創作意欲どう収めるべ

もっとみる
遺言

遺言

純白の桜の花びらがすべて散ったころ、三人の女の人生が始まるはずだった。

LINE♪

軽快な着信音を耳にして、優希はスマートフォンに目をやった。アプリを開いてメッセージを確認する。
(ねえ、先生から遺言来たんだけど)
アミからだ。
(うちにも来た)
優希はすぐに返事をする。
(ねえ、ランチでもしない? 行きたいカフェがあるんだ)
叶恵のメッセージに、優希の緊張はあっという間に弛緩していった。

もっとみる