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ピンクのガーベラ

ピンクのガーベラがあなたの元に届いたら、津軽海峡に向かいましょう。
背高のっぽの春一番が、あなたのことを待っていますから。

あなたは手にしたピンクのガーベラを、春一番に差し出します。
春一番はピンクのガーベラをちらりと見て一枚だけ、ぷちんと花弁をちぎるのです。
途端、手のひらサイズの可憐な花が、ぐんぐん ぐんぐん大きくなって、ちょうどあなたの傘くらいのサイズになるから、そのまま可愛らしくガーベラの傘を差してください。
そうしたら、春一番が津軽海峡の向こう側に連れて行ってくれますから。

津軽海峡の向こう側をご存知ない?
あれはいい所ですよ、とても。
一年中、半分にだけ粉糖の雪が降ってて、半分にだけ飴が降り続けているようなところです。
わたあめの雲が降りてくるので、棒かなんかでくるくると巻き取れば好きなだけ食べていただけます。

津軽海峡の向こう側についたからってピンクのガーベラは捨てないでくださいね。
しゅるしゅると音を立てて元の大きさに戻ったガーベラはそう、胸ポケットか頭にさしておきましょう。
どうしてって、そりゃもちろん帰るためですよ。
帰りの通行料になりますからね。

お帰りの際は春三番に声をかけてください。
ええ、あまり背は高くありませんが、山高帽を一人だけ被っているので、見つけやすいかと思います。
とにかく一番親切な人なので行きよりだいぶ優しいでしょうから。
彼は差し出したピンクのガーベラをぱくん、と丸呑みにします。
驚くあなたを他所に、ひょいと軽くあなたのことを持ち上げて津軽海峡の向こう側から元来たところに返してくれる。

ああ、だけど、気をつけてください、春を告げる風たちは、とっても気まぐれ、ワガママな者たちばかり。
帰りのタイミングに間に合わなければ、次に帰って来れるのは5年後になってしまいますから。

空が緑色になる前には、元きたところへ向かうのです。

ピンクのガーベラがあなたの元に届いたら、津軽海峡に向かいましょう。
背高のっぽの春一番が、あなたを津軽海峡の向こう側まで連れてってくれるから。

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