私って「無職」なのか?と考えてみた記録
食べていけなきゃ、「仕事」って言っちゃいけない気がしていた。
先日、約8年間勤めた会社を正式に退職した。4月からは、大学院に通う。
「会社員」という肩書きがなくなった今、私に残っている肩書きは、何だろうか。考えなくてもいいことを、ぼんやりと考えてしまう。
例えば今、何かやらかしてテレビで報道されるようなことになったら「30歳、無職の〇〇さん」などと言われるのだろうか。そんなことを考えては、ふっと冷ややかな笑いがこぼれる。
思えば、わかりやすい肩書きを持たないのは初めてだ。たまたま浪人や留年もしたことがなく、いわゆる「空白」の時間があるのは今回が初めて。
会社を退職した日の夜、0時を回った時、ふと「あ、会社員の時間、終わったわ」と思った私は、たまたま隣にいた風呂上がりの母に「いえーい!!無職の私、爆誕!!!」などとふざけて悪絡みした。無邪気に絡んだ。
無理やり母の手を掴みハイタッチもどきを繰り出したが、母は「何ゆーてんの?無職じゃないじゃん」と言った。
そうだ。
私最近、少しばかり、書く仕事をしているのだった。職業名でいうと、いわゆる「ライター」というやつ。なのかな。
SNSをやっていると、私自身が文章を書いているから近い属性の方が集まるというのもあると思うけれど、「ライター」という職業の方をそれこそ山のように見つける。それはもう、数え切れないほどいるのだ。「ライター」。
再来月からは、大学院生になる。正社員でどこかで勤めるのは、難しい。
しばらくは貯金を切り崩すしかない(というか、大学院に行くというのは未来の私への「先行投資」と位置付けている)けれど、とはいえ好きな時にカフェに行けないのも嫌だ。わがままだけれど、そうやって育ってきてしまった。
今の私にできることは何だろうか。日々の生活に足しになり、そしてそれ以上に自分の好きなことであり、人に感謝されることであり、そして何より自分の肥やしになることがしたい。そう思って、やってみようと思ったのが、「書く仕事」だ。
初めて「書くこと」でお金をいただき、支払明細が届いた時は、嬉しかった。会社以外からの支払明細は、初めてだった。「書く仕事」は、原稿1本につきいくら、というのがわかっている。会社員の私は、毎月振り込まれる給与のどれがどの労働に当てられているのか全く分からず、正直困惑していた。
私の生み出している価値は何か。何で、私はご飯を食べているのだろうか。それがわかる「ライター」という仕事は、ある意味これまで感じたことのない充足感をくれたし、ある意味「私の文章の価値は今のところこんなもんだ」と言われているような気がして、こめかみの辺りでミシミシと音がした。この感覚は、自営業をやられている方は皆持っているものなのかもしれない。
原稿料を見て、それに費やした労力を考えて、月に何本書いたら・・・などと頭が勝手に試算を始める。一瞬にしてその算出結果がわかり、そして私は、頭をブンブンとふる。そんなことを考えてどうする。「食べていけないじゃん」と「いや、これは今の私にとって、値段以上の価値があるからやっているんでしょう?」という言葉が、脳内で喧嘩をする。
それでも私は、「これに対していくら」というのがわかり、そして自分の名前がクレジットに載るこの仕事が、面白いと感じている。これは会社員では味わえなかった歓びだ。
自分で自分の仕事を管理し、断ることも受け入れることも、選ぶことも、交渉することも委ねることも、すべて私にとって「自立」の練習のような感じがする。これは私が大学院生活の2年間で一番大事にしたい「自分で選び取る」ということと、通ずる。だから、今のこの立場、そしてやらせてもらえる仕事を、大切にしたい。
母の「何ゆーてんの?無職じゃないじゃん」という言葉を、反芻する。自分で選び取り、お金をいただいているのだ。そうやって思うと、「無職」とはほど遠い概念な気がする。
「仕事」って何だろう。そう思った時に、金額や「食べていけているかどうか」ばかりを見ていては、自分のやっていることが、霞んでうまく見えなくなってしまうのかもしれない。やりたい理由があるはず。やっている意味を見出しているはず。捉えた的が、あるはず。
取材先で「ライターの〇〇です」というのはまだ慣れない。「私ってライターだっけな」という、「今はそれ、考えなさんな」と言いたくなるような疑問が頭にチラつく。
友人に「書く仕事」のことを言う時、「んーと、なんかこう、ネット上で、記事みたいなやつ、あるじゃん?あれで、文章みたいなやつ、書かせてもらってるんだよね」という何とも歯切れの悪い言い方をしてしまう。
自分でも、この仕事を定義し切れていない。そんな状態だけれど、せっかく対価をいただいているのだ。この感覚を、味わいたい。模索しながらでも、「仕事」だって、「職業」だって、認めていいんじゃないのかな、と思う。
Sae