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コインランドリーカントリー
コインランドリーの前にとめた車の中から、道の向こう側を覗いた。
病院の窓は灰色に光っていた。
どの窓にもバッテンがされている。
台風が近づいていた。
病院の明かりは力無く、弱々しいものだった。蛍光灯の数が不足している。だから、古い壁紙の黄ばみばかりが窓から漏れてくる。
その病院にかかったことはあった。
首をやったときと、たしか腰をやったとき。
入院用の病棟もあるとは知っていたが、そこの明かりを
眠るためには適切な疲労が必要だった。
眠るためには適切な疲労が必要だった。
心を焦がす焦燥の末のくたびれた疲労ではなく、目的と過程にねじれのない肉体的な充実を伴う疲労が必要だった。
炎天下で河原の石を吟味しているとき、それを見下ろしながら通り過ぎる10トントラックの運転手に憑依するような気持ちになる。暑いのによくやるよと呆れる顔つきが、むしろ自分にとって正しいもののように思えてくるのだ。
実際、河原の石を拾っては目を近づける私の顔は
問われるメディアと受け取り手の姿勢 桶川ストーカー殺人事件についての本を読みました。
桶川ストーカー殺人事件 ー 遺言
新潮新書
清水潔著
ストーカー、つきまとい行為が犯罪であることはわたしたちにとっては当たり前のことだ。
それが当たり前になるきっかけになる事件があったことを、わたしは知らなかった。
週刊誌の記者にわたしが抱いてきたイメージなんてものは、下世話でろくでもない文屋というぐらいのものだった。正義感でもあればマシなのだろうが、とにかく彼らの仕事は人間の下世話な欲求に従
売れ残る炭酸水の箱。先週読んだ本「文章のみがき方 - 辰濃和男」
水道水の味がよくわからない。
コップに水を入れて飲んでみる。水道水はマズいという思い込みがある。それをできるだけ忘れて、ごくっと喉に通してみる。ぬるい。
地震が来るかもしれないと思うと、家を出ることが億劫になる。
居住地おんぼろ小屋なわけだから外に居たほうがよっぽど安全なんやけど、家には愛くるしい猫がいるし、なにより家が崩壊する瞬間を目撃しないことが悔しい気がする。出かけている最中に大きな揺れが
女の人は、これまあ、えらいずるいわ
27にもなった男が言うことでもないんやけど、女の人はずるいなー思うことがある。
なにがずるいかと言うたら、女の人というのは常にそれとなく魅力的やということやなーと思う。例えば、ちょっと遠くにある調味料の瓶を手を伸ばして取る。これぐらいのことが妙に魅力的な女性が居てはる。水撒きに使ったホースを巻き取るのが魅力的だったり、ぼーっとひとりごと言うてるのが魅力的だったりする始末。あれはいったいなんだろうな
ミシシッピ川東岸で発見された水死体が、新聞の一面を飾るはずの朝だった。
1.私たちの住む島の中央には永遠の湖があった。誰も大きさを知らず、水をどれだけ引いても枯れることはなかった。
村は私たちのものに限らず、湖の周りに沿うように作られていた。湖を取り囲むようにして続く山々にも小さな村がいくつかあるらしいけど、山には雨が降らず、水が豊かなことは決してなかった。
山の人たちは時々馬車と山羊と、それから大勢の子供を連れて、湖に水を汲みにきた。山の人はその時に珍しい鉱石を村に
どうしてもエビフィレオが食べたかった
エビフィレオが好き。
ハンバーガー屋の、定番のお肉が挟まれたものではなくて、あの小エビが揚げて成形されたやつが挟まれてるエビフィレオが好き。
7月の終盤。悪ふざけのように暑い。
家を出るために着替えることにした。別の話ではあるのだけど、近い場所に出かけるにしたって、最低限のおしゃれはあると思うようになった。着飾るということではなく、整える。
あんまりにもボサボサボロボロのまま家を出ていると、最低
梟は闇に嘯く 第1話(創作大賞2024/ミステリー小説部門)
あらすじ
高校生の来瀬と姫継は、担任の道長から留年の脅しを受けてフクロウのステッカーについて調査を始める。調査をするうちに、QRコードが浮かび上がる仕掛けや、ステッカーが貼られる場所で起こった殺人事件の噂を知る。さらに情報を集めていくと、地元のハシノ印刷所が関与している可能性が浮上。来瀬と姫継は真相を追い求め、廃墟となったハシノ印刷所の本社工場に潜入することを決意するが・・・・・・。
ステッカー犯
梟は闇に嘯く 最終話
道長は膝を地面について、祈るように泣いた。
涙をこらえる声は呻きのようにして漏れ出ていた。
道長もまた戦っていたんだ。俺や、来瀬や、トーキと変わらない。
身近な者に向かって必死に戦っていたんだ。
そのためには生徒を留年だって脅してまで。
「ぼくらを留年だって脅したのは端野さんを探すためだったんですね」
来瀬は屈んで、道長に語り掛けた。
「犯人をさがせっていうのは、同時に端野さんを捜せってことでも
梟は闇に嘯く 15話
体を伏せて、
溜めて、
一気に後ろへ体を持っていく、
腕を伸ばして、
目線は前。
相変わらずバイクはうんともすんともならない。ときどき前輪がふわっと浮き上がる挙動をしかけることはあったけど、それでも実際にはほとんど上がらなかった。腕で無理やり持ち上げるとちょっとだけ浮くけど、そのやり方だとバニーホップにはならないらしい。
「ちがう、溜めてからもっと勢いよく後ろに体重をのせて」
隣で姫継が並走しな
梟は闇に嘯く 第14話
月曜日の朝になっていた。
妙に意識は冴えていた。朝起きたときから、とてもスッキリした気分で、妙に清々しかった。学生服に着替えていると、母親が部屋の前を通りかかった。母は俺が学校に向かうことに驚いたようだったが、特に何も言うことはないまま通り過ぎた。
通学路を進むにつれて同じ学生が増えてくる。別にみんながキラキラした学生生活を送ってるわけじゃない。友達と楽しそうに通学路を歩く学生がいる一方で、うつむ
梟は闇に嘯く 第13話
来瀬から予め貰っていたQRコードのリンクを開く。
「確かに俺のホームページだな」
「本当に知らねえの? あんたの知り合いが宣伝したい目的で貼ったとか」
前蹴りの痛みはまだ残っていた。蹴りまで喰らっておいて丁寧な言葉なんて使ってやるかという気になった。もう一発蹴りなりパンチなりが飛んできたら、その時は応戦してやるつもりでいる。
「こんな下手な宣伝うつ馬鹿がいるかよ」
スマホの画面を触りながらホームペ
梟は闇に嘯く 第12話
いっそのこと、とことんまで静寂の中にあれば風情もあるものを、何十年前かに作られた地元歌手の曲がオルゴール調でかかり続けているものだから、色タイルのアーケード通りは退廃的な寂しさに満ちていた。その色タイルを見つめながらうろうろして、覚悟が決まるのを待ち続けて、最後は覚悟を待ち疲れてようやくビルに足を踏み入れた。
金曜日の昼下がり、野良猫もそろそろ起きなきゃいけない時刻だった。
宜丹は俺を見るなり「な