蛾と、暮らせば。
当初、家族からは蠅がいると訊いてたはずなんですけどね。ええ。
全然違うと思いますよ、蛾と蠅って。想像してみてくださいよ。どうです、不快指数が段々高まってきたでしょう。その調子です。あれは9月の下旬、ぼちぼち毛布出さないとなあなんて話すくらいには割合冷んやりした時間帯が増えてきた頃のことです。リビングに、なんか飛んでやんの。蛍光灯周辺をグルグルグルグル、なんか飛んでやんの。
飛んでやんの、だけでは飽き足りないのか。そのうち、あんなとこ止まってやんの。に路線変更し我が家の中を彷徨い続けること約2週間。ナンボほどお楽しみやったんでしょうね。早よ捕まえるなり外に逃すなりしんしゃいやのご指摘には声を大にして反駁したい。行方を見失ったがじゃき。らんまんロスが抜け切らないせいか浅めの土佐弁まで飛び出す始末、嗚呼愉快愉快。
じゃけんど、狭っ苦しい我が家の、一体どこにそない長いこと隠れておったがじゃ。愛の反対は無関心とは言ったもので、もう殺生するのも面倒くさいレベルで彼はずーっと居座っておったがじゃ。動きがすばしっこ過ぎて、蠅じゃないかという認識の齟齬を生んでしまったがじゃ。でも、やっぱり全然違うと思いますよ。蛾と蠅って。だって想像してみてください。
事態は思わぬ形で収束します。ある日の朝のこと。起きてすぐコップ1杯の水を飲む。これによって眠っていた胃腸が少しずつ動き始め、また副交感神経優位を促すことで自律神経のバランスも自然と整ってくる。人間の身体ってホント不思議なくらい良くできているものですよね。ついでに、お手洗いも行っとくかと心を決めドアの前に立つ。何気なく明かり窓に目をやる。
なんか止まってやんの。
最初は、秋刀魚の蒲焼きみたいに見えたんですけどね。普通の状態なら絶対見紛うことないはずなんですよ、だって蛾と秋刀魚って全然違いますから。わしゃ、お腹が空いとったがじゃ。結局彼の寝込みを奇襲する形での悲しい別れとはなりましたがこの2週間色々な気持ちになりました。一生の思い出には全然なりませんでしたがnoteの一記事にはなれました。献花に代えて。
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