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空想日記

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あなたの知る私ではない『誰か』から届くメッセージ。日記のようで、どうやら公開して欲しいみたいだったのでここで。ちっぽけな世界のちっぽけな私のここから、私の元に届く誰かからの日記。… もっと読む
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2021年3月の記事一覧

夏のおわり、屋上のうえ

夏のおわり、屋上のうえ

【短編脚本】

夏、授業中の学校の屋上のうえ。
一人の女子高生が、フェンスにもたれ掛かりながら屋上からの景色を眺めている。
後ろから一人、別の女子生徒が静かに近づいて来るのに気づいていない。

スイ  「みーつけた!」

シオリ 「わ!……みつかっちゃったぁ」

スイ  「村岡が鼻の穴広げてシオリのこと探してたよ」

シオリ 「竹刀片手に?」

スイ  「ううん、出席簿片手に」

シオリ 「いやあ

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レモン

レモン

深い深い海の底、暗い暗い海淵に、その花は咲く。

光の届かない海の底で、ぼうっと光るように白い花を咲かせる。
そうしてゆっくりと実をつけてゆく。
緑色の実はある程度の大きさになったら自然と幹から離れ、
長い時間をかけて上へ上へと上昇していく。

長い時間を旅するからか、太陽に光を浴びたからか、最初は緑のその実も、次第に鮮やかな黄色へと変わっていく。

ぽこぽこ海の底から上がってくるその黄色い実は”

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恋と泡沫

恋と泡沫

メリーゴーラウンドは恋をした。
くるくる廻って3回目
頭の風見鶏が東の空を見上げるところ
あの子がよく、見えるところ。

メリーゴーラウンドはそこで止まるのが好きだった。
恋するあの子がよく見えるから。

遊園地に人はまばら。
だけども絶えず廻り続ける。
メリーゴーラウンドは人気者。
今日もくるくる廻り続ける。

レトロな音楽奏でながら、白馬の馬車を引き連れて
今日も紳士に廻りましょう。
一人きり

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ティータイムのあとで

ティータイムのあとで

例えば宇宙。広大で、無限で、神秘的。
例えばネコ。ふわふわで、自由で、愛おしい。
例えば小説、例えば映画、例えば音楽。
大切で、経験で、貴重なもの。

思い入れのあるもの、全部、このブリキ缶に入れよう。
何年経とうが、何が起きようが、ブリキ缶の中にある限り褪せることはない。
星の海に放り込んだって、火の川に投げ捨てたって、氷の山に放置したってへっちゃらだ。
別に何か特別なブリキ缶てわけでもない。

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エビと羅刹

エビと羅刹

あなたが夢見た私も、私が夢見た私も、いつか死ぬ。
いつか必ず終わりがくる。
世界の終わり、だなんてそんな素敵なものじゃない。
ただの終わり、ただの明日で、ただの今日で、いつかのただの過去のこと。

人は二度死ぬ。
一度目はその人が死んだ時。二度目は誰かに忘れらた時。

だとするのなら、私は既に死んでる。
なんども、なんども死んでいる。
昨日の私はもう死んでるし、今日の私は今から死ぬし、明日の私は明

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ピンクのガーベラ

ピンクのガーベラ

ピンクのガーベラがあなたの元に届いたら、津軽海峡に向かいましょう。
背高のっぽの春一番が、あなたのことを待っていますから。

あなたは手にしたピンクのガーベラを、春一番に差し出します。
春一番はピンクのガーベラをちらりと見て一枚だけ、ぷちんと花弁をちぎるのです。
途端、手のひらサイズの可憐な花が、ぐんぐん ぐんぐん大きくなって、ちょうどあなたの傘くらいのサイズになるから、そのまま可愛らしくガーベラ

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セブンアワーズ

セブンアワーズ

『今から7時間後、あなたの記憶はリセットされます。』

無機質な白い壁の何処からか響く、同じく温度のない声。

『あなたにはミッションを行って頂きます。ミッションのクリア過程により続行、保持できる記憶が決まります。』

ひらり、上から一枚の紙が落ちてくる。
部屋と同じく白い紙には何やら指示の書かれた紙が書いてある。

『それでは、悔いのないよう7時間をお過ごしください。』

プツンと音を立ててスピ

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雨。時々、怪電波

雨。時々、怪電波

お天気キャスターが怖い顔で明日の外出自粛を訴えている。
怪電波を受信した執着が、思い込みと曲解の雨を降らせるのだそうだ。

久しぶりに籠る準備をしようと思う。
明日は外に出ない方が身のためだ。
テレビのニュースでは明日の天気で話題が持ちきりである。
思い込みと曲解の雨は誤解を育て、衝突の種を生む。
衝突の雨は傲慢と怠惰で芽を出して、陰鬱の葉で大地に翳りをつくる。

こんな時でも仕事がある人は大変だ

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藍色のぶどう

藍色のぶどう

“アズラのぶどうを食べると幸せになれる。”

そんな迷信が村ではずっと信じられてきた。

アズラのぶどうは伝説のぶどう。
東の神様アズラがこぼした涙で出来ている。
そのぶどう一粒、口に放り込めば、立ち所に病や怪我が治ったり、消えぬ財産を手に入れられるとかなんとか。

アズラのぶどうは藍色のぶどう。
村一番の年寄りのネスばあさんが言っていた。
まだまだ小さい子供の頃に、本物のぶどうを見たことがるのだ

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真夜中の刺繍

真夜中の刺繍

月の光で染めた糸で、お守りのまじないを刺繍しましょう。
あなたが闇に染まらぬように。

太陽の熱を溶かした絵の具で、マントの布を染め上げましょう。
あなたが凍えてしまわぬように。

世界は大きな物語で出来ている。
大きすぎる御伽の渦に飲み込まれぬよう、あなたの中に小さな物語を一つ。

これは祈り。これは呪い。これは楔。
これは、     。

あなたを助けるのは私ではなくあなた自身。
私はただただ

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バタートーストランデブー

いつもよりちょっと早起きした。
特に予定はないけれど、昨日寝るのがちょっと早かっただけかもしれないけど、余裕のあるあさってなんかいいね。

いつもはインスタントコーヒーで済ませるところを丁寧にドリップしたコーヒーにしてみる。
ご飯も食べる時間ないからサボるけど、トーストを焼いて、トッピングはソーセージと目玉焼き。

バターがとろりと溶けて染み込んだトーストは、朝にぴったりだと思う。

挽きたて淹れ

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ミッドナイトブルー

本部からの呼び出しを受けるのは、今月で5度目だ。
ATC値が安定しないせいである。

アライバルミッションの成績は悪くないのだが、コンビネーションの得点が若干下がりつつあるのも問題だ。

「やっぱ歳かねえ。そろそろ引退も考えなきゃ。」
「年齢が結果に影響する事実なんてありませんよ。どうしたんたです?先輩らしくもない。」
「いやホントに、成績はキープ出来てもそれ以外の数値が不安定すぎる。俺みたいな不

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エリカ

エリカ

『エリカよ、お前を迎えに来た。』
そいつは急に私の目の前に現れて、そんなことをいきなり言い放った。

その日は、特に普段と代わり映えのしない1日だった。
普通に朝起きて、普通に学校に行き、普通に部活をサボって遊びに行こうとしていた帰り道のことだった。

いきなり長閑な郊外の通学路が真っ白に光り、私は思わず頭を覆った。
しばらくして、閃光も落ち着き目が眩しさに慣れた頃、目をしぱしぱさせながら前を見る

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カーテンコール

開幕のブザーが鳴る。
私は目一杯、ライトを浴びる

眩しくて、緊張で、震えんだ。
だだっ広い劇場
赤く沈む座席
暗がりに浮かぶ眼差しは、まっすぐに私を見つめた

筋書きのないエチュードも
誰かの描いたストーリーも
彼らに言われるがまま
なすがまま
言葉を
体を
預けて
踊るように
祈るように

ただ、私は溺れるだけ。

自分のことひとつ、うまく理解できないくせに
知ったような顔で今日も、私は、私を

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