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せやま南天
2023年7月9日 13:21
◆前回のお話はじめから読む方はこちら。ひとつ前から読む方はこちら。9. それから何度目かの水曜日。雨の続く季節になっていた。 ここのところ、朔也は津麦が約束の18時まで家にいることを許してくれるようになっている。以前、知らない人が家にいるのが落ち着かないと言っていたから、「知らない人が家にいる」感覚から、「いつものカジダイさんがいる」に変化してきたのかもしれないな、と津麦は思う。 子供
2023年7月4日 11:07
◆前回のお話はじめから読む方はこちら。ひとつ前から読む方はこちら。7.「またキャベツかぁ」 冷蔵庫を開けると、今日もごろんとひと玉、春キャベツが入っていた。ひんやりと輝く黄緑色。 鮮やかだなあと見惚れる反面、同じ食材が続くとレパートリーに限界が来そうで、少し不安になる。視線を感じ、顔を向けると台所のそばに真子が立っていた。「水飲みたくて。暑くて」 いつものように表情には乏しいが、
2023年6月30日 11:16
◆前回のお話はじめから読む方はこちら。4.「そんなことが…大変でしたね」 電話口の安富さんは、同情するような声で言う。 昨日の津麦は、怒っていた。ちゃんと時間の枠をとって予約していたのに蔑ろにされた、どこにでも嫌な人はいるものだ、と思ったりもした。けれど時間が経つにつれ、自分自身にも非があったのではないか、とも思い始めていた。朔也が何か言いかけてやめたことが、引っかかっていた。「あー
2023年6月29日 16:12
プロローグ. ほんの些細なことで、 見えてた世界の色がガラリと変わってしまうことってある。 たとえば、今朝のはなし。 永井 津麦が降り立ったのは、陰気な駅だった。蛍光灯の灯りが3つに2つくらい消えていて薄暗い。ホームから改札へあがるのに、エスカレーターはない。みな下を向いて兵隊みたいに一定の速度で階段を上がって、改札を出て行く。津麦も、その列に無心で加わった。 線路沿いの道は、でこぼこ
2022年6月17日 11:42
「深山くんさ、彫刻のモデルになってくれない?」一ノ瀬沙和から言われたのは、夕刻の水飲み場だった。彼女の後ろで、空は水色からオレンジ色のグラデーションを描いている。僕の首からは、拭い切れなかった水道水と、頭の毛穴から溢れた汗とが一緒になって、透明で大きな粒を作り、コンクリートに落ちて行く。からかわれているのだと思った。彫刻のモデルって、雑誌に載るような、筋肉の陰影がたっ