まさかり

27歳 小説を書いたり、エッセイを書いたりします。読んでいただいた方全員がブラザー。ソ…

まさかり

27歳 小説を書いたり、エッセイを書いたりします。読んでいただいた方全員がブラザー。ソウルメイト。幸あれマジで。 夢は小説家になって市民プールへ入水未遂。 青鯖を空に浮かべてここは雪国。 どこまで正気か無用な憶測はせぬがよい。

マガジン

最近の記事

  • 固定された記事

梟は闇に嘯く 第1話(創作大賞2024/ミステリー小説部門)

あらすじ 高校生の来瀬と姫継は、担任の道長から留年の脅しを受けてフクロウのステッカーについて調査を始める。調査をするうちに、QRコードが浮かび上がる仕掛けや、ステッカーが貼られる場所で起こった殺人事件の噂を知る。さらに情報を集めていくと、地元のハシノ印刷所が関与している可能性が浮上。来瀬と姫継は真相を追い求め、廃墟となったハシノ印刷所の本社工場に潜入することを決意するが・・・・・・。 ステッカー犯の目的は?二人は真実にたどり着けるのか?青春ミステリー小説。 第1話ある5月、

    • 梟は闇に嘯く 最終話

      道長は膝を地面について、祈るように泣いた。 涙をこらえる声は呻きのようにして漏れ出ていた。 道長もまた戦っていたんだ。俺や、来瀬や、トーキと変わらない。 身近な者に向かって必死に戦っていたんだ。 そのためには生徒を留年だって脅してまで。 「ぼくらを留年だって脅したのは端野さんを探すためだったんですね」 来瀬は屈んで、道長に語り掛けた。 「犯人をさがせっていうのは、同時に端野さんを捜せってことでもあったんですね。ハシノ印刷倒産の真相を知るうちに、端野さんに行き着くかもれないっ

      • 梟は闇に嘯く 15話

        体を伏せて、 溜めて、 一気に後ろへ体を持っていく、 腕を伸ばして、 目線は前。 相変わらずバイクはうんともすんともならない。ときどき前輪がふわっと浮き上がる挙動をしかけることはあったけど、それでも実際にはほとんど上がらなかった。腕で無理やり持ち上げるとちょっとだけ浮くけど、そのやり方だとバニーホップにはならないらしい。 「ちがう、溜めてからもっと勢いよく後ろに体重をのせて」 隣で姫継が並走しながらアドバイスしてくる。 「勢いよくやってるよ」 「うーん、もっとやってみ」 言

        • 梟は闇に嘯く 第14話

          月曜日の朝になっていた。 妙に意識は冴えていた。朝起きたときから、とてもスッキリした気分で、妙に清々しかった。学生服に着替えていると、母親が部屋の前を通りかかった。母は俺が学校に向かうことに驚いたようだったが、特に何も言うことはないまま通り過ぎた。 通学路を進むにつれて同じ学生が増えてくる。別にみんながキラキラした学生生活を送ってるわけじゃない。友達と楽しそうに通学路を歩く学生がいる一方で、うつむき加減で虚ろに学校へ向かう奴もいる。そんな奴でも、朝になれば律儀に学校に向かう。

        • 固定された記事

        梟は闇に嘯く 第1話(創作大賞2024/ミステリー小説部門)

        マガジン

        • 創作大賞2024
          15本

        記事

          梟は闇に嘯く 第13話

          来瀬から予め貰っていたQRコードのリンクを開く。 「確かに俺のホームページだな」 「本当に知らねえの? あんたの知り合いが宣伝したい目的で貼ったとか」 前蹴りの痛みはまだ残っていた。蹴りまで喰らっておいて丁寧な言葉なんて使ってやるかという気になった。もう一発蹴りなりパンチなりが飛んできたら、その時は応戦してやるつもりでいる。 「こんな下手な宣伝うつ馬鹿がいるかよ」 スマホの画面を触りながらホームページを見ていた宜丹は、あるところで指を止めた。 「どうしたんだよ」 「まてよ、い

          梟は闇に嘯く 第13話

          梟は闇に嘯く 第12話

          いっそのこと、とことんまで静寂の中にあれば風情もあるものを、何十年前かに作られた地元歌手の曲がオルゴール調でかかり続けているものだから、色タイルのアーケード通りは退廃的な寂しさに満ちていた。その色タイルを見つめながらうろうろして、覚悟が決まるのを待ち続けて、最後は覚悟を待ち疲れてようやくビルに足を踏み入れた。 金曜日の昼下がり、野良猫もそろそろ起きなきゃいけない時刻だった。 宜丹は俺を見るなり「なんの用だ」とつっけんどんに言った。 「ステッカーのことで来ました」 と、俺が答え

          梟は闇に嘯く 第12話

          梟は闇に嘯く 第11話

          ぼふっ、と毛布に来瀬が落ちて来るのと同時に、毛布の両端を持っていた俺とトーキは強く引っ張られて互いのおでこを強くぶつけた。そのままふたりとも来瀬の上に折り重なるように倒れた。 「来瀬、生きてるか」 毛布の中に問いかける。声はしてこない。 「生きてるならいいよ。トーキ走るぞ」 俺とトーキは立ち上がって毛布を来瀬ごと包んで引きずりながら走り始めた。男たちがなにやら喚くのが聞こえてきたのでふたりで振り返って闇に向かって中指を立てた。 地面の段差に毛布を打ち付けながら、とにかく走って

          梟は闇に嘯く 第11話

          梟は闇に嘯く 10話

          雑草が伸びては枯れてを繰り返した地面の向こう、廃工場はフェンスに囲まれてひっそりとそびえていた。周りに物流センターや食品工場が立ち並ぶなか、廃工場の一角だけが息をひそめたように生気を消していた。先導していたトーキが廃墟を間近にしながらもしばらくそれを目的の場所と認識できなかったのも無理はなかった。 「本当にここなんか自信ないわ」 トーキはフェンスの網目に指をかけて中を覗き込んでいた。 フェンスの内側には広い敷地が残っていて、工場は鉄骨造りで3階建てほどの高さがあった。閉じられ

          梟は闇に嘯く 10話

          梟は闇に嘯く 9話

          夜の町は統制された幾何学で成り立っている。 整えられたビル入口の隙間なく敷き詰められた大理石や、地下街に伸びる階段を覆うアーチ屋根なんかを横目にバイクは惰性で進む。ペダリングを止めているあいだはホイールのハブから蝉の鳴くみたいな音がジーと鳴って、それだけだった。夜の中で、俺は孤独の中にいることを知った。歪みのない直線も、破綻のない曲線も、俺のものではなかった。俺は俺のものでない曲線で、バイクをプッシュして空中にふわり浮き上がって、俺のものでない直線に沿って着地した。タイヤのゴ

          梟は闇に嘯く 9話

          梟は闇に嘯く 第8話

          反響はその日のうちにあった。 動画のアップロードが済むとまずSNSで投稿内容を共有している。まあ、動画チャンネル自体の登録者数も少ないからSNSのフォロワーも2桁しかないのだけど、それでも反応はあるのがありがたい。小まめに次の予告やら製作状況などを発信していた。 『地元に謎のステッカーが貼られている件を調べてみた Part1.(都市伝説)』 個人情報が特定されるのは怖いので留年だとか姫継のことは伏せて、撮影した写真と映像をもとに、これまでにわかったことをまとめている。Part

          梟は闇に嘯く 第8話

          梟は闇に嘯く 第7話

          「なんでしょう」 インターホンのスピーカーから落ち着いた女性の声が流れた。 「すいません、実はそこの砂利の駐車場のことで聞きたいことがありまして」 「はあ」 「噂で聞いたんですけど。なんだか事件があったんじゃないかってね」 「事件?」 「まあ、噂なんですけどね。殺人があったんじゃないかって」 インターホンからは長い沈黙が流れた。ぼくはそのスピーカーの穴をただ見つめた。 「なにを言ってるの?」 さっきよりも速い口調からは当惑と不快感が聞き取れた。 「調べなきゃいけないんです。す

          梟は闇に嘯く 第7話

          梟は闇に嘯く 第6話

          バニーホップのコツはシーソーなのだ。前輪と後輪を同時に上げるのではなくて、まず前輪を上げて、そこに後輪を運ぶようにジャンプするイメージ。この動作を素早く行えば前輪が地面に落ちてしまう前に後輪が浮くので、自然とジャンプになる。そして前輪の上げ方も肝心で、腕で上げようとしてはいけない。腰から上半身を後ろに引く動作で、体を使って前輪を上げる。その格好自体がジャンプの溜めにもなっている。 ということまで頭ではわかっているのに、バイクは頑なに地面を離れようとしなかった。自転車の上で精い

          梟は闇に嘯く 第6話

          梟は闇に嘯く 第5話

          火曜日の朝、学校に向かうのは一週間ぶりだった。 マネキンを貰う代わりに学校に来ると宜丹と約束してしまった。別に約束なんて反故にしてしまってもよかったのだけど(確かめようもないことだし)、嘘をついたことになるのも嫌なのでちゃんと来たというわけだ。 ぼくはたぶん、他の不登校の人とはモチベーションが違う。イジメを受けたり勉強に置いていかれてるってわけじゃないから、学校を嫌に思う気持ちは、まあそんなにない。学校に通う時間よりも優先したいことがあるだけ。中学生の頃からこんな過ごし方を選

          梟は闇に嘯く 第5話

          梟は闇に嘯く 第4話

          アーケードまで無事に降りてきて、俺はやっと胸を撫でおろした。怪しい事務所の中で来瀬が鋭く質問を重ねる度に、生きた心地がまるでしなかった。ストリートでやばい奴には慣れてきたつもりだったけど、あんなまっすぐにおっかないおっさんは初めてだ。 「そろそろ帰ろうか、じゃあね」 来瀬はあっけなくそう言うと、よたよたと歩き出した。慌てて止める。 「新しいステッカーは見に行かないのか」 「どうせ同じものでしょ。明日にしよう。それにやりたいこともあるし」 「犯人捜しよりも急ぐのか」 「今回の騒

          梟は闇に嘯く 第4話

          梟は闇に嘯く 第3話

          「坊やが学校に行くならお代はいらない」と紫のババアが言うと、 「わかりました、おばさん」と来瀬は答えて店を出た。 このふたりのやりとりを喰らうとたまらなくなる。気持ち悪いったらありゃしない。 イラストレーターは宜丹というペンネームで活動しているらしい。SNSやnote、ホームページに自分の作品を載せていて、そのうちのひとつ、枯れ木にのるフクロウの絵が来瀬の画像検索に引っかかった。枯れ木に足をかけて振り向くフクロウが月明かりの下に青く光るイラストだった。たまたまなのか、なんな

          梟は闇に嘯く 第3話

          梟は闇に嘯く 第2話

          『パラゴン』 蔦の覆う壁に店名は潜んでいた。重たい木の扉を押し開けると、カウンターと四人掛けのテーブルがあった。他に客は居なかった。店主のおばさんはこちらを一瞥するとカウンターを指差したので、そのまま扉近くの椅子に腰を下ろした。姫継も隣の席に座った。カウンターの上には古本みたいに黄ばんだラミネートのメニューが立て掛けられていた。 「なんでここだよ」 姫継は囁き声で非難してきた。 「ちょうどあったから」 ちょうど駐車場の裏なので便利だっただけのことだ。 「もうちょっと歩けばマッ

          梟は闇に嘯く 第2話