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(全文公開)ペルシアンズ2ndシングル「ワープゾーン」ライナーノーツを渋澤怜が担当しました。

鬼才・ビート武田率いる「ペルシアンズ」(※2019年2月より「p?」に改名)というバンドの2ndシングル「ワープゾーン」のライナーノーツを、ビート武田と渋澤怜の共作で書きました。

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1.WARP ZONE LV.1 

2.WARP ZONE LV.2  

3.WARP ZONE LV.3  

4.WARP ZONE LV.4

5.WARP ZONE LV.5

6.WARP ZONE LV.6

7.WARP ZONE LV.7

8.WARP ZONE LV.8

9.WARP ZONE LV.9

10.WARP ZONE LV.10

11.WARP ZONE LV.11

12.WARP ZONE LV.12

13.WARP ZONE LV.13

14.WARP ZONE LV.14

15.WARP ZONE LV.15

16.WARP ZONE LV.16

17.  WARP ZONE LV.17

18.WARP ZONE LV.18

19.WARP ZONE LV.19

20.WARP ZONE LV.20


LV1

最も簡単に瞑想状態に入るには、ずっと同じと発声をし続けることだと魔法使いは言った。ワープゾーンはそれを応用した楽曲であり、瞑想の音楽的表現だ。なんでも受け入れられるようになるために、自分から何かを始めなくてはならない。

LV2

私達がこの星に来てから500万年が経ち、何人ものヒト(のようなもの)が生まれて、様々な文明を何人かのヒト(のようなもの)はちょっとずつ進めてきた。その成果の一つが、速度と時間と空間に関する概念である一般相対性理論であり、速度が速くなればなるほど流れる時間は遅くなる。「無重力の宇宙空間でも、加速度運動をすることによって重力と同じ力をつくることができる。

これはブラックホールの存在と、対になるホワイトホール、そしてその間をつなぐワームホールの存在を明らかにした。宇宙にある、なんでも飲み込む巨大な空洞。空の向こうに、完全なる無は実在すると、我々は思った。

LV3

速度が増すと体感速度は増すのか? 答えはNoだ。速度の主観的認識はほぼ実際の速度に左右されない。ずっと鳴っている音は全く鳴っていないのと同じだ。サウンドは少しずつ淘汰されていき、速度は遅くなっていくように聞こえるだろう。音楽が遅くなっていくのは、気づくにしろ気づかないにしろ、あなたが加速しているからだ。速度はいつもまだまだ足りない。

LV4-1

ところで君は、この文章を読んでいる間、何回息を吸っただろうか。人間は無意識のうちに呼吸している。この文章を読んだ今君は呼吸を意識した。人間の生存に必要な動きのうち、自分の意志でコントロールできる数少ないものが、呼吸である。その他ほとんどの内臓の不随意運動を、人間はコントロール出来ない。君は君の肉体が何を考えているのかもわかってはいない。

Lv4-2

呼吸は、もちろんホメオスタシス(生命恒常性維持)のひとつである。つまり呼吸することで君は君でいられる。しかし呼吸とは新陳代謝を促すものでもある。すなわち呼吸によって、君は君でなくなる。

考えたことがあるか? ものすごく速く呼吸をすれば、一瞬で君は君でなくなれるのではないか? ダダダダダダダダダ。

LV5-1

もう一つ下の世界へ。

1943年10月28日、ペンシルベニア州フィラデルフィアの海上において、駆逐艦「エルドリッジ」を使って、大規模な実験が秘密裏に行われた。

当時は第2次世界大戦の真っ只中であり、実験は新しい秘密兵器「磁場発生装置テスラコイル」を使い、駆逐艦をレーダーに対して不可視化するというものであった。 スイッチを入れると強力な磁場が発生し、駆逐艦がレーダーから見とめられなくなった。実験は成功したかのように見えたが、不可思議な現象が起こる。実験の開始と共に海面から緑色の光がわきだし、次第にエルドリッジを覆っていったのである。次の瞬間、艦は浮き上がり発光体は幾重にも艦を包み、みるみる姿はぼやけて完全に目の前から消えてしまった。

LV5-2

「実験開始直後に、駆逐艦はレーダーから姿を消す」、ここまでは実験者達の予定通りであった。しかし直後にエルドリッジは「レーダーから」どころか完全に姿を消してしまい、あろうことか2,500km以上も離れたノーフォークに瞬間移動してしまったのである。それから数分後、またもや発光体に包まれ艦はもとの場所に瞬間移動した。

再び戻ってきたエルドリッジだが、驚くべきことに乗員は、

* 体が突然燃え上がった

* 衣服だけが船体に焼き付けられた

* 甲板に体が溶け込んだ

* 発火した計器から火が移り、火だるまになった

* 突然凍り付いた(冷凍化)

* 半身だけ透明になった

* 壁の中に吸い込まれた

また、生き残った乗組員も精神に異常をきたし、エルドリッジの内部は、まさに地獄絵図の如くであった。唯一、影響を受けなかったのは、鉄の隔壁に守られた機械室にいた、一部のエンジニアたちだけだった。

LV6

君が瞬時に別な場所に行きたいなら、君の身体を分子レベルでスキャンして、君の分子情報を移動先へ送り、そこで再構成すれば良い。難しい話はしていない、FAXと同じだ。ただしFAXであれば発信元に残る「原稿」が、この移動においては残らない。君が何であるかを完全に分かるためには、一度、君が君でなくなるほどに裁断(ルビ「スキャン」)しなければならないので。

LV7-1

「やべえよ、昨日全然勉強しないで寝ちゃった、試験範囲ってどこまでだっけ?」

「47Pまでだよ」

始業間際に慌てて教室に滑り込んできた生徒が教科書を開くと、ページの右端の47という数字は紙の中に溶けるように消え、45、43……みるみるうちに薄く軽くなっていった教科書はやがて手の平の上で消えてしまった。

始業ベルとともに威勢よく入室してきた教師は、出席簿を教壇に叩きつけると太い声で「皆さんにお知らせがあります」と宣言した。

「今日から夏休みです」

どよめきと歓喜の叫びに湧く教室。まじめな生徒が抗議する。

「でも、まだ4月ですよ?」

「もう、教えることがなくなりました」

教師は背広を脱ぎ、ネクタイを外し、まるで羽根が生えたように軽やかに、教室の窓から脱出した。

教室の床が傾く。ゆっくりと校舎全体が崩れ始めている。生徒たちはスリルと興奮できゃあきゃあ騒ぎながら校舎を抜け出し、それぞれの夏に散る。

LV7-2

宇宙について学ぶというのはこういうことだ。わかればわかるほど、わからないということがわかっていく。

LV8-1

ブラックホールに吞み込まれた人間はどうなるのか?

万有引力という孤独のエネルギーによってあらゆるものを引き寄せるブラックホールの中心は特異点と呼ばれ、そこにおいては、地球が1円玉になるほどのおそるべき圧縮の過程が込められている。

特異点にぶつかればそのままお陀仏だ。だが、ブラックホールも星である以上、自転していると考えられ、そのため特異点もリング状である可能性が高い。

リング状の特異点の中心を通過するように、うまく舵をとれ。そうすればすべてが逆になった世界――あらゆるものを吐き出すおそるべき斥力をもったホワイトホール――によって、我々は別な宇宙に放り出される。

この仕組みがワームホールだ。

LV8-2

ワームホールは一方通行であり、行くことは出来ても戻ることは出来ない。

LV9 -1

「心」というのは人間の脳の働きの中では低次なものだ。

心など無くても、人は起き眠り、食事や排泄、いやそれどころか仕事だってできる。

こんな経験はないだろうか。今日だけは違う場所に出かけるはずなのに、玄関を出た途端、毎日使う通勤路を「無意識に」歩いていた、ということが。

LV9-2

「心をこめて」作ったものに大して意味は無い。

LV9-3

宇宙人は言った。宇宙の音楽を聴くことの出来ない地球人は、自らの手で音楽を作っている。かわいそう。

LV10

ワームホールは現実にあるとされているものの、その内部構造がどうなっているのか、それは薄皮のようなものなのか、はたまた銀河系何個分のトンネルなのかは定かではない。全くの異次元であり、分かりもしないものに余計なことは言わないほうがいい。

LV11

全ての音は、何かの通り過ぎる音だ。物体が物体を擦る音、指が弦をかすめる音、息が声帯をすり抜ける音。

あなたの肉が起こした波が、私の肉を通り過ぎて、なお速度はいつもまだまだ足りない。

ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ 

肉の部屋という名のワープゾーンに閉じ込められた僕の行き先はひとつで、身体の奥にあるワームホールだ。

まるで死にゆく人間の心拍計のように、だんだん疎になっていく音が指針になってくれる。つまり、僕の進む速度はどんどん速まっているのだ。

ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ 

眼球が飛び出ぬように目を閉じることにした。何、長めの瞬きでしかないさ。

視覚を閉ざしたことにより聴覚が研ぎ澄まされた僕の耳は、「何かが通り過ぎる音」を正確にとらえ始める。

耳のすぐ横をかすめた「今」がひりつく摩擦で指の間を焼きながら後ろに吹き飛び、「過去」として焦げ付いていく音。

テープが擦り切れる音。即興(ルビ「ライヴ」)が録音(ルビ「レコード」)に変わる音。僕の爪の伸びる音。僕の指先が、僕が僕じゃなくなっていく領域に移行していく音。僕じゃない領域がこの世界に0.01mm押し広げられていく、侵食の音。

1時間じゃなくて60分だ。1分じゃなくて60秒だ。60秒じゃなくて1秒のうちに無数の、

ダ   ダ   ダ   ダ   ダ   ダ   ダ   ダ   ダ   ダ   

ねえ、知ってる? 1本の「線」の上に「点」はいくつ乗せられるでしょう? 「1秒」の上に「一瞬」はいくつあるでしょう?

ダ       ダ       ダ       ダ    ダ       

僕は走る。今が過ぎ去っていく方向に向かって、時の流れに逆らって、走る。君はエスカレーターを逆走したことがあるか? つま先にくっと力を入れて、踵はつけちゃだめだ、未来にもってかれる、そして現在を一気に駆け上がる、つま先が、僕の最前線が、時を破る。

スニーカーの先に今が鉄の雨のように降ってくる。1秒の上にある一瞬の数だけ、打ちつける。スニーカーはあっという間に破れ僕と僕じゃない領域の境界である爪もすぐに打ち砕かれ、僕の肉の中にまで貫通する。両つま先がなくなる。膝が、頭が、太ももが、脛が、踵が、腰が、胴体が、腕が、「今」によって裁断され、僕は二次元の「今」の感熱紙に焼きつけられて、過去へと送信される。

LV12

LV12のワープゾーンはコンピュータがワープゾーンLV1をデータとして読み込んだ姿であり、コンピュータにとってのワープゾーンという楽曲。意識というものが何者なのか、脳科学の世界でもわかっていない。それはつまり認識というものが科学では解明できないものだという事だ。今日の諸君にとってこれは音楽ではないかもしれないが、明日は音楽になっているかもしれない。明日音楽でなくても、我々の孫の世代にとっては音楽かもしれない。音楽かどうかは、我々が決める事ではない。

LV13

1948年、ベル研究所の職員であったクロード・シャノンは、「通信の数学的理論」において情報の価値を表す「bit」という単位を開発する。YES(0)かNO(1)かの二進法で表現されるコンピュータの世界の中で、表現するのにより多くのNOが必要な事柄ほど情報的価値は高いとされた。ワープゾーンLV13には416179814400個のNOが重ねられている。

LV14-1

この文章は2人の人間によって書かれているが、そのことは、人間に2つの耳(目)があることと大して変わらない。距離感を把握し、立体感を獲得し、盲点を埋めて、結局得た像はひとつだ、ともいえるし、無限にゆらいでいる、とも言える。

LV14-2

まだ数は数えられますか? ――2までなら、なんとか。

LV14-3

2人の人間によるこの文章は、意図的に文脈が裁断(スキャン)されている。

LV15

重力を信じろ。

LV16-1

ワームホールという語は、直訳すると「虫食い穴」となる。リンゴの表面だけを世界だと思っている虫にとっては、リンゴの裏側に行くためには表面を伝っていくしかない。しかし、この虫がリンゴをかじってトンネルを掘ることを思いつけば、裏側により早く行くことができる。

LV16-2

ただし、別なリンゴの。

LV17-1

「ねえハニー、宇宙はどうして存在しているか、考えたことある?」

「無いわ、ダーリン」

「じゃあハニー、人間はどうして存在してるか、考えたことある?」

「今はそんな話やめましょうよ、ダーリン」

「こんな話は知ってるかい。宇宙の存在意義と、人間の存在意義が同時に分かる、お得な話さ。つまり、宇宙は、人間にとっての『謎』なんだ。宇宙は、人間に解き尽くされるために存在しているんだ。そして人間は、宇宙の謎を知り尽くすために存在するんだ」

「すなわち、人間が宇宙の隅から隅まで知り尽くして、すべての謎を解き明かしてしまった時、宇宙は存在意義を失い、消滅する。無論、人間も、宇宙の謎を知り尽くすという存在意義を達成し、消滅する」

「じゃあダーリン、男が女を知り尽くしたら、男は消滅してしまうの?」

「ふふ、そうかもしれないな」

「じゃあ、あなたが私の気持ちが分からないのも、仕方ないのね」

「そうだね、僕の宇宙ちゃん」

LV17-2

私はあなたに消えてほしくないから、あなたは私のことをわからないでください。

LV18

ループから君は帰還するが、帰ってくる場所はいつも、元の場所ではない。まっすぐを生み出す力は、まっすぐではない。曲がりくねり、せめぎあっている。

LV19-1

人間の不随意運動のうち自分の意志でもコントロールできる数少ないものとして、呼吸と並んで「瞬き」もあげられる。瞬きをしたのちに、極度に難易度の高い間違い探しの左右が入れ替わったとしたら、君は気づけるだろうか?

いや、もしかしたら瞬きのうちに変わるのは世界ではなく、自分かもしれない。

LV19-2

日本のとある有名なファミリーレストランチェーンでは、各テーブルに「まちがいさがし」が配置されている。キッズメニューの裏に、かわいらしい絵柄で描かれた左右ふたつの世界。子供が、食事を提供されるまでの時間をおとなしく待てるように配慮された暇つぶしとしては、しかしあまりに難易度が高すぎた。大人が数人がかりで取り組んでも、10個あるはずの間違いを見つかられないこともザラだった。料理が届き、冷めきっても手をつけずに間違い探しに熱中する大人たちは、しかし本当の問いにまだ辿り着いてさえいない。すなわち「右と左の世界、どちらが正しいのか?」。

24時間営業のファミリーレストランで、彼らのテーブルの上の料理は腐り始めている。

LV19-3

更に難しい問いをあげようか? 「自分は右と左の世界、どちらにいるのだろうか?」

――これは世界の中にいる当事者には絶対に分からない。

この世も常に、間違い探しのように少しだけ異なっている。

LV20

どこに行っても、肉体から逃げ出すことはできない。



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ペルシアンズについてはこちら

1stシングル「good vibration very good」のライナーノーツはこちら

音源はこちらから聴けるようです。

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あとがき

ペルシアンズは最強のライヴバンドなのですが、CDは完全にライヴとは異なる路線で、録音でしか出来ない実験的な試みをするんですね。しかもこの実験的試みが、ライヴに拮抗あるいは凌駕するほどの熱量をもってて。大体、音楽やる人ってライヴか録音かどっちかに重きを置いてて、どっちかが良くてどっちかがいまいちなのですが、ペルシアンズは双方真逆の試みをしているうえで両方最強という奇跡のバンドです。このCDは買った方がいい。私は毎日聴いてもう20回だろうか、初めて聞いた時は頭バーンしてこんな図をノートに書いてました。


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