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書評

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記事一覧

【書評】 伊藤亜紗 『手の倫理』

【書評】 伊藤亜紗 『手の倫理』

手を介した二者関係

普段、人の体に触れることはありますか。例えば握手だったり、ハグだったり、または介護での身体介助も、そうした「人の体にふれる経験」だと言えます。ただ、どうでしょう。物や自分の体にさわることは多い一方、人の体にふれることは機会や関係性がないと生まれないような気がします。また求めたり、拒絶したり、躊躇ったり、差し伸べたりと、人になると急にいろんな欲求や感情が絡んでくる。そんな独特な

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【書評】 星野太 『食客論』

【書評】 星野太 『食客論』

「よそよそしさ」を泳がせておく

現在、「共生」という言葉は社会正義のスローガンとして人口に膾炙している。とりわけ、このスローガンは排他的な態度への抵抗として掲げられていることだろう。現在の日本の政治が、社会的少数者を頑なに考慮に入れないのを鑑みると、こうした抵抗は重要に思える。ただ勘違いしてはならないのが、「『共生』とは達成されるべき理念などではなく、われわれがあらかじめ巻き込まれている所与の現

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【書評】永田希『積読こそが完全な読者術である』

【書評】永田希『積読こそが完全な読者術である』

情報が濁流している。そう思ったことはあるだろうか。2000年代以降、急激にSNSが普及し、気軽に著名人の発言やネットニュースに触れられるようになった。Twitter(現X)がその典型であろう。ただ、どうだろうか。その気軽さゆえに、そういった情報は即席的で、断片的で、下手をしたら誤っている時もあるだろう。そうしたまとまりのない、また玉石混淆のコンテンツが、有象無象に我々に押し寄せている、それが現代の

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【書評】いかに「自分の問い」を持ち続けながら研究するか――『リサーチのはじめかた』

【書評】いかに「自分の問い」を持ち続けながら研究するか――『リサーチのはじめかた』

多くの場合、大学を卒業するには「論文」を書かなくてはいけない。また、その論文とはすでに知られていることではなく、未だ知られていないこと、考えられていないことについて書かなければならない。そのため私たちは、先人たちによって培われた先行研究を踏まえながら、新たな知を紡ぐのである。そのとき、大学にいる研究者は、そんな「新たな知」を産出するプロフェッショナルと言える。しかし、どうだろう。私たちは「新しい知

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【書評】本を最初から完璧に読もうとしてしまい、結局挫折してしまう人へ――『読んでいない本について堂々と語る方法』

【書評】本を最初から完璧に読もうとしてしまい、結局挫折してしまう人へ――『読んでいない本について堂々と語る方法』

皆さんは、どのように本を読んでいますか。本を開いて1ページ目、題名。目次はサラっと読んで、本文が始まるページまで、スキップ。そして頭から一文一文精読していく。意味内容が分かるまで次の段落には進まない。そんな読み方はしていませんか。そして「読書」とは、そういうものだと思っていませんか。

もう少し批判的に伺いましょう。「読書とは、本を頭から精読していく営みである」と、自分で勝手にハードルを上げて、勝

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【書評】何かを語るなら、まず「全体の見晴らし」を捉えるべし――『読んでいない本について堂々と語る方法』

【書評】何かを語るなら、まず「全体の見晴らし」を捉えるべし――『読んでいない本について堂々と語る方法』

『読んでいない本について堂々と語る方法』から学べること

ピエール・バイヤールは『読んでいない本について堂々と語る方法』において、本の「全体の見晴らし」を掴むことの重要性を語っている。これは、言うなれば、図書館のどこにその本があるのかを知っていること、または、その本の目次に何が書かれているのかを知っていることに対応する。著者は、この「全体の見晴らし」を掴んでいることが、本を創造的に語る上で重要であ

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