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論考

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記事一覧

【論考】千葉雅也-デリダ論ーー「同一性/差異」の脱構築

【論考】千葉雅也-デリダ論ーー「同一性/差異」の脱構築

序本noteは、「脱構築」で知られているフランスの哲学者ジャック・デリダに関するものである。ただデリダ単体の思想というよりも、フランス現代思想の研究者である千葉雅也が書いたデリダ論、つまり千葉-デリダの思想を今回は扱う。そこには、20世紀後半に一世を風靡したデリダの複雑な思考を、現代に活かす際の心構えが含まれていると考える。とりわけ千葉- デリダの思想は「仮固定」「有限」といった千葉雅也固有の概念

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【論考】人文学における「属人性」

【論考】人文学における「属人性」

明日の発表のレジュメをつくる。岡崎乾二郎『ルネサンス 経験の条件』の発表だ。この本はルネサンス絵画を再考する本である。ちょっとばかし難しい。大枠や、最後の帰結は、なんとなく分かる、が、それに至るまでの経緯、は断片的にわかるものの、それが自分の中で整合的に繋がっていかない。でも、最後の帰結だけ、なんとなく分かる。人文系の本を読んでいるとこういうことがたくさんある。論述は断片的に分かるが、それが整合的

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【論考】「知の家庭菜園」のすゝめ①

【論考】「知の家庭菜園」のすゝめ①

東西冷戦が終わり、多文化主義と資本主義がグローバルに展開されている今日、我々の共通の尺度として残っているのは、もはや「価格」のみとなった。また大学等の知的権威も失墜し、 今まで存在感のあった知識人は、今やSNSの「小さな批評家たち」と同列と化している。このようにハイカルチャーとサブカルチャーの見分けがつかなくなり、あらゆるものがスーパーフラットとなった「ポストモダン」な世界に、我々は生きている。

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【論考】「知の家庭菜園」のすゝめ②

【論考】「知の家庭菜園」のすゝめ②

私が常に考えていることは「暮らしの中で、本と付き合うとはどういうことか」である。ここでの「本と付き合う」とは、本を読むこと以外にも、本を買う、本を並べる、本を他の人に紹介する、なども含めている。この「本と付き合うこと」を通じて、自分の思考の場を養っていく、それが前作①で話したことだった。私が次に考えたいことは、それを「暮らしの中で」どのように行っていくか、という問題である。本と付き合うことを暮らし

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【論考】「知の家庭菜園」のすゝめ③

【論考】「知の家庭菜園」のすゝめ③

敬語が使いやすいので、このまま敬語でいきましょう。

私たちは当たり前なのですが、「社会」というものの中で生きています。それもそのはず、我々は一人では生きていけないため、他者と共同で生きる必要があるのでした。食事にせよ、教育にせよ、経済にせよ、複数の人間が関わることでそれらは成り立っています。ただ複数の人たちが共同で何かをするときには、何かしらの規則、ルールが必要になります。そのルールは、近代社会

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【論考】タバコ論――退廃ゆえの可能性

【論考】タバコ論――退廃ゆえの可能性

序に代えて 社会から徐々に端へ端へと、その存在が退かれつつある「タバコ」。飲食店は基本的に禁煙となり、街を歩いていても、真新しい路上喫煙禁止のマークが目に留まる。まだ私は生きて20年ほどであるが、この20年でも喫煙に対しての当たりの強さは徐々に強くなっていると感じる。法律もそうだが、思うに民衆の意識にも「嫌煙」というのが広まっているのではないだろうか。
 
というより、親の世代的には、ようやく「嫌

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【論考】自分の中に「相手を受け入れる余白」を持つことの可能性‒‒合唱指揮者の経験から

【論考】自分の中に「相手を受け入れる余白」を持つことの可能性‒‒合唱指揮者の経験から

この文章は、リーダーシップに関する授業で書いたレポートの没案である。現代のリーダーシップには、トップダウン的なリーダーシップではなく、集団の一人一人がボトムアップ的にリーダーシップを発揮するといった「シェアド・リーダーシップ」というあり方がある。このレポートはそこから着想を得て、合唱における合唱指揮者のあり方を考察したものである。

その時に参考にしたのが、東工大の「未来の人類研究センター」が行っ

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【論考】フェミニズムにおける「言説/物質」と、現代生物学

【論考】フェミニズムにおける「言説/物質」と、現代生物学

本noteは、大学院の授業で提出したレポートをもとにしている。主に、近年のフェミニズムに見られる「物質的転回」について扱っている。序盤は、私がこのレポートを書くに至った経緯が書かれているが、後半は文献レビューになっているので学術的にも参考になるものがあるかと思う。では。

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私は、本授業の第6回で扱われた「物質的転回(Ma

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【論考】社会の中の「実験」的な場としての展覧会ーーB.ラトゥールの展覧会思想

【論考】社会の中の「実験」的な場としての展覧会ーーB.ラトゥールの展覧会思想

 このレポートでは、ブリュノ・ラトゥールの展覧会に対する考えを考察する。

 ブリュノ・ラトゥール(1947-2022)は、フランスの人類学者で哲学者である。ラトゥールのはじめの仕事としては、実験人類学が挙げられる。実験人類学とは、科学的な知識が実験室の中でどのようにつくり出されるのかを人類学的な手法で明らかにするものである。その後、ラトゥールは「近代社会がどのように自然に対する知識を作り出してき

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