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夢絨夜

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自分なりの『夢十夜』を書いてみたいと思い至り、高校生の頃から夢日記を付けてみたら七十までやってきてしまいました。読み方はそのまま「ゆめじゅうや」です。千夜一夜までいけるかは、私の…
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『第五夜』

『第五夜』

 こんな夢をみた。

 私は、屋根裏の薄暗い部屋に置かれた鏡台だ。自分が一体どんな姿をした鏡台なのかは知らない。部屋にある鏡は私だけだから、皮肉なことに知る由がないのだ。
 部屋には、木製の簡素なベッドと、センスの悪い衣装が何着も収められたクローゼットと、素人でも造れそうな歪んだ円形のテーブルと、萎れた感じの造花が挿された花瓶一つだけが置かれている。ちょうど今頃のような、錆びた夕陽がこの部屋にはと

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『第四夜』

『第四夜』

こんな夢をみた。

凄まじい嵐に巻き込まれて船が難破し、
遭難してしまったという記憶だけはあった。
気が付いたときには、この奇妙な無人島に漂着していた。

夏らしい強い日差しの下で、
私はひとまず、雨風を凌ぐことができそうな場所を探すことにした。
少し歩いてみるとすぐわかったが、
どうやら無人島と言っても、もともとは人が住んでいたらしい。
あちらこちらに住居や店があり、
まるでつい先程まで人が住ん

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『第三夜』

『第三夜』

 こんな夢をみた。

 私は公園のベンチに腰をかけて、ぼんやりと砂場を眺めていた。

ありふれたどこにでもある昼下がり。幼い子供たちが、砂のお城を作っては崩しを繰り返しながら、きゃっきゃっと騒いでいる。

「それ」が訪れたのは突然のことだった。ぽかぽかと、温かい陽気の中を、サッと冷たい風が吹き抜ける。風に誘われるように瞬きをしたとき、ふっと何も音が聞こえなくなったのに気が付いた。驚いて辺りを見回す

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『第二夜』

『第二夜』

 こんな夢をみた。

 私は橋を渡るところであった。一見、果てしない上り坂のようにしか見えないのだが、両脇には落下防止のための立派な欄干があり、ご丁寧にも一番太い柱の部分には「橋」と書かれている。両脇には雄大な海が広がっていた。うだるような暑さではあったが、橋の一番高いところから見える景色はさぞ美しいだろうと思い、私は坂を上り始めた。

 さて、橋を上っている間に、老婆とすれちがった。老婆はゆっく

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『第一夜』

『第一夜』

 こんな夢をみた。

 私はまだほんの幼い子供であった。かんかんと暖房がよくきいた部屋で目が覚め、寝ぼけ眼をこすりながらリビングへ出てみると、父が机に向かって静かに物書きをしていた。

「眠れないのかい」

 ペンを握ったまま、父がこちらを見るわけでもなく話しかけてくる。そう言われてみて初めて部屋の時計を探してみると、振り子のついた大時計が、深夜を告げていた。

「そうみたい」

 答えると、父は

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