霧満るろ

主にファンタジー小説を書いています

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  • 140字小説

    140小説まとめ

  • 短編小説

    短編小説まとめ

  • イジーさんに連れられて

    子供専門の人攫いイジーは、農村で不当な扱いを受けていた兄妹を誘拐する。当初は警戒心を抱かれるイジー。だが、その目的が不遇の子供を孤児院に連れて行くことだと知った兄妹は、少しずつ心を開いていく。しかしイジーが懇意にしていた孤児院には、イジーも知らない裏の顔があった。 果たして、イジーと兄妹に待ち受ける運命とは――

  • 武装甲女は解を求める

    王国騎士である武装甲女ジゼルは、その腕を買われて公国の貴族ケイリス卿の護衛を任された。脅迫状に悩まされていた彼を、ジゼルは部隊を引き連れて警護する。脅迫状の犯人は、ケイリス卿の身近にいる人間を殺して回っていた。その手口が過去に、この街で起きた惨魔と呼ばれた殺人鬼の事件と酷似している。ジゼルはこの街の過去を知る青年リアンとともに、不可解な事件に隠された真実に迫っていく。

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あくびの隨に 1話

 三日月を握り締める。  薄白い光を放つなだらかな弧。伸びる出で立ちは鋭利に研ぎ澄まされ、月光を受けて反射する輝きが、艶やかに濡れそぼって白刃を映す。    この刀が向けられるは、宵闇に晒される祭壇だった。  そこは深い森の深部。  鳥居を模した五つの門がある。  それぞれから続く石造りの道の左右は、並列する木柱で厳かに飾られていた。全ての道が交わる先は一点に集約し、祭壇へ向けて階段状に高さを増していく。床に仕込まれた松明が、消えることのない業火のように、煌々と周囲を浮かび上

    • 140字小説 「しつこい汚れ」

      頑固な汚れが目立つ。ゴシゴシ何度もタワシで擦ってみるが、一向に落ちてくれなかった。洗剤を撒いても薬品を振りかけても、どうしてもその薄茶色に淀んだ壁の染みが消えてくれない。いっそ壁紙を張り替えても染みが浮き出る。深夜、壁の染みからドロドロと赤いものが溢れてきた。あぁ、しつこい男だ。

      • 140字小説 「子守歌」

        私は幼い頃、よく子守歌を聞かされた。お昼を食べて、縁側近くの畳で寝転んで瞼を閉じると、いつも誰かが口ずさんでくれた。お母さんじゃない、とても優しい女性の声で、子守歌というよりは童謡のようなメロディだった。だけど、あとで家族に聞くと、誰も知らないと言われた。お父さんの生家の出来事。

        • 140字小説 「憑かれた男」

          男は物の怪に憑かれていた。近所の神社にお祓いを頼んだのだが、神主は首を横に振った。「これほどのもの私には到底祓えぬ」男は困り、遠出をして霊験あらたかな神社に赴いた。しかし神主は言う。「それを祓うことはできぬ」男はそれでも懇願するが神主は肩を落とした。「お爺さん、それはお迎えです」

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        あくびの隨に 1話

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        • 140字小説
          33本
        • 短編小説
          3本
        • イジーさんに連れられて
          17本
        • 武装甲女は解を求める
          51本

        記事

          140字小説 「認識の相違」

          「何を聞いているんだい?」「ビートルズだよ」「これはまた古い曲を聞いているね」「音楽に新しい古いはないよ」「そうかな?」「クラシックの多くだって、ずっと聞き継がれてきただろう」「言われてみれば確かに」「だから僕が古い曲を聞いていようと問題ないというわけさ」「今、古いって言ったね」

          140字小説 「認識の相違」

          140字小説 「最後のコイン」

          「あと一枚でコインタワーが完成する」「これで一週間の苦労が報われるね」「でも実は、あと一枚が足りないんだ」「そうか分かった。僕のを貸そう」「良いのかい? ありがとう。よし、これで完成だ」「おめでとう」「後は写真屋に撮ってもらうだけだ」「じゃあ僕は帰るよ。さっきの電車代返してくれ」

          140字小説 「最後のコイン」

          140字小説 「同じ台詞」

          「私が王様になったら」男の演説は誰も見向きもしないものだった。「今の政治よりも良く」翌日も男は大衆から無視されていた。「我々の平和はどこに行った」男の声に数人が耳を傾けた。「王は年貢を私利私欲に利用している!」多くの者が男の声を聞く。「私が王様になったら――」民衆は男を支持した。

          140字小説 「同じ台詞」

          140字小説 「探偵は見た」

          共通の趣味を持つ四人の男がいたが、二人は金銭関係で揉めており、旅行中に犯人は被害者に毒物を飲ませ犯行に及んだ。しかし偶然その場に居合わせた探偵は、一目で犯人を特定した。ダイイングメッセージは、不自然に指差したへそ。今日、彼らは秘湯巡りに来ており、この中で唯一犯人だけ出べそだった。

          140字小説 「探偵は見た」

          あくびの隨に(完結) 36話

          前回  移り変わる夢のようであった。 「……ここは?」  目覚めた逸流が立っていたのは、見覚えのあるような空間である。しかし、それにしては明暗の配色が異なっていた。  たしか以前来たときは、背景が真っ黒で人間の輪郭が灰色という、奇妙奇天烈な場所だったと記憶している。  それなのに今は辺りが真っ白で、自分の身体を見るとしっかり色がついており、最大の違和感と言えば身に纏った学制服。  常世の隔域のような空間に佇む逸流は、留包国に来たときと同じ服装で佇んでいた。 「邪なる蛇

          あくびの隨に(完結) 36話

          140字小説 「川辺の少年」

          船が停泊していた。こんな場所に浮かべた覚えはない。周囲を見渡してみると、川辺で一人の少年が川の向こうを見ていた。「君、一人?」「うん」「早くお帰り。ここは君のいる場所じゃないよ」「……良いの?」怪訝な表情の少年に続けた「船頭の私が言うんだから間違いない」少年は花畑へと引き返した。

          140字小説 「川辺の少年」

          あくびの隨に 35話

          前回  邪なる蛇の見下ろす下界は、広大にて矮小だった。  五芒星を模した留包国という隔世の大陸。山があり、川があり、直下にあるは草木の枯れ果て、生き物が住むこともできない封節の森。その中心に長らく居座っていた神の座する封節の社も、今や存在があったことすら嘘のように消し飛んだ。  奈落の底で永劫にも感じられる間、封印されていた積年の憎悪。  遣いである腐土の権現によって、人々の血と負を吸った大地から流れ込んできた力は、強大にして絶対無比。  灼熱の瘴気をひと吹きしただけで

          あくびの隨に 35話

          140字小説 「ドレミの歌」

          「どこかにいないかな?」「レンジャーみたいな彼氏が欲しいんだっけ」「みんなのこと助ける人に憧れるの」「ファイアマンなんて理想だね」「そうそう。でも私の方が釣り合わないんじゃないかって不安になっちゃう」「ラフに考えれば良いって」「辛抱強く待つしか……ねえ、あの人」『どストライク!』

          140字小説 「ドレミの歌」

          あくびの隨に 34話

          前回  封節の社は跡形もなくなり、残るものは蒸気の登る果てしない凹面。  まだ人里のない森の深部だから良かったものの、これが町を襲えばそのときこそ人間たちは終わりを迎えるだろう。 「神の記憶によれば、邪なる蛇の吐息は万物を溶かしたという。決着を急がねば、私たちの身が持たん」  稲は邪なる蛇を見上げてから、生き延びた面々に視線を移す。  そして呟くように、彼らに対する思いを語った。 「今の一撃で怖気づいた者がいても責めはせん。されどこの場を生き延びたとて、あれに殺される

          あくびの隨に 34話

          140字小説 「最速対決」

          今日の体育は、待ちに待った50メートル走の日。普段はクラスメイトの速水くんに負けているけど、この日のために放課後、たくさん練習してきた。転んで膝を擦りむいたって、涙を我慢して努力を続けて来たから。もう最速の座は譲らない。さあ、行って! 貴方の背中は私が見てきた。頑張って早田くん。

          140字小説 「最速対決」

          あくびの隨に 33話

          前回  五大光家と逸流の活躍により、腐土の権現は掃討される。  しかし、封節の社の遥か底。  奈落より噴出する瘴気は、刻限が迫ったかのように膨張しながら、地表へと激流のように溢れた。  北に稲、北西に一陽、南西に透非、北東に司垂、南東に数良、南に逸流。  祭壇を取り囲むように、一同は中心地を見据える。  溢れ出す邪悪な霧状は、やがて漆黒の空に黒い姿を形作っていった。  鋭利に尖った尾から徐々に生み出される全貌。幾重もの鱗を鎧の守りと着込むように、長く引き伸ばされる尾は胴体

          あくびの隨に 33話

          140字小説 「目的地まであと」

          「おや、どうしたんだい?」「あの木の下に行きたいんだ」「それはい良いね」「でもすでに三十分ぐらい歩いたけれど、一向に近づく気配がないんだ」「道に迷ったのかな?」「ううん、ずっとあの木が見えているよ」「あの木を見ながら歩いているの?」「そうだよ」「それじゃ絶対着かないよ、カニさん」

          140字小説 「目的地まであと」