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大人の教科書の1ページ目の付き合い

*先日、仲良しのミュージシャンの友人と飲んだ。彼とふたりで飲むのはなかなか久しぶりで、お互いに少しずつ緊張していた。彼は僕よりも4つ歳が上だが、僕も彼も敬語で話す。その水くさい距離感がけっこう好きだ。それぞれが感じている距離感より数メートルだけ後ろに下がって、話をしあう感じが好きだ。

彼は、今月の初めに出した僕のエッセイ本をこれでもかというほど読んでくれていて、その中身についてたくさん質問してくれた。「僕、烈くんが書く人が死ぬ話好きだなー」なんて言ってくれた。「でも羨ましいと思ったのはこの話で、正直まだまとまってないけどずっと心に残ってるのはあの話」とか、たくさん感想をくれた。僕はそのことがとてつもなく嬉しくて、スカした顔を作っていたけれど、嬉しさとキモさが滲み出てしまっていたと思う。

彼は音楽をつくる人なので、つくることに関してもたくさん話した。彼は自分のつくった作品に点数をつけるとしたら、「80点は付けれる」と言った。僕はそれに驚いて、心底すごいなぁと思って、それ以降の会話で5分に一度は「80点」と口に出してしまう。対して、僕がこの前出した本に、自分でつけた点数は「55点」だ。

謙遜も傲慢もない、主観的だが正直な点数だ。入稿ギリギリまで(本当に崖っぷち寸前)手直しをしたが、それでもこの点数だった。誰かと比べて、というより、自分の中の理想の文章を100点としたとき、もっと取れた感覚だ。残りのうち25点は、文章のメロディライン。もっと読みやすく、それこそ音楽のように奏でるようなものが書けたと思う。自分の技術不足、という何の言い訳も立たないものだ。

しばらく僕たちは点数の話で盛り上がったあと、何のきっかけか忘れていたが、お互いの恥ずかしい話をしていた。恥ずかしい話をして、腹を抱えて笑い合っていた。彼とはシラフで会うといつもふざけあって、酒を飲むとマジメな話をする。そんな大人の教科書の1ページ目に書いてあるような付き合い方を、もう数年続けている。僕の友人は、だいたいそんな人たちでできている。


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