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【エッセイ】主張ではなく、アイデアを書いてみる

何かを書こうと思って、こうしたnoteなどに文章を綴ろうとするのだが、途中で「なんか違うなぁ」と思って、書いていた文章を一気に消したりすることがある。 書こうと思うときには、それなりに書きたいことがある。それについて考えをまとめたいなとなり、書くに至るのである。そのとき自分は「キャッチコピー」みたいなものから始まることが多い。今回だと「主張ではなく、アイデアを書いてみる」が、それだ。私の場合、タイトル級の言葉がまず先にくるのである。 「主張ではなく、アイデアを」、このとき

    • 【書評】 伊藤亜紗 『手の倫理』

      手を介した二者関係 普段、人の体に触れることはありますか。例えば握手だったり、ハグだったり、または介護での身体介助も、そうした「人の体にふれる経験」だと言えます。ただ、どうでしょう。物や自分の体にさわることは多い一方、人の体にふれることは機会や関係性がないと生まれないような気がします。また求めたり、拒絶したり、躊躇ったり、差し伸べたりと、人になると急にいろんな欲求や感情が絡んでくる。そんな独特な感覚をもつ「人との触れあい」、それが同書のテーマです。 「物にさわること」と「

      • 【書評】 星野太 『食客論』

        「よそよそしさ」を泳がせておく 現在、「共生」という言葉は社会正義のスローガンとして人口に膾炙している。とりわけ、このスローガンは排他的な態度への抵抗として掲げられていることだろう。現在の日本の政治が、社会的少数者を頑なに考慮に入れないのを鑑みると、こうした抵抗は重要に思える。ただ勘違いしてはならないのが、「『共生』とは達成されるべき理念などではなく、われわれがあらかじめ巻き込まれている所与の現実」であることだ。つまり、われわれは「共生」を意識する、しないに関わらず、つねに

        • 【読書記録】千葉雅也『センスの哲学』を読む。

          哲学者で、小説家でもある千葉雅也の新刊『センスの哲学』(2024)。同書は千葉の芸術論であり、『勉強の哲学』(2017)、『現代思想入門』(2022)とセットで彼の哲学三部作となる。 千葉の哲学は、ポスト・ポスト構造主義と考えることができ、差異・変化一辺倒であったポスト構造主義を引き継ぎつつ、人間がどこか変にこだわってしまう部分、固く凝りってしまう部分に注目していく。特に『勉強の哲学』と同書『センスの哲学』は、その傾向がある。 ただ何の譲歩もなく「個人的なこだわり」を肯定

        【エッセイ】主張ではなく、アイデアを書いてみる

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          【読書記録】東浩紀『動物化するポストモダン: オタクから見た日本社会』を読む。

          2001年に刊行された『動物化するポストモダン(通称: 動ポモ)』は、批評家である東浩紀のポストモダン論である。また副題の「オタクから見た日本社会」とあるように、同書では20世紀末のオタク系文化に注目し、その特徴を戦後日本の時代精神の変遷に結びつけている。そしてロシア出身の哲学者アレクサンドル・コジェーヴの見立てを横に置くことで、その論考をポストモダン論へと繋げている。 ○全体要約 オタク系文化論: 「物語消費」から「データベース消費」へ 同書は大きくいえば「オタク系文

          【読書記録】東浩紀『動物化するポストモダン: オタクから見た日本社会』を読む。

          【論考】千葉雅也-デリダ論ーー「同一性/差異」の脱構築

          序本noteは、「脱構築」で知られているフランスの哲学者ジャック・デリダに関するものである。ただデリダ単体の思想というよりも、フランス現代思想の研究者である千葉雅也が書いたデリダ論、つまり千葉-デリダの思想を今回は扱う。そこには、20世紀後半に一世を風靡したデリダの複雑な思考を、現代に活かす際の心構えが含まれていると考える。とりわけ千葉- デリダの思想は「仮固定」「有限」といった千葉雅也固有の概念によって、脱構築の現実的な実践可能性を開いているように思える。今回は、まとまった

          【論考】千葉雅也-デリダ論ーー「同一性/差異」の脱構築

          【読書記録】イヴ・K・セジウィック『クローゼットの認識論: セクシュアリティの20世紀』 、「序論 公理風に」を読む。

          本noteは、ジェンダー・セクシュアリティ分野におけるクィア理論の古典的名著、イヴ・K・セジウィック『クローゼットの認識論: セクシュアリティの20世紀』(1990)に関する読書記録である。今回は特に、同書の「序論 公理風に」を読解する。 この序論は20世紀におけるセクシュアル・マイノリティの、特に同性愛者の権利運動、また同性愛に対する嫌悪がどのような前提で行われているのかに注目している。またレズビアン/ゲイ・スタディーズが栄えてもなお、いまだホモフォビック(同性愛嫌悪)が

          【読書記録】イヴ・K・セジウィック『クローゼットの認識論: セクシュアリティの20世紀』 、「序論 公理風に」を読む。

          【エッセイ】贈与と交換の緊張関係

          本の値段を気にして本を買うということは、本と、つまり知と「交換の関係」を結ぶということである。 金欠の状態とは、本を目の前にした時に「今の自分にこの本は買う価値があるのか、ないのか」という思考を一瞬でも忍ばせることを意味する。 そうした思考から完全に独立しようとするのではなく、そうした思考との緊張関係の中で思考をするということを考えたいのである。 我々はある純粋な贈与の場にいることはできない。ある程度、交換の場の中で生きているのだ。交換と贈与の緊張関係の中で、贈与のタイ

          【エッセイ】贈与と交換の緊張関係

          【読書記録】河口和也『クイア・スタディーズ』、「1. レズビアン/ゲイ・スタディーズからクイア・スタディーズへーー欲望の理論と理論の欲望」を読む。

          本noteは、ジェンダー・セクシュアリティ分野のクィア理論に関する入門書、河口和也『クイア・スタディーズ』(2001)の読書記録である。今回は特に第1部である「レズビアン/ゲイ・スタディーズからクイア・スタディーズへーー欲望の理論と理論の欲望」を読解し、要約する。 ○目次 ○全体要約 セクシュアル・マイノリティの社会運動史 セクシュアル・マイノリティ(今回は特に同性愛者に関して)の権利を推進させる運動のあり方は、時代や状況に応じて異なる。まずキリスト教において同性間の

          【読書記録】河口和也『クイア・スタディーズ』、「1. レズビアン/ゲイ・スタディーズからクイア・スタディーズへーー欲望の理論と理論の欲望」を読む。

          【エッセイ】異言語と身体の関係

          英会話の勉強を始めた。書店に並んでいたテキストを買い、1日10ページを目安に進めている。難しすぎるのを選ぶと途中で折れてしまうので、自分のレベルに合わせて『ネイティブなら12歳までに覚える 80パターンで英語が止まらない!』、『ネイティブが使っている 43のテクニックで英語が楽しくなる!』という教材を選んだ。題名からわかる通り、私の英語力は中学生レベルで止まっている。高校、大学と英語の授業はあったが、ほとんど寝ていた。ただ大学院に上がり、たくさんの留学生と出会う中で、話したい

          【エッセイ】異言語と身体の関係

          【読書記録】岡崎乾二郎『ルネサンス 経験の条件』、「Ⅰ. アンリ・マティス」を読む。

          本noteは、岡崎乾二郎の初期の著作『ルネサンス 経験の条件』の読書記録である。著者の岡崎乾二郎は造形作家、批評家であり、20世紀後半から刊行されていた批評雑誌『批評空間』に登壇していた作家として、坂本龍一、磯崎新らに並ぶ存在である。また同書は、この『批評空間』に連載されたものが基となっている。 同書の内容であるが、題名にある通り、ルネサンス期の絵画を分析したものである。またそれら絵画に対する画期的な論考であったため注目を浴びたのだった。批評家である浅田彰は、以下のように語

          【読書記録】岡崎乾二郎『ルネサンス 経験の条件』、「Ⅰ. アンリ・マティス」を読む。

          【読書記録】ジャン=フランソワ・リオタール『ポスト・モダンの条件: 知・社会・言語ゲーム』を読む。

          全体要約 リオタールは同書で、高度に発展した先進社会の特徴を、その社会における「知(仏:savoir)のあり方」に注目して概念化した。近代化を終えた社会は20世紀後半に入るにつれ、情報化、脱工業化、資本主義の拡大、経済のグローバル化など様々な変化を迎えた。そうした社会での知のあり方は「真理の探究」ではなく、経済的な利益を目的とした知識生産へと変わっていった。こうした変化の本質を哲学的に整理することによって、現在の潮流に抗うような思考のあり方を提示する。 リオタールは、近代

          【読書記録】ジャン=フランソワ・リオタール『ポスト・モダンの条件: 知・社会・言語ゲーム』を読む。

          【断片日記】4/1, 4/3, 4/8

          4/1 (月)曇り 朝9:40ごろに起床。 朝食は砂糖のかかったロールパン、と紅茶 頼んでいた本が届く。楽天ブックスは丁寧な包装してくれる。紀伊國屋も。Amazonは論外。 黄砂はどうかな。2日前から飛ぶって言ってたけど。調べたら「ほぼ無」と出ていた。安心して出かけよう。でも今日は整体と筋トレ。 明日か、明後日あたりに神保町と神楽坂に遊びに行こう。 4/3 (水) 雨 朝10時ごろに起きた。朝食は米を茶碗半分くらい入れて、しそわかめをかけて食べた。その後ストレッ

          【断片日記】4/1, 4/3, 4/8

          【論考】フェミニズムにおける「言説/物質」と、現代生物学

          本noteは、大学院の授業で提出したレポートをもとにしている。主に、近年のフェミニズムに見られる「物質的転回」について扱っている。序盤は、私がこのレポートを書くに至った経緯が書かれているが、後半は文献レビューになっているので学術的にも参考になるものがあるかと思う。では。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は、本授業の第6回で扱われた「物質的転回(Material Turn)」に強く関心を持った。その中でも、授業の後半で紹介された

          【論考】フェミニズムにおける「言説/物質」と、現代生物学

          【要約】リン・ホワイト「生態学的危機の歴史的根源」、『機械と神』収録

          本noteでは、環境思想黎明期における主要著作、リン・ホワイトの「生態学的危機の歴史的根源(The Historical Roots of Our Ecologic Crisis)」(1967)を扱う。 同論文は、中世農業技術史が専門のリン・ホワイトの著作で、彼がアメリカ科学振興協会 (AAAS)で行った講演を元にした「講演論文」である。リン・ホワイトは、同論文において自身の専門である「中世農業技術史」の知見を用いて、環境問題の原因が西洋キリスト教の教義にあると指摘した。

          【要約】リン・ホワイト「生態学的危機の歴史的根源」、『機械と神』収録

          【紹介】 庵野秀明 『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ

          『新世紀エヴァンゲリオン』は、 庵野秀明が原作・監督であるアニメーション作品である。1995年からTVアニメシリーズ(全26話)が放送され、その後、TVアニメ版とは結末の異なる『劇場版 新世紀エヴァンゲリオン:DEATH (TRUE)2/ Air / まごころを、君に』(1997-98)が上映された(通称「旧劇」)。また21世紀に入り、設定とストーリーを再構成したシリーズ4部作、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」(『: 序』(2007)、『: 破』(2009)、『: Q』(2012

          【紹介】 庵野秀明 『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ