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美術せんにんの記録

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#美術鑑賞

がんばれ日本画!「改組 新 第9回日展」

がんばれ日本画!「改組 新 第9回日展」

今年も日展の季節になり、さっそく足を運んできた。

毎年このチラシを貼っているけど、相も変わらず。。次回からはもういいかな。

それでは、日本画部門・洋画部門それぞれで目に留まった作品を5点ずつ紹介していきたい。結果的にいずれもプロの方ばかりになってしまった気がする。

日本画部門

2003年と2008年の特選受賞者ということで、もはや大家の画家である。ということを後で知ったわけで。
水面や岩肌

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疲れた頭を癒す眼福~東京国立近代美術館「MOMATコレクション」

疲れた頭を癒す眼福~東京国立近代美術館「MOMATコレクション」

ゲルハルト・リヒター展鑑賞後、もう一つの楽しみが常設展であるMOMATコレクション。
今回出会えた、お気に入りを紹介していきたい。

国吉康雄、好きなんだよなあ。
若くしてアメリカに渡り、一時はアメリカの美術界の第一人者にも昇り詰めるが、太平洋戦争勃発が彼の活動に影を落とす。本作はそんな頃の作品なのだが、彼の心情が投影されて物語性に富んだ見ごたえのある仕上がりとなっている。

国吉が苦悩していた数

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ただ「見る」そして「己に問う」~東京国立近代美術館「ゲルハルト・リヒター展」

ただ「見る」そして「己に問う」~東京国立近代美術館「ゲルハルト・リヒター展」

東京国立近代美術館で開催している「ゲルハルト・リヒター展」へ行ってきた。当人のリヒターは御年90歳、いまだ現役の現代美術の巨匠である。
自分自身、苦手な現代美術であるが、現代美術のポイントを以前学んだこともあり、作品に向き合ったときにどう受け止められるかを確認する意味でも足を運んだ。

↑でも紹介したとおり、現代美術(の多く)は、描き出されたものがら自体に意味はない。それは一切の具体性を排除し線や

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この画家を知れた喜び~平塚市美術館「物語る 遠藤彰子展」

この画家を知れた喜び~平塚市美術館「物語る 遠藤彰子展」



同時代にこんなスケールの大きな日本人作家がいたとは。
ほんとに「オラ、わくわくすっぞ!」である。
なんのこっちゃ。。

遠藤彰子という画家をご存じだろうか。

ご本人のサイト、とても親切で過去の作品を多くアーカイブして下さっている。これはこれで眼福なのだが、彼女の作品はこれだけでは足りない。
最大1500号!という巨大な作品を目の前にして、文字通り平衡感覚が揺らぐ体験をしてこそ

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出品作の傾向が変わった?~「改組 新 第8回日展」

出品作の傾向が変わった?~「改組 新 第8回日展」

毎年の楽しみにしている展覧会。数えると今回で5回目の訪問。
特に親戚・友人で出品しているわけではないけど。
さあ、今年はどんな優品に出会えるか。

昨年の記事はこちら。

まずは個人的殿堂入りの方から。

福田季生「春爛漫」(日本画)
昨年は残念ながら出品されていなかったのだが、今年はお目見えできた。
他の作品と比べるとその完成度に目を瞠るばかり。惜しむらくはこの方の個展が関西中心のため、普段見に

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年代別に鑑賞しよう~ゴッホ展

年代別に鑑賞しよう~ゴッホ展

何年かに一度開催される、”ゴッホ展”。
もちろん毎回足を運ぶのだが、彼の展覧会ほどハズレの少ない展覧会もないのではないだろうか。
今年も上野で開催されたゴッホ展へ行ってきた。

ゴッホにハズレがないのは、とても多作な画家だということがあるのではないだろうか。生涯に残した作品はわかっているだけでも800を超えるという。フェルメールの20倍以上である。
とはいえ、画家としての活動は10年に満たない。し

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印象派への道を追体験~SOMPO美術館「風景画のはじまり」

印象派への道を追体験~SOMPO美術館「風景画のはじまり」

最近は多くの展覧会が日時予約制を取り入れているのだが、それは人気の展覧会だと「売り切れ」が起こり得るということを意味している。
だから、今まで以上に”これは”と思う展覧会へは早め早めに足を運ばねばならないのである。

さて、今回はSOMPO美術館で開催している「風景画のはじまり」展へ行ってきた。先の「売り切れ」は、この美術館の前の展覧会であった「モンドリアン展」で起きていたことなのである。

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矜持を感じ入る~アーティゾン美術館「STEPS AHEAD」

矜持を感じ入る~アーティゾン美術館「STEPS AHEAD」

最近は美術館も予定通りに開いてなかったりするので、愛好家からすれば開いているだけでもありがたい限りであろう。
今回は緊急事態宣言下でわずかに開館していた美術館のひとつ、アーティゾン美術館へ。

アーティゾン美術館は昨年のリニューアルオープンまで休館していた間にもコツコツと収蔵品を増やしていた。

石橋財団の近年の収集は、印象派や日本近代洋画など従来の中心となるコレクションを充実させる一方で、抽象表

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百万石のお殿様の審美眼~目黒区美術館「前田利為 春雨に真珠をみた人」

百万石のお殿様の審美眼~目黒区美術館「前田利為 春雨に真珠をみた人」

公立の美術館では、よく地元にゆかりのある画家や人物にまつわる展覧会を催すことがあり、小ぶりな企画ながら案外佳品がそろっていることがある。
今回の展覧会もまさにそのような良きものだった。
目黒区美術館「前田利為 春雨に真珠をみた人」

前田利為とは、加賀前田家十六代当主。彼の住まいしていた邸宅が目黒区駒場にあったという縁である。

展覧会の前半は彼が収集していた作品が展示されている。集めるだけでなく

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喧騒を離れ”パリ”へ~Bunkamuraザ・ミュージアム「写真家ドアノー/音楽/パリ」

喧騒を離れ”パリ”へ~Bunkamuraザ・ミュージアム「写真家ドアノー/音楽/パリ」

ロベール・ドアノーの写真展に行ってきた。
ドアノーと言えばやはりパリ。第二次大戦時のナチス占領下ら解放された歓喜に湧く時代から現代に至るまで、市井の人々の様々な表情を撮り続けてきた。

会場は1940年代のパリの空気ひとたび足を踏み入れると往年のパリに来たかのよう。
戦前戦後芸術家たちに変らず愛されたパリであったが、戦火を潜り抜けた花の都は、「狂乱のパリ」のようなはじけるようなエネルギーは影を潜め

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筆さばき、まさに融通無碍~東京ステーションギャラリー「河鍋暁斎の底力」

筆さばき、まさに融通無碍~東京ステーションギャラリー「河鍋暁斎の底力」

もはや異端の絵師とは言い難いほど、近年展覧会の機会が増えた河鍋暁斎。
今回はなんとその下絵のみの展覧会という。
「え、完成品じゃないの?」
そんな声も聞こえてきそうだが。。
東京ステーションギャラリーで開催の「河鍋暁斎の底力」

幕末から明治にかけての絵師であるが、そのバックボーンは日本画にある暁斎。しかしこれらの下絵を見てまず感嘆したのは、そのデッサン力の高さである。洋画の教育がまだ確立していな

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これは令和の絵師だ~「中村佑介展」

これは令和の絵師だ~「中村佑介展」

画家とイラストレーターとの違いはなんだろう。
と言っても、日ごろからこのような問いを抱いているわけではないのだが、今回その境目がなんとなくわかったような気がした。
東京ドームシティのギャラリーアーモで開催中の「中村佑介展」に行ってきた。

名前は知らずとも誰もが目にしたことのある絵というものがある。
わたせせいぞうや生頼範義などはもうクラシックになりつつあるが、この中村佑介も間違いなくその一人に加

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展覧会レビュ「改組 新 第7回日展」

展覧会レビュ「改組 新 第7回日展」

展覧会はほとんどプロ作家のものしか行かないのだが、唯一公募展で毎年足を運んでいるのが、日展である。
こう言っては不遜かもしれないが、案外掘り出し物があったりするのだ。

通常の展覧会は、全部で多くても80作品程度が適度な感覚を空けて架けられている。作品の大きさもまちまちだ。
公募展となると、まさに壁一面絵で埋め尽くされる。そしてそれが向こうの壁まで、そして隣の部屋まで連綿と続いていく。一つ一つの作

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虚飾を生きる力に変えて~目黒区美術館「LIFE展」

虚飾を生きる力に変えて~目黒区美術館「LIFE展」

公立美術館は、このような状況下で限りある所蔵品を使ってどのような展覧会を企画していくか。それが腕の見せ所だと思うが、今回行ってきた美術館はド真ん中を投げ込んできたという企画展だった。
目黒区美術館「LIFE コロナ禍を生きる私たちの命と暮らし」展だ。

当美術館のHPによると、この展覧会の趣旨は次のようなもの。

英語の「LIFE」という言葉には、「命」と「暮らし」という意味があります。コロナ禍に

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