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あの子になりたい

親友だとは、思っている。

だってあの子には、私以外に仲のいい友達なんかいないから。少し浮いているあの子は、不器用なほどにまっすぐで、そして素直だ。最近読んだ本に書いてあった言葉を使うなら、多分、愚直ってやつ。

愚かだと、思う。

でも私は、あの子になりたい。
だって、あの子の中にはちゃんとあの子がいる。小学校の時からあの子のことを知ってるけど、ずっと変わらないあの子がいる。

普通はさ、そうはいかないんだと思うんだよ。
学年が上がる度に期待されることは増えて、やらないといけないことは増えて、周りとの関係も難しくなる。ちょっと冗談で言ったつもりのことが、本気に取られちゃったりするし、空気が読めないと一気に空気にされちゃうし。

お前たち、空気読めるんですよね。
読めるんなら、ここにいる誰かのこともちゃんと気づいてますよね、って思うけど、そんなことは言えないし。だから、ちゃんと空気を読んで、コミュニティの中の一員にならないといけない。

もちろんそれは、楽しくて快適な学生生活に欠かせないことだし。大人になったらもっと大変なんでしょ? このくらい難なくこなせないと、生きてくのって大変なんでしょ? だからさ、あの子は多分生きてくの大変だと思うんだよね。でもさ、それが羨ましい。

だってさ、もう私ってピエロじゃん。道化師じゃん。バカみたいでしょ。

私の中に私はいなくて、ただの入れ物になってさ。ケラケラ笑ってても、なんで笑ってるかもよくわかんないし。何が面白いのかもよくわかんなくなってきて。

ホントはさ、私だってあの子と一緒に遊びたい。
昔みたいに一緒にバスケして、漫画の話をしたい。

でも、それじゃ私も空気が読めないヤツに思われかねないから。それでもいいじゃんって、心のどっかではそう思ってるけど。ちっちゃく丸くなって体操座りしてるちっちゃいちっちゃい私がそう言ってる。でも、難しい。そんな簡単な話じゃない。

苦しい。苦しい。苦しい。

勉強だって難しくなったのに、人間関係まで難しくなってきた。
成長ってグラデーションだと思うのに、中学生になった途端に急成長を求められる。ありえない。自分たちだって経験してきたんでしょ、大人たち。こんなことにも適応できないなら、大人になったらもっと大変だなんて言わないで欲しい。成長も性格も趣味も嗜好も、パキッと白黒じゃ分けられないし、グラデーションになってるんじゃないの?
私はそんなこともわからない大人になんかなりたくない。

ああ、もう嫌だ。

暗い色の制服を着てると、カラフルなピエロの格好をさせられてるような気分になる。チグハグすぎて嫌になる。日曜日が来るたびに、明日からまた私はピエロになるのかと思うと憂鬱で仕方ない。ベッタリと張り付いた笑顔の私が、私は気持ち悪い。夢を見たって悪夢ばっかりだ。追いかけられたり誰かに足を取られたり。不安がカタチになって私を襲ってくる。ピエロみたいなのが私を追いかけまわす。やめてほしい。寝ても覚めても悪夢ばかりだ。


あの子になりたい。


地味な制服に身を包んでいるのに、一際目立つあの子になりたい。
嫌なものは嫌だと苦痛に顔を歪めて立っているあの子になりたい。
一人でもちゃんとまっすぐに立っているあの子になりたい。


ホントはあの子になんかなりたくない。


あの子の隣にまっすぐ立ちたい。
一緒に並んで歩きたい。
小学生の頃みたく、私のままであの子の隣に立てる私になりたい。






明日から、創作大賞2024 ファンタジー部門に応募する作品「プレジャー・ランドへようこそ」を公開します。

上記は作中に出てくる(主人公ではない)人物の心の葛藤を書いたものです。予告編としてお楽しみいただければと思います。

本作品は、無謀にもメフィスト賞2024年上期に応募した作品です。全く箸にも棒にもかかりませんでした。そんな気はしていました。なのでがっつり改編しました。当初よりは読みやすくなっているのではないかと思っています。とはいえ、皆さんに改編前の作品を読んでいただく機会はないので、比べようはないですが……。

ダークファンタジーな世界を描いてみたかったのですが、ファンタジーは難しいなと思いました。思春期の心の葛藤を描いた作品となります。どうぞお楽しみいただければ幸いです。

全4話(6万字)です。よろしくお願いいたします!





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