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Vol.23 時代の先を走っていた銘店「名代ら~めん げんこつ屋1994」

げんこつら~めん

1980年4月、新高円寺駅に「げんこつ屋」は誕生した。
まだインターネットもなかったので最初の頃は一部のラーメン好きしか知らなかったのではないだろうか?私もボチボチ出始めた雑誌のラーメン特集などで知ってようやく食べに行ったものだ。

げんこつ屋新高円寺本店(1993年撮影)

暖簾やメニューの書体が個性的で、まだそういうのにお金をかけないのが『ラーメン屋さん』だったので、存在自体がかなり珍しかった。

昭和56年夏に作られたげんこつ屋のこだわりチラシ

後に『96年組』と呼ばれるようになった1996年創業の人気店の一つに「中華そば青葉」(中野)がある。注目された理由の一つに“Wスープ”の存在が大きい。東京の中華そば風 和風出汁と九州の豚骨スープを合体させたスープだ。「げんこつ屋」はその10年以上も前に和風出汁と白湯スープを合わせている。ラーメンにまだ“蘊蓄”が必要なかった頃でもあり、後々『早過ぎたこだわり系』と言われたりもした。

スープを研究する創業者関川清さん(1989年撮影)

また、『96年組』のもう一店「麺屋武蔵」は内装やBGMにこだわり、“秋刀魚節”で一世を風靡した。「げんこつ屋」はこれもまた10年以上前からやっていたのである。秋刀魚節ではないが、高級料亭で使っていた“まぐろ節”を使い、他のラーメン店とは違ったこだわりの内装、BGMは当時としてはかなり珍しいジャズを流していた。

渋谷プライム店の店内(1990年頃)

「一風堂」が目指した『女性や家族連れでも入りやすいお店』『丁寧な接客』も「げんこつ屋」は早々と取り入れていた。2000年代の人気店がやっていたことをほとんど先にやっていたのである。いずれもちょっと『早過ぎた』感があるくらいの先駆者である。
ラーメンが出てきたら、食べる前にたくさんの胡椒をかける人が少なくなかった時代なのに、卓上には調味料を置かなかったのも「げんこつ屋」が最初ではなかったか。新しモノ好きな私でも戸惑うくらいの“こだわり”である。
今でこそ、多くの店が対応している女性客向けの髪留め用のゴム、これも「げんこつ屋」がいち早く始めている。

卓上調味料を置かない理由を書いた書

そういう上辺だけのアプローチではなく、ラーメンにもこだわり、個性的な“Wスープ”(当時はそんな風には呼ばれてなかった。)と他店とは違う個性的なもちもち多加水麺。今風に言えば特注麺なのだろうが、当時は製麺屋さんが持って来たいくつかの麺から選ぶのが普通だった。ましてや自家製麺は一部の店でしかやってなかった。なので、『ここでしか食べられない麺』というのは異例だった。

もちもちの多加水麺

いろんなことを時代に先駆けてチャレンジしていたのである。
そしてそんな「げんこつ屋」が渋谷に1990年に出店して大ブレイクする。ようやく時代が追いついた。インターネットがなかった頃、一般に知られるのには時間がかかったものである。しかし、人が多い渋谷に出店することで多くの人に知られるようになっていった。

渋谷プライム店の外観(1990年頃)

そしていよいよ新横浜ラーメン博物館の1994年の創館に出店することになるのである。札幌、博多、喜多方の3大ご当地ラーメンなどと一緒に『こだわりの東京ラーメン』としてさらに注目を浴びることになった。

ラー博出店当時の外観(1994年撮影)

今回の「あの銘店をもう一度"94年組"」第3弾はその「名代ら~めん げんこつ屋1994」である。今では「げんこつ屋」創業者は亡くなり、息子さんが「二代目げんこつ屋」として継いでいる。
しかし、今回は出店当時、つまり1994年当時の「げんこつ屋」の味を二代目である息子さんが復活させるのだ。

げんこつ屋二代目 関川匡仁さん

出店期間は2023年7月20日(木)~10月22日(日)の予定。約3カ月である。時代の先を走って行ったこだわりの味を今食べるとどう感じるのか?そんなことも合わせて味わってみたい。
文/大崎裕史

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あの銘店をもう一度"94年組" 第3弾 「名代ら~めん げんこつ屋1994」
※げんこつ屋1994の詳細はコチラ
出店期間:2023年7月20日(木)~10月22日(日)
出店場所:横浜市港北区新横浜2-14-21 
     新横浜ラーメン博物館地下2階
     ※94年組第2弾「野方ホープ1994」の場所
営業時間:新横浜ラーメン博物館の営業に準じる。
     詳細はコチラ

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