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今日のうんち

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食べたら、でるもの。なにかを食べては、今日も出す。 2018年4月16日よりまいにち更新される、白川烈が書くエッセイです。 クサいときもあるかもしれませんが、それはご愛嬌で。… もっと読む
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2023年9月の記事一覧

大人の教科書の1ページ目の付き合い

大人の教科書の1ページ目の付き合い

*先日、仲良しのミュージシャンの友人と飲んだ。彼とふたりで飲むのはなかなか久しぶりで、お互いに少しずつ緊張していた。彼は僕よりも4つ歳が上だが、僕も彼も敬語で話す。その水くさい距離感がけっこう好きだ。それぞれが感じている距離感より数メートルだけ後ろに下がって、話をしあう感じが好きだ。

彼は、今月の初めに出した僕のエッセイ本をこれでもかというほど読んでくれていて、その中身についてたくさん質問してく

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経験の奴隷

経験の奴隷

*「なんでも自分でやってみるほうがいいよ」とは、この時代によく言われる言葉だ。今はいろんな意味で個人の時代になってきたから、こういう言葉が生まれてきたのだろう。言っていることは分かるし、どちらかといえばぼくもそっち寄りの考えだ。でも、なんでもかんでも自分でやれるわけではない。やりたいことだけでもないし、時間やお金の都合で、人に頼めないことだってある。

「自分でできる」しめんどうじゃないことは、自

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即答ってつまらない?

即答ってつまらない?

*即断即決はつまらない。そうメモに残してあった。そうだ、即断即決・即答はかっこいいことだと思われがちだが、意外につまらない。何でもかんでも解決するのが早すぎる世の中って、どこか痩せてないかなぁ、とも思うのだ。

「明日から野菜が3つしか食べられないとしたら何を選ぶ?」って質問したとしますよ。そこで「栄養素的にナスとブロッコリーとにんじんがあれば健康に問題はありません」とか「そんなことありえません」

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再会したいわけじゃないのに、会いたくなってしまった。

再会したいわけじゃないのに、会いたくなってしまった。

*小学生の頃、僕には友達がひとりしかいなかったように思う。それは商店街の時計屋の息子、N君だった。時計屋といっても、高級品を扱っているような店ではない。既製品の修理と古い品の販売、時計屋とは銘打っているものの、店内のほんどは婦女服で埋め尽くされた、いわゆるブティックと呼ばれる類いの店だった。N君はそこの一人息子で、時計にはめっぽう詳しかった。

N君は学校で「ノロマ」と呼ばれていた。実際、N君は勉

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あきらめグセ、という性質。

あきらめグセ、という性質。

*きのう、ある人と話していて、「例えば障碍や病気で、選択肢や尊厳が奪われることが許せない。それについて諦められない」という、けっこう深いところでの話になった。ぼく自身、そういう経験がないこともないが、濃度が違いすぎるので、うかつに何も話せず、ただ聞いていただけだった。それと同時に、ぼくはけっこう気軽に「諦めて」きた側の人間だな、とも思ったのだ。

例えばぼくは、最終学歴で言うと「高卒」だ。つまり、

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同じテーブルに着くこと。

同じテーブルに着くこと。

*「同じテーブルに着いている」って状態は、ぼくたちがさらっと考える以上に、おもしろい状態だと思う。そして、日常生活では意外に少なかったりもする。でも、ないこたぁないんだ。同じテーブルに着く、そんな場面はそれぞれで必ず経験している。

最近、知り合いの会社に週に一度ほど顔を出して、そこで仕事をしているんだけれど、ベンチャー企業だから各自のデスクなんてないわけです。アパートの一室で、広い机にそれぞれパ

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目的も着地点も身も蓋もない身の上話。

目的も着地点も身も蓋もない身の上話。

*ぼくには何人か友達がいる。そのうちのひとりと昨日飲んだ。その友達は体調が悪いので、3軒目で先に帰った。帰るからと言って一緒に出ようともせず、「もう1杯飲んでくわ」で事足りる、そんな友達。その人と昨日なにを話したのか、さっぱり憶えていない。きっと向こうも憶えていない。

一緒に過ごしていて楽しいの?と聞かれると、返事に困る。とびっきり楽しい、というわけではない。かといって退屈かと言えばそうではない

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子どもと対等に話す、ということ。

子どもと対等に話す、ということ。

*電車に乗っているときのことだ。隣に座っていた人が、何かに気付いたように「あ」と小さく声をあげた。その理由を、僕は声を聞くのとほぼ同時に目に映る景色で理解した。明らかに席を譲った方がよさそうなご年配が、電車に乗って僕らの前に来ようとしていたのだ。反射的に足元に置いていた荷物を手に取り、立ちあがろうとする。隣に座っていた人は、僕のその動きを察して、立ち上がるのをやめた。そして結局、僕が席を譲り、その

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武器に自由をうばわれる

武器に自由をうばわれる

*有名な空手家のことばで「刃物を持っている相手はさほど怖くない。刃物にだけ気をつけていればいいんだから」というのが、あるそうです。もちろん、素人からしたら刃物を持っているだけで恐怖の対象なのですが、熟練者からすると、そうでもないんだと。刃物を持っている素人は、つまり刃物にさえ気をつけていれば、たいしたことがないんだ、と。

ぼくは空手の熟練者ではないけれど、このことば、ちょっと分かるなぁ。この「刃

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「みんな」の根源には「ひとり」がある。

「みんな」の根源には「ひとり」がある。

*凄腕の画家を10人集めて、絵を描いてもらったからといって、いい絵ができるとは限らない。なんてメンツが集まったんだ!っていう「すごい絵」にはなるだろうけれど、それが誰かを魅了する「いい絵」になるかどうかは、また別の話だ。

ピカソやゴッホが絵を描いてる最中に「ここにあれを入れて」とか「この部分の色が〜」なんて注文をつけたら、いい絵になっていただろうか。というかそもそも、そんなこと言うやつをどう思う

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新しいことをどんどんと。

新しいことをどんどんと。

昨日は、ずーっと気になっていた「とんちピクルス」さんのライブを観に行った。あんなに笑い転げて、でもちょっとうるっときてしまったのは初めてかもしんない。それにお客さんがみーんな楽しそうで、音楽もだけれどその風景も良かった。とんちさん、すんごかったなぁ。

曲も良いんです。楽器はウクレレを主に使うのだけれど、ウクレレだけじゃない。自分で打ち込みで音を作ったり、ラップしたりとどんどん新しいことに挑戦して

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タダで働かせてもらう、という経験

タダで働かせてもらう、という経験

大学生の頃、大学のすぐ近くにあった紅茶専門店で、二か月ほどバイトしていたことがあった。便宜上、バイトと言ったが、正式にはバイトではない。お賃金をもらってなかったのだ。なんか「お賃金」って、卑猥に聞こえるね。

タダで働かされていたわけではない。むしろ、タダで働かせてもらっていたのだ。

後から知ったが、その紅茶専門店は全国的にも有名らしく、50代の白髪でビシッとベストを着たマスターが、ひとりで営ん

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あまのじゃくでミーハーなおれっち。

あまのじゃくでミーハーなおれっち。

*このところ、めっきり「銭湯」に行かないようになった。とはいっても、たまーに行くんだけど、以前は週に一度は必ず行っていた。今住んでいる場所から車で行かないといけなくなった、というのも大きいが、それ以上にあるのは「みんな行くようになったから」だと自分で分かっている。つまり、それほど好きではなかったのだ。いや、好きなのは好きだし、今でもたまに行くんだけど、その「好き」に、みんな行ってなかったから、みた

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言葉の地雷について

言葉の地雷について

*昔付き合っていた人が、過敏に言葉に反応する人だった。それはもう地雷のように、話しているうちに出る「単語」に反応するのだ。後日、赤ペン先生のように、以前言ったあの言葉がイヤだったとか、こんな気持ちになったとかチクチク言われたものだ。

ぼくはめんどくさがりなので、正直に「ぼくはそういう意味で使ってない。言葉に反応してるのはあなたの問題で、あなたの傷跡でしょう」といけしゃあしゃあと述べていた。今でも

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