霧満るろ

小説を書いています

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  • 140字小説

    140小説まとめ

  • あくびの隨に

    境内であくびをした拍子に、世多逸流は日本国と酷似した世界――留包国へと神隠しに遭う。そこで自らを神と名乗る謎の少女・稲と出会った。元の世界に帰るためには、この世界に破滅をもたらす存在『邪なる蛇』を倒す必要があるという。そのためには、稲とともに旅をしながら、かつて神とともに邪なる蛇を封印した戦士の末裔である『五大光家』を探す必要に駆られた。 なぜ、逸流はこの世界に呼ばれたのか。そして、邪なる蛇とは何者なのか。その答えを目指す道程には、過酷な現実が待ち受けながらも、二人はその先に待つ真実へと歩んでいく。

  • 短編小説

    短編小説まとめ

  • イジーさんに連れられて

    子供専門の人攫いイジーは、農村で不当な扱いを受けていた兄妹を誘拐する。当初は警戒心を抱かれるイジー。だが、その目的が不遇の子供を孤児院に連れて行くことだと知った兄妹は、少しずつ心を開いていく。しかしイジーが懇意にしていた孤児院には、イジーも知らない裏の顔があった。 果たして、イジーと兄妹に待ち受ける運命とは――

  • 武装甲女は解を求める

    王国騎士である武装甲女ジゼルは、その腕を買われて公国の貴族ケイリス卿の護衛を任された。脅迫状に悩まされていた彼を、ジゼルは部隊を引き連れて警護する。脅迫状の犯人は、ケイリス卿の身近にいる人間を殺して回っていた。その手口が過去に、この街で起きた惨魔と呼ばれた殺人鬼の事件と酷似している。ジゼルはこの街の過去を知る青年リアンとともに、不可解な事件に隠された真実に迫っていく。

記事一覧

140字小説 「角」

「ぶつけろ」「何だね、君。突然」「豆腐だよ。続く言葉は分かるね」「意味不明だ。私たちは初対面じゃあないか」「あそこに男女がいるだろう」「ギクッ」「貴方は二人を尾…

霧満るろ
5時間前

140字小説 「紅珈琲」

「赤いコーヒー知ってる?」「聞いたことないね」「三丁目のカフェの裏メニューよ」「唐辛子でも入ってるの?」「いえ。でも搾りたてで新鮮なの」「ふーん。三丁目といえば…

霧満るろ
1日前

140字小説 「明晰夢」

私の人形が、クレーンに掴まれてベルトコンベアーに乗せらる。他にも弟の車の玩具や、隣のおじさんの梯子。近所のおばさんの派手な指輪も、学校の先生の白い車も、いっしょ…

霧満るろ
2日前

140字小説 「遊び相手」

私の家には子供がいる。今どき珍しく着物を着た子供だ。よく遊び相手になるのだが、基本的にじゃれているだけだ。大した遊びは行わない。私は物が持てないし、子供も物を持…

霧満るろ
3日前

140字小説 「孤独」

男は悪党に騙され、警察に追われていた。人を信じられなくなり、個人情報を完全秘匿するようになった。氏名、素顔を晒すことを恐れ、指紋が残るので物にも触れられない。声…

霧満るろ
4日前
2

140字小説 「名もなき滝」

人生に疲れ切った男がいた。最後の地を目指し、選んだのは名もなき滝。男は崖から飛び降りようとする。と、そこに一人の坊主が現れ言った。「祈りを捧げれば、この滝にそな…

霧満るろ
5日前
2

140字小説 「台風の目」

「今日も平和ですねえ」「穏やかで素敵な一日ですなあ」「どうして外の人たちは争うのでしょう」「不思議ですなあ」――世界は滅んだ。一部の人間だけが移動要塞で安寧を享…

霧満るろ
6日前
2

140字小説 「つぼ」

祖父が高値の壺を買って来た。騙されたと思った父は、店を聞き出して文句をつけに言った。だが店主は父を見るや否や、見る目がないと抜かす。腹が立った父はガラクタしかな…

霧満るろ
7日前

140字小説 「ストレス」

部屋に埃が溜まっていた。掃除をしたはずなのに、なぜだろうと考えつつ埃を捨てる。しばらくすると、また埃が溜まっていた。天井から落ちた様子はない。気味が悪かったが、…

霧満るろ
8日前

140字小説 「郵送」

ある富豪が、意中の相手に手紙を書くことにした。しかし手紙を書いたことがなく内容に苦労する。そこで使用人に相談し、どんなことに喜ぶのか訊ねた。後日、手紙が返送され…

霧満るろ
9日前
1

140字小説 「脅威の成功率」

そのジムトレーナーは真面目な男だった。これまで受け持った生徒の、ダイエット成功率は100%。決して妥協は許さないが、厳しい言葉はかけない。そして誰一人として、肥…

霧満るろ
10日前
2

140字小説 「不釣り合いな家」

都内に、古ぼけた家があった。周囲には高層マンションが立ち並ぶのに、そこだけ取り壊されずに残されている。昔、一人の少年が絵を描いたそうだ。近未来の絵である。背の高…

霧満るろ
11日前
1

140字小説 「ある昼下がり」

筆をサッと引いたような青空だった。私は紙を丸め、くり抜かれた筒を前のめりに覗き込む。昔、父に教えられたのだ。自分がそこにいる感じがする、鳥みたいに自由に飛ぶ想像…

霧満るろ
12日前
1

140字小説 「印象名」

私の名前は寿限無より短い。何を当たり前のことと思われるかもしれないが、割と人間は長い名前の方が覚えられるものだ。無論、暗記するわけではない。あの人の名前長いな、…

霧満るろ
13日前
1

140字小説 「丸く収める方法」

あるところに三角島と四角島があった。二つの島に住む部族は言語の違いでいがみ合っていた。そこで両者の友好を結ぶため、丸島から派遣された使者が仲介に入る。しかし話し…

霧満るろ
2週間前
1

140字小説 「横文字」

祖父が孫と外出した。プラレールが欲しいとおねだりされたのだ。両親は無駄遣いする必要ないと言うが、祖父はまあまあと甘やかす。しかし夕方に帰ってきた祖父は、眠ってい…

霧満るろ
2週間前
1
140字小説 「角」

140字小説 「角」

「ぶつけろ」「何だね、君。突然」「豆腐だよ。続く言葉は分かるね」「意味不明だ。私たちは初対面じゃあないか」「あそこに男女がいるだろう」「ギクッ」「貴方は二人を尾行している。ストーカー以外の何ものでもない」「そ、それは……いや待て、なぜ貴女はそれを知ってる?」「彼は私の旦那だから」

140字小説 「紅珈琲」

140字小説 「紅珈琲」

「赤いコーヒー知ってる?」「聞いたことないね」「三丁目のカフェの裏メニューよ」「唐辛子でも入ってるの?」「いえ。でも搾りたてで新鮮なの」「ふーん。三丁目といえば行方不明事件が起きたらしいね」「そうなの?」「不審者情報もあるし君も気をつけな」「うん。そのお爺さんも見つかると良いね」

140字小説 「明晰夢」

140字小説 「明晰夢」

私の人形が、クレーンに掴まれてベルトコンベアーに乗せらる。他にも弟の車の玩具や、隣のおじさんの梯子。近所のおばさんの派手な指輪も、学校の先生の白い車も、いっしょくたになって、溶鉱炉へと運ばれる。ああ、そうか。失くしたんだ。盗まれたんだ。壊れたんだ。そして溶けて、忘れていくんだね。

140字小説 「遊び相手」

140字小説 「遊び相手」

私の家には子供がいる。今どき珍しく着物を着た子供だ。よく遊び相手になるのだが、基本的にじゃれているだけだ。大した遊びは行わない。私は物が持てないし、子供も物を持てない。二人して、商売で忙しい大人たちを尻目に、顔を突き合わせているだけだ。招き猫と座敷童の日課など、そんなものである。

140字小説 「孤独」

140字小説 「孤独」

男は悪党に騙され、警察に追われていた。人を信じられなくなり、個人情報を完全秘匿するようになった。氏名、素顔を晒すことを恐れ、指紋が残るので物にも触れられない。声紋を気にして喋ることもせず、髪の毛からDNAが抜かれる危険性から、家に籠るようになった。その結果、男は警察に発見された。

140字小説 「名もなき滝」

140字小説 「名もなき滝」

人生に疲れ切った男がいた。最後の地を目指し、選んだのは名もなき滝。男は崖から飛び降りようとする。と、そこに一人の坊主が現れ言った。「祈りを捧げれば、この滝にそなたの名をつけよう」男は出家し、僧侶となって祈りを捧げ続けた。生き甲斐を見つけた男は名を捨て、滝に名がつくことはなかった。

140字小説 「台風の目」

140字小説 「台風の目」

「今日も平和ですねえ」「穏やかで素敵な一日ですなあ」「どうして外の人たちは争うのでしょう」「不思議ですなあ」――世界は滅んだ。一部の人間だけが移動要塞で安寧を享受している。進路の集落を問答無用で踏み潰し、要塞から垂れ流される廃棄物質が、僅かに残る川の水を汚染していることも知らず。

140字小説 「つぼ」

140字小説 「つぼ」

祖父が高値の壺を買って来た。騙されたと思った父は、店を聞き出して文句をつけに言った。だが店主は父を見るや否や、見る目がないと抜かす。腹が立った父はガラクタしかないと言い返すが、後から専門家の男がやって来た。そして店の商品が、値打ち物ばかりだと絶賛したらしい。父は壺を買って帰った。

140字小説 「ストレス」

140字小説 「ストレス」

部屋に埃が溜まっていた。掃除をしたはずなのに、なぜだろうと考えつつ埃を捨てる。しばらくすると、また埃が溜まっていた。天井から落ちた様子はない。気味が悪かったが、仕方なく埃を捨てる。けれどやはり、目を離すと埃が溜まっていた。捨てても捨てても埃がある。一向に『眼』から離れてくれない。

140字小説 「郵送」

140字小説 「郵送」

ある富豪が、意中の相手に手紙を書くことにした。しかし手紙を書いたことがなく内容に苦労する。そこで使用人に相談し、どんなことに喜ぶのか訊ねた。後日、手紙が返送される。使用人に住所の書き忘れを疑われるが、問題なかった。富豪は落ち込んだ。せっかく喜んでもらおうと、現金の束を詰めたのに。

140字小説 「脅威の成功率」

140字小説 「脅威の成功率」

そのジムトレーナーは真面目な男だった。これまで受け持った生徒の、ダイエット成功率は100%。決して妥協は許さないが、厳しい言葉はかけない。そして誰一人として、肥満のままジムを退会することがなかった。男についた生徒の内、ダイエットに失敗した者は、必ず不審死を遂げて骨となったからだ。

140字小説 「不釣り合いな家」

140字小説 「不釣り合いな家」

都内に、古ぼけた家があった。周囲には高層マンションが立ち並ぶのに、そこだけ取り壊されずに残されている。昔、一人の少年が絵を描いたそうだ。近未来の絵である。背の高いビルや、空を飛ぶ車の絵。そこに、その家が描かれていたのだ。少年はのちに、画家として人間国宝になった。彼の生家だという。

140字小説 「ある昼下がり」

140字小説 「ある昼下がり」

筆をサッと引いたような青空だった。私は紙を丸め、くり抜かれた筒を前のめりに覗き込む。昔、父に教えられたのだ。自分がそこにいる感じがする、鳥みたいに自由に飛ぶ想像をし、風を受けて大自然の一部として溶け込める、と――そのとき鳥が入り込み、目が合う。心なしか、父の視線を感じた気がした。

140字小説 「印象名」

140字小説 「印象名」

私の名前は寿限無より短い。何を当たり前のことと思われるかもしれないが、割と人間は長い名前の方が覚えられるものだ。無論、暗記するわけではない。あの人の名前長いな、といった感じで印象に残る。反面、特徴のない名前は、誰にも覚えてもらえないかもしれないと、ふと思う。私の名前は、田中太郎。

140字小説 「丸く収める方法」

140字小説 「丸く収める方法」

あるところに三角島と四角島があった。二つの島に住む部族は言語の違いでいがみ合っていた。そこで両者の友好を結ぶため、丸島から派遣された使者が仲介に入る。しかし話し合いの場では角が立つばかりだった。仕方なく使者は本国に帰って報告すると、丸島の王は二つの島を丸で囲み、自国の領土にした。

140字小説 「横文字」

140字小説 「横文字」

祖父が孫と外出した。プラレールが欲しいとおねだりされたのだ。両親は無駄遣いする必要ないと言うが、祖父はまあまあと甘やかす。しかし夕方に帰ってきた祖父は、眠っている孫を背負っていた。手ぶらだった。結局買わなかったのかと聞くと、ちゃんとモノレールに乗ってきたと言われ、両親は苦笑した。