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僕の壮絶な高校野球人生 完結へ 前編



一球一球ごとに、観客の声が、地響きを起こすような勢いで鳴り響く。



相手のブラスバンドの演奏は、少しでも気を抜けば、飲み込まれてしまいそうに
なるくらいの完成度と雰囲気があり、とても恐れを感じた。

どう表現していいのだろうか。

黒い水みたいなものが、津波のように襲いかかってくるような感覚だった。


僕達はその雰囲気に、自分自身が持っている全てのエネルギーを注ぎ込んで、
立ち向かっていた。





9回裏、2アウト、3対1。




僕達はリードしていた。




あとひとつ、アウトを取ればこの戦いに勝利する。



相手の歓声、野次、ベンチの盛り上がり、選手の集中力は限界まで高まっていた。





 2ストライク。 あと一球。







三振。試合終了。


僕達は、

勝った。


盛り上がるベンチ、スタンド。


試合が終わり、アルプススタンドに挨拶に行くと、

そこには、笑顔の人、泣いている人、抱き合っている人、大声を出している人、
僕達に向かって手を振っている人がたくさんいた。

僕は、
「僕達のプレーでこんなたくさんの人を感動させることができたんだ。
 スポーツって素晴らしいな。高校野球って素晴らしいな。」

と思った。

そして、心の底から、


「野球部を辞めなくて良かった。」 

と思った。


あの時に辞めていたら、こんな感動を味わうこともできなかったし、
高校野球が、こんなにもたくさんの人を感動させるということも
実感することができなかった。



「辞めてしまった24人の仲間は今何しているのかな?」

ふとそんなことも思った。




気づけばもう夜の9時になっており、空は真っ暗だった。



球場の外に出るとみんなが大盛り上がりで、
「おめでとう!おめでとう!」と言ってくれた。


そのお祭り騒ぎの中、勝利の余韻に浸りながら、僕達はバスに乗り込んだ。


だがバスに乗り込んだ僕達の心は、もう次の試合に向いていた。




「まだ甲子園が決まったわけじゃない。次も必ず勝つ。」




そして炎天下の中、夏の甲子園予選、準決勝の日がやってきた。


相手は、秋の京都大会の決勝戦で戦った高校だった。




「プレイボール!!」




バックスクリーンにはの文字がずらっと並んだ。


両者一歩も譲らない展開だったのだが、4回裏の相手の攻撃で試合は動いた。



打ち取った打球だったのだが、それがライトの前に落ちてしまって
そのままランナーがホームイン。

一点を許してしまった。



5回が終わり、迎えた6回だった。


僕の出番がやってきた。


「小林、代打行くぞ!」

「はい!」


6回表、僕はバッターボックスに入った。


相手ピッチャーの鋭い眼差し、スタンドの歓声、
この球場の全員が僕の方を見ている。

僕はとても緊張して、足が地面に付いている感覚がなかった。


「どんな球が来るんだろう。変化球かもしれない。ボールは速いかな。
 絶対打ってやる。でもホームランを狙うと力が入ってしまうから、もうちょっと抜こうか。ここでヒット打ったらかっこいいだろうな。」


バッターボックスに立ち、相手ピッチャーが一球目をを投げるまでに、
こんなことばかりが頭の中に浮かんでくる。


集中しないといけないと思うと余計に集中できなくなる。
でも集中したい。


そんな中、ピッチャーが1球目を投げてきた。


ボール!


2球目、


ボール!


3球目、


ボール!


ノーストライク3ボールになった。


4球目、


ストライク!


5球目、


ものすごく、甘いボールだった。


僕は全力でバットを振った。



ボールは、自分の後ろに飛んでいき、ファールになってしまった。



2ストライク、3ボールになった。



そして6球目、




僕はストライクゾーンにきたボールを、思いっきり振った。






三振。



僕は三振してしまった。


とても悔しかったが、僕は次の打席で必ず打てると思っていた。





そしてそこからまたがずらっと並び、

迎えた8回だった。



僕の打席は、ランナーが三塁にいる状況で回ってきた。

ヒットを打てば同点。




だが、僕は打席に立つことはできなかった。




僕の代打として仲間が打席に立ち、
結局1点も取ることができなかった。




そして9回表、1対0で僕たちは負けていた。




2アウト。

僕はベンチから、祈ることしかできなかった。






試合終了。


夏の甲子園の夢は叶わなかった。




僕たちの長くも短かった高校野球生活が終わった。





また涙がでてきた。


僕は相手の校歌を聞きながら、入学してから今までの思い出を振り返っていた。


色んなことがあった。
毎日が苦しくて、辛かった。

でも、今この高校野球が終わった瞬間にいる自分は、
「本当に野球部に入ってよかったな」 
と思えている。 

不思議なものだなと思った。


そして僕は、この時に学んだことがある。

それは、

どんなに苦しいことがあっても、最後に素晴らしいと思えることがあると、今までの経験も全て素晴らしいものになる。


途中で野球部をやめてしまっていたら、こんな体験はできなかったと思う。

でも最後までやり続けたからこそ、体験できたこと、学んだことはたくさんある。

本当に最後まで続けて良かった。

今まで支えてくれた家族、そしてチームの仲間、本当にありがとう。





そして、僕たちの夏休みが始まった。



待ちに待った夏休み。そして引退生活。


僕は心をワクワクさせながら夏休みの予定を立てた。



今まで野球しかやってこなかった。


昼の明るい時間に電車に乗ること、昼間に街を歩いてること、
友達とラーメンを食べていること、ゲームセンターでボーリングや
カラオケをしていること、全てが新鮮で、部活をサボっているような感覚になった。



今まで苦しいことも楽しいことも共有してきた仲間と遊ぶのは、
本当に楽しかった。


毎日睡眠不足になりながら、とにかく毎日遊びまくった。




そんな夏休みも終わり、学校が始まった。



そして、急に僕の目の前に大きな問題が現れた。


それは、




進路だった。




そしてこの進路相談で、僕の心はまたズタズタになってしまう。



続く。。







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