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#小説

クリームイエローの海と春キャベツのある家(4/4章)/小説 #創作大賞2023

クリームイエローの海と春キャベツのある家(4/4章)/小説 #創作大賞2023

◆前回のお話
はじめから読む方はこちら。
ひとつ前から読む方はこちら。

9. それから何度目かの水曜日。雨の続く季節になっていた。
 ここのところ、朔也は津麦が約束の18時まで家にいることを許してくれるようになっている。以前、知らない人が家にいるのが落ち着かないと言っていたから、「知らない人が家にいる」感覚から、「いつものカジダイさんがいる」に変化してきたのかもしれないな、と津麦は思う。
 子供

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クリームイエローの海と春キャベツのある家(3/4章)/小説 #創作大賞2023

クリームイエローの海と春キャベツのある家(3/4章)/小説 #創作大賞2023

◆前回のお話
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7.「またキャベツかぁ」
 冷蔵庫を開けると、今日もごろんとひと玉、春キャベツが入っていた。ひんやりと輝く黄緑色。
 鮮やかだなあと見惚れる反面、同じ食材が続くとレパートリーに限界が来そうで、少し不安になる。視線を感じ、顔を向けると台所のそばに真子が立っていた。

「水飲みたくて。暑くて」
 いつものように表情には乏しいが、

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クリームイエローの海と春キャベツのある家(2/4章)/小説 #創作大賞2023

クリームイエローの海と春キャベツのある家(2/4章)/小説 #創作大賞2023

◆前回のお話
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4.「そんなことが…大変でしたね」
 電話口の安富さんは、同情するような声で言う。
 昨日の津麦は、怒っていた。ちゃんと時間の枠をとって予約していたのに蔑ろにされた、どこにでも嫌な人はいるものだ、と思ったりもした。けれど時間が経つにつれ、自分自身にも非があったのではないか、とも思い始めていた。朔也が何か言いかけてやめたことが、引っかかっていた。

「あー

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クリームイエローの海と春キャベツのある家(1/4章)/小説 #創作大賞2023

クリームイエローの海と春キャベツのある家(1/4章)/小説 #創作大賞2023


プロローグ. ほんの些細なことで、
 見えてた世界の色がガラリと変わってしまうことってある。

 たとえば、今朝のはなし。
 永井 津麦が降り立ったのは、陰気な駅だった。蛍光灯の灯りが3つに2つくらい消えていて薄暗い。ホームから改札へあがるのに、エスカレーターはない。みな下を向いて兵隊みたいに一定の速度で階段を上がって、改札を出て行く。津麦も、その列に無心で加わった。
 線路沿いの道は、でこぼこ

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綺麗な彫刻 /青春小説

綺麗な彫刻 /青春小説

「深山くんさ、彫刻のモデルになってくれない?」

一ノ瀬沙和から言われたのは、
夕刻の水飲み場だった。

彼女の後ろで、
空は水色からオレンジ色のグラデーションを描いている。

僕の首からは、拭い切れなかった水道水と、
頭の毛穴から溢れた汗とが一緒になって、
透明で大きな粒を作り、コンクリートに落ちて行く。

からかわれているのだと思った。

彫刻のモデルって、雑誌に載るような、
筋肉の陰影がたっ

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