ミッドナイトブルー

本部からの呼び出しを受けるのは、今月で5度目だ。
ATC値が安定しないせいである。

アライバルミッションの成績は悪くないのだが、コンビネーションの得点が若干下がりつつあるのも問題だ。

「やっぱ歳かねえ。そろそろ引退も考えなきゃ。」
「年齢が結果に影響する事実なんてありませんよ。どうしたんたです?先輩らしくもない。」
「いやホントに、成績はキープ出来てもそれ以外の数値が不安定すぎる。俺みたいな不確定要素は外した方がチームのためだろう?」
「ダメですよ!先輩にはまだエースやってもらわないと!」
愚痴をこぼしたら後輩に叱られてしまった。
「チーム順位最高記録の更新が止まるのもったいないじゃないですか、それに、」
それに、
そこで言葉を切って後輩はビールを仰ぐ。

「黒霧島の討伐は先輩の悲願です。エンジニアが安定剤の開発を急いでますし、俺はまだ先輩とチームでいたいです…!」

泣きながら酔い潰れた後輩を家まで送り届けた後、夜道をぷらぷらと歩きながら考える。

(黒霧島討伐、ね……。)
かつての悲願だったそれは、一度は目前に迫ったものの、今は遠くなるばかりだった。
悪夢の討伐は簡単ではない。黒霧島はその最上級だ。
最初の対黒霧島戦で敗れた自分にはもう勝ち目がないのだと感じてしまった。
それはATC値にもでている。
不安定が続くと帰ってこれなくなる。
これは誰もが承知の事実だ。

自分が帰って来れなくなるのはいい。
独り身だし、もとよりその覚悟だ。
しかし後輩や他のメンバーはまだ若い。
彼らを悪夢に取り残すのは、絶対に嫌なのだ。
後輩は知らないようだったが、安定剤は確かに使用中のATC値は安定化するが、その後の副作用がまだ強い。
イレギュラーが起こった時対応出来なくなる可能性もある。

泣いても笑っても、次で最後だ。

強い風に吹かれて、たんぽぽの綿毛が空を舞う。
もう、そんな季節か。

春は出会いと、別れの季節。
俺は覚悟を決めて足を前に踏み出した。

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