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雑文ラジオポトフ

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#演劇

猛獣の怪我を治して死んだふり

猛獣の怪我を治して死んだふり

シリーズ・現代川柳と短文 033
(写真でラジオポトフ川柳121)

 かつて行った舞台公演にキャラクターのひとりが凶刃に倒れるシーンがあった。まぶたを閉じ、仰向けになる俳優。静まり返る劇場。そのとき客席からこどもの声がした。「死んだふりだ〜」うん、そうだよ。死んだふりだよ。続いて舞台上ではそのキャラクターの親友が涙を流しはじめた。こどもは一緒に来ていた親に注意されたのか、こんどはなにも言わなかっ

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はちのみつうまくいかないこともある

はちのみつうまくいかないこともある

 現代川柳と400字雑文 その80

 俗に、はちみつはのどにいいとされる。わたしが脚本と演出を務めた舞台公演の楽屋に、大きなボトルのはちみつが置かれていたことがあった。絶叫に近い発声が多くあった作品で、のどのケアが必要と考えた誰かが用意したのだろう。やがて、ボトルを掲げて口を開け、のどにはちみつを直接流しこむ者たちが現れた。Uさんもそのひとりだった。Uさんは演出の指示に全力で応えようとしてくれる

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動物が月の明かりで菓子パンに

動物が月の明かりで菓子パンに

 現代川柳と400字雑文 その68

 満月は人の心を狂わせる。なるほど魅力的な考えだ。おそらく、あの妖しげな光につい魅了されてしまうのだ、的な意味合いもあるだろう。漱石の名を引き合いに出すまでもなく、月はロマンの源泉である。大学の後輩に、月を見ながらワインをひとびん空けるのを趣味としていた者がいた。ワインを飲みながら小説を書くこともあったらしいが読んだことはない。かつて同じ劇団で演劇を作っていた

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山頭火ドリンクバーで立ちすくむ

山頭火ドリンクバーで立ちすくむ

 現代川柳と400字雑文 その67

 年の瀬だ。ちょうど1年前のいまごろは、『Audi-torium』という名の演劇イベントに出演する準備を重ねていた。15分ほどの小品で、コントと呼ぶにはいささか素朴すぎる内容だった。ざっくり言うと種田山頭火の自由律俳句をもとにあれこれ考えるようなネタ。それで生活の中にあふれる自由律っぽいフレーズを探していたのだが………いや、先にそのフレーズが目に留まり、自由律

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人体のはて当店のあるところ

人体のはて当店のあるところ

 現代川柳と400字雑文 その45

 こうして毎日どうでもいい現代川柳を作ることができているのは、そこに「お題」があるからだ。お題。画像の部分がそれにあたる。言い換えれば、わたしがここで作っている現代川柳は、すべて画像に対する「リアクション」となる。すべての表現、いや、すべての行為は、なにか別の要因に対するリアクションとしてある、と言ってみたい。無意識でやっている呼吸すらも、「酸素がほしい」とい

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目だったか耳だったかの人だった

目だったか耳だったかの人だった

 現代川柳と400字雑文 その21

 耳鼻科がテーマの物語(舞台脚本)を書いたことがある。といっても、耳と鼻が専門の医者が、新しく作った病院の専科を「じび科」という読みにするまでの物語だ。当初は誰もが「みみはな科」だと思っていた。たしかにその読み方ならわかりやすくはあるだろう。しかしもっさりしてはいないか。ここは思い切って「じび科」である。という、つまりどうでもいい話だ。そうした「どうでもよさ」

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