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読書記録・要約

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【読書記録】千葉雅也『センスの哲学』を読む。

【読書記録】千葉雅也『センスの哲学』を読む。

哲学者で、小説家でもある千葉雅也の新刊『センスの哲学』(2024)は、千葉の芸術論であり、『勉強の哲学』(2017)、『現代思想入門』(2022)とセットで彼の哲学三部作となる。

千葉の哲学は、ポスト・ポスト構造主義と考えることができ、差異・変化一辺倒であったポスト構造主義を引き継ぎつつ、人間がどこか変にこだわってしまう部分、固く凝りってしまう部分に注目していく。特に『勉強の哲学』と同書『センス

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【読書記録】イヴ・K・セジウィック『クローゼットの認識論: セクシュアリティの20世紀』 、「序論 公理風に」を読む。

【読書記録】イヴ・K・セジウィック『クローゼットの認識論: セクシュアリティの20世紀』 、「序論 公理風に」を読む。

本noteは、ジェンダー・セクシュアリティ分野におけるクィア理論の古典的名著、イヴ・K・セジウィック『クローゼットの認識論: セクシュアリティの20世紀』(1990)に関する読書記録である。今回は特に、同書の「序論 公理風に」を読解する。

この序論は20世紀におけるセクシュアル・マイノリティの、特に同性愛者の権利運動、また同性愛に対する嫌悪がどのような前提で行われているのかに注目している。またレ

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【読書記録】河口和也『クイア・スタディーズ』、「1. レズビアン/ゲイ・スタディーズからクイア・スタディーズへーー欲望の理論と理論の欲望」を読む。

【読書記録】河口和也『クイア・スタディーズ』、「1. レズビアン/ゲイ・スタディーズからクイア・スタディーズへーー欲望の理論と理論の欲望」を読む。

本noteは、ジェンダー・セクシュアリティ分野のクィア理論に関する入門書、河口和也『クイア・スタディーズ』(2001)の読書記録である。今回は特に第1部である「レズビアン/ゲイ・スタディーズからクイア・スタディーズへーー欲望の理論と理論の欲望」を読解し、要約する。

○目次

○全体要約

セクシュアル・マイノリティの社会運動史

セクシュアル・マイノリティ(今回は特に同性愛者に関して)の権利を推

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【読書記録】岡崎乾二郎『ルネサンス 経験の条件』、「Ⅰ. アンリ・マティス」を読む。

【読書記録】岡崎乾二郎『ルネサンス 経験の条件』、「Ⅰ. アンリ・マティス」を読む。

本noteは、岡崎乾二郎の初期の著作『ルネサンス 経験の条件』の読書記録である。著者の岡崎乾二郎は造形作家、批評家であり、20世紀後半から刊行されていた批評雑誌『批評空間』に登壇していた作家として、坂本龍一、磯崎新らに並ぶ存在である。また同書は、この『批評空間』に連載されたものが基となっている。

同書の内容であるが、題名にある通り、ルネサンス期の絵画を分析したものである。またそれら絵画に対する画

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【読書記録】ジャン=フランソワ・リオタール『ポスト・モダンの条件: 知・社会・言語ゲーム』を読む。

【読書記録】ジャン=フランソワ・リオタール『ポスト・モダンの条件: 知・社会・言語ゲーム』を読む。

全体要約

リオタールは同書で、高度に発展した先進社会の特徴を、その社会における「知(仏:savoir)のあり方」に注目して概念化した。近代化を終えた社会は20世紀後半に入るにつれ、情報化、脱工業化、資本主義の拡大、経済のグローバル化など様々な変化を迎えた。そうした社会での知のあり方は「真理の探究」ではなく、経済的な利益を目的とした知識生産へと変わっていった。こうした変化の本質を哲学的に整理するこ

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【要約】リン・ホワイト「生態学的危機の歴史的根源」、『機械と神』収録

本noteでは、環境思想黎明期における主要著作、リン・ホワイトの「生態学的危機の歴史的根源(The Historical Roots of Our Ecologic Crisis)」(1967)を扱う。

同論文は、中世農業技術史が専門のリン・ホワイトの著作で、彼がアメリカ科学振興協会 (AAAS)で行った講演を元にした「講演論文」である。リン・ホワイトは、同論文において自身の専門である「中世農業

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【読書記録】 ジョアン・コプチェク『わたしの欲望を読みなさい: ラカン理論によるフーコー批判』  、第7章「密室/わびしい部屋」を読む②

【読書記録】 ジョアン・コプチェク『わたしの欲望を読みなさい: ラカン理論によるフーコー批判』 、第7章「密室/わびしい部屋」を読む②

本noteは、ラカン派精神分析理論を用いる批評家ジョアン・コプチェクの著作『あなたの欲望を読みなさい: ラカン理論によるフーコー批判』(1994)の第7章「密室/わびしい部屋 フィルム・ノワールにおける私的空間」に関する読書記録である。

同書は文芸・映画批評に関する著作であり、章の前半では古典的な探偵小説における「探偵の機能」を、ラカンの理論を用いて論じている。また後半では、第二次世界大戦後、ア

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【読書記録】 ジョアン・コプチェク『わたしの欲望を読みなさい: ラカン理論によるフーコー批判』  、第7章「密室/わびしい部屋」を読む①

【読書記録】 ジョアン・コプチェク『わたしの欲望を読みなさい: ラカン理論によるフーコー批判』 、第7章「密室/わびしい部屋」を読む①

本noteは、ラカン派精神分析理論を用いる批評家ジョアン・コプチェクの著作『あなたの欲望を読みなさい: ラカン理論によるフーコー批判』(1994)の第7章「密室/わびしい部屋 フィルム・ノワールにおける私的空間」に関する読書記録である。

同書は文芸・映画批評に関する著作であり、章の前半では古典的な探偵小説における「探偵の機能」を、ラカンの理論を用いて論じている。また後半では、第二次世界大戦後、ア

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【読書記録】ラカン読解、はじめました。

【読書記録】ラカン読解、はじめました。

◯一次文献
・ジャック・ラカン(1966/1972)「『盗まれた手紙』についてのゼミナール」『エクリ』弘文堂、佐々木孝次訳(初出: 1956年)
・ジャック・ラカン(1973/2020)『精神分析の四基本概念(上・下)』岩波書店、小出浩之ら訳

◯二次文献
・向井雅明(2016)『ラカン入門』筑摩書房
・松本卓也(2015)『人はみな妄想する: ジャック・ラカンと鑑別診断の思想』青土社
・片岡一竹

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【要約】伊藤亜紗『手の倫理』

【要約】伊藤亜紗『手の倫理』

全体要約同書では、「手」を介した他者関係のあり方が論じられている。これまで西洋の倫理では、主に「まなざし」という視覚遍重の議論がなされてきたが、そうした倫理は他者と物理的な距離を置いた関わり方を想定している。しかし視覚障がい者は「まなざし」とは無関係に生きており、日頃は他人と「距離ゼロ」の関係をむすんでいる。同書では、介助やリハビリの現場での「人が人の体にふれる」具体的な事例を取り上げ、そこから「

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【要約】三木那由他『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション』

【要約】三木那由他『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション』

全体要約同書は「会話とはどういった営みか」という問いのもと、興味深い会話の例が見られるフィクション作品を取り上げ、会話という現象の複雑さと魅力を描き出している。その際、鍵になるのが会話を単なる「情報伝達」ではなく「約束事の形成」として見ることである。つまり会話には、単に話し手が伝えたいことを言葉にして、聞き手がそれを受け取るだけでなく、会話を通じて発話者同士のあいだで、ある認識や決まり事を共有し、

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【読書記録】 村山敏勝『(見えない)欲望へ向けて: クィア批評との対話』 の序章を読む。

【読書記録】 村山敏勝『(見えない)欲望へ向けて: クィア批評との対話』 の序章を読む。

本記事は、日本におけるクィア批評の古典的名著、村山敏勝『(見えない)欲望へ向けて: クィア批評との対話』(単行本 2005年, 文庫化 2022年)の読書記録である。

同書は専門分野でいうと、ジェンダー・セクシュアリティ論に属し、その分野の中でも「クィア批評」に関する著作である。ここでの「クィア批評」とは、同書に解説を寄せている田崎英明の言葉を借りると、以下のように言える。

これを引き受け、自

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【要約】星野太『食客論』

【要約】星野太『食客論』

本noteは星野太『食客論』、その刊行記念イベントである星野太と國分功一郎の対談「「寄生の哲学」のポテンシャリティ」を自分なりに解釈し、まとめたものである。自と他の区別がついていない文章であることを、ご容赦いただきたい。

「食客」とは

題名にもなっている「食客」とは何か。辞書を引くと、食客とは「他人の家に居着いて食わせてもらっている人」である。いわば「居候」、英語では“parasite(パラサ

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【読書記録】東浩紀『訂正可能性の哲学』、 第1部「家族と訂正可能性」を読む。

【読書記録】東浩紀『訂正可能性の哲学』、 第1部「家族と訂正可能性」を読む。

このnoteは、東浩紀『訂正可能性の哲学』に関する読書記録である。同書は2部構成で、第1部「家族と訂正可能性」、第2部「一般意志再考」となっている。今回は第1部に限定し、その内容を要約、パラフレーズした。また各章には自分のコメントを記している。

第1部 「家族と訂正可能性」東浩紀は、普遍的な理性による「開かれた連帯」から始める今の"リベラル"に対して、「開かれ」から始めることは人間には不可能であ

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