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好きな短編のタイトルを並べて理想のアンソロジーの目次を作る(国内作家編)

以前こんな記事を書きました。

この時は海外作家のみで選んだので、いつか国内作家からも選んでみたいなあ、などと思っていたのです。

だいぶ時間が経ちましたが、今までに書いたnote記事をさかのぼっていた時に思い出しまして。
よっしゃやってみよう!って自分の本棚を眺めてから、

① 好きな短編のタイトルを手帳に書き出し、
② 数を12作品まで絞り込み、
③ 読後感や通して読んだ流れを考慮して収録順を考える!

……という超個人的至福の作業に没頭しました。



全12話なのは海外作家編に合わせたかったから。
おかげでとても迷いましたが、同じぐらい楽しかったです。
noteの目次機能、やっぱり便利だ。



01. 安部公房『鞄』

笑う月(新潮文庫)
安部公房は『砂の女』とこの短編集『笑う月』の二作が好きで、繰り返し読んでいます。
本作は短いしさらりとしていて、ずいぶんあっさりした読み応えではあるものの、不気味という言葉だけでは表現しきれない不可思議な読後感を伴う短編なんです。
あと海外作家編の一番最初をカフカ『掟の門』にしたから、それと対になるようにしたかったという気持ちもある。夢ゆえの、そして夢ならではの不条理な世界。



02. 芥川龍之介『戯作三昧』

戯作三昧・一塊の土(新潮文庫)
『地獄変』『藪の中』とも迷ったけど、創作者の信念から気苦労から発奮から矜持まで全部盛りとも言える本作がやっぱり好きなのです。
12作品全部並べ終わった後で気づいたけど、海外作家編だと2番目はサマセット・モーム『詩人』にしていたんでした。あちらはファン視点でこちらは創作者視点。偶然の対比が面白い。



03. 町田康『ゴランノスポン』

ゴランノスポン(新潮文庫)
『戯作三昧』の次にこれを置く、という自分だけの愉悦。
町田康の小説を母国語で読める幸せを噛みしめたくなる作品です。世界よ、これがマーチダ文学だ。



04. 太宰治『懶惰の歌留多』

新樹の言葉(新潮文庫)
学生時代の教科書で存在を知った太宰治。
大人になってから、初めて自主的に文庫本を買って読んだ太宰作品は、この短編集『新樹の言葉』でした。
そして本作に見事にやられた。
「書けない」というテーマで一作品を書ききってしまう無茶苦茶さに衝撃を受けました。
それから太宰治の小説を何作も読みましたが、いまだにこの短編が一番好きです。角川文庫とかでも読めるけど、新潮文庫版のページ構成が好き過ぎる。



05. 古川日出男『夏が、空に、泳いで』

gift(集英社文庫)
ごくごく短い、あっさりした文章ではあります。ただそのあっさりした短さの中に、眩しさや鮮やかさ、瑞々しさといった視覚的な感銘を得られる作品。古川さんの作品そんなに沢山読んでいるわけではないけど、言葉に落とし込んだらどうしたって解像度下がってしまいそうな情報や感情を、言葉で呼び起こさせることに長けた作家さんだなあという印象を抱いています。



06. 伊坂幸太郎『アンスポーツマンライク』

逆ソクラテス(集英社)
伊坂さんも大好きな作家のうちの一人なので、絶対選びたかったのです。でも『死神の精度』(文春文庫)や『チルドレン』(講談社文庫)は、大好きだけどガッツリ連作短編集だから一話だけ抜き出すのは違う気がする……いやでも……などの逡巡を重ねた結果本作にしました。
読み終わった時に無性に泣きたくなったのを覚えています。文庫化が待ち遠しいよ。



07. 夢野久作『何んでも無い――少女地獄より』

少女地獄(角川文庫)
表題作が変則的な構成になっていて『何んでも無い』『殺人リレー』『火星の女』という、設定上は繋がりの無い別々の三話の書簡体小説をまとめたものを『少女地獄』と題した一作として発表している作品です。
三話とも好きだけどこれは格別。
病的な虚言癖を持つ天才看護婦と、彼女に翻弄される医師たちの話です。名前を伏せられようと絶対わかる、唯一無二の文体に酔うのにぴったりの作品。



08. 吉田篤弘『黒砂糖』

水晶萬年筆(中公文庫)
どっぷり濃い夢久ワールドの次に何をもってくるかって選択、重大だなって感じて吉田篤弘さんにしました。
恋愛感情を超越した次元で他者に憧れるということ、惹かれるという感情を、最小限の言葉と情景でもって表現した美しい短編です。吉田さんが描く夜はいつだって優しい。



09. 町田康『エゲバムヤジ』

記憶の盆をどり(講談社)
海外作家編でもサマセット・モームだけ二作品選んだので、国内作家から選ぶ時も一人だけ二作品選ぼうと心に決めていたのです。
世にも奇妙な物語みのある、とっても短い作品。もしかしたらよくあるパターンなのかもしれないけど、それでもこの鮮やかな手腕にはただただ惚れ惚れするばかり。



10. 村上春樹『土の中の彼女の小さな犬』

中国行きのスロウ・ボート(中公文庫)
春樹さんの短編も、良い作品がたくさんあるのでどれを選ぶか悩みました。最終的に本作に収録されている『午後の最後の芝生』との二択で悩んだけど、初めて読んだ時のインパクトを選んでこちらに。
インパクトって軽い言葉で言っちゃったけど、正直かなり驚いたんです。でも確かに浄化だと感じました。雲間から射す光みたいな一言だった。



11. 三島由紀夫『憂国』

花ざかりの森・憂国(新潮文庫)
初めて読んだ時の衝撃が忘れられず、そしてその衝撃の強さと物語が持つ引力ゆえに、読み返す事が出来ずにいる短編です。
でも凄まじい作品だと断言したいから、好きな短編を選ぶなら絶対入れたかった。この作品を書いた時の三島由紀夫は間違いなく天才だったと思う。



12. 森博嗣『キシマ先生の静かな生活』

まどろみ消去(講談社文庫)
デビュー後、最初に発表した短編集に収録された作品で、森さん自身は本作を「トリッキィなミステリィ」と呼んでいました。
時を経て本作の内容が『喜嶋先生の静かな世界』(講談社文庫)という長編小説として発表されるのですが、そこに書かれるのは「自伝的小説」という一文なのです。それゆえいろいろなことを考えてしまうファン心理。
長編小説の方は人間性と時間の双方で奥行きを感じられる作品ですが、それらを含めて徹底的に削ぎ落としたように感じられる、ミニマリズムの極北ともいえる透徹した美しさを感じられる短編です。発表順から考えたら「削ぎ落とした」の感想は的外れではあるんだけど…。




まとめ

できるだけ簡潔に書こう、簡潔に書こう……って考えるほどに饒舌になる気がする。でも選ぶのも、選んだ理由を考えてアウトプットするのも楽しかったです。
そして、夏目漱石『夢十夜』・川端康成『眠れる美女』・乙一『ZOO』・あと中村文則『惑いの森』収録の掌編などなど……入れたかったけど入れられなかった素晴らしい作品も他にもあります。

海外作家編と合わせて、現時点でのオールタイムベストと呼べる24編を選べたと思う。考える中で再読欲を煽られまくったので、近々また読み返したいです。




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