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雑文ラジオポトフ

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今田の雑文です。
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#文芸

みてなにもかもなくしても大丈夫

みてなにもかもなくしても大丈夫

 現代川柳と400字雑文 その35

 引っ越しの手はずが進み、すっかり荷物を運び出してから、がらんどうの部屋にひとこと「ありがとう」とつぶやく。そんな映画のワンシーンのような経験をしたことがない。ないない。ないです。ありません。まったくない。似たイメージで、卒業式の日にそれまでの教室に別れを告げるというシーンもある気がするが、たとえば具体的に映画のタイトルを挙げるとなると、『天然コケッコー』しか

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あの舟の乗客たちのシルバニア

あの舟の乗客たちのシルバニア

 現代川柳と400字雑文 その24

 シルバニアファミリー用のイスは、ちゃんとシルバニアファミリーたちが座れるようにデザインされているのだろうか。シルバニアファミリーに明るくないため仔細はわからないが、たんに人間が使うイスを小さくした、というだけではだめだと思う。最低でも、体長に対する足の長さがどの程度の比率なのかを考慮し、形状として、実際に座れるようにしなくてはならない。だってイスだから。もち

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革命がすんでからすみついた家

革命がすんでからすみついた家

 現代川柳と400字雑文 その22

 引っ越しの都度、というわけではないが、近隣住人との交流が生まれることがある。コロナ禍に入ったその年は、近所の老婆と立ち話をすることがたまにあった。ある日、話の流れこそ把握できなかったが(老婆は声が小さかった)、老婆が「ことしは梅酒を作るのをやめようと思ってます」と意気消沈して言ったことがあった。世間話をする程度の、とりたてて親しいとも言えない間柄で、そもそも

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白まくら逃げないうえにやわらかい

白まくら逃げないうえにやわらかい

 現代川柳と400字雑文 その17

 枕が変わると眠れない、という表現は慣用句だろうか。慣れない枕では頭がフィットせず安心して眠ることができないというそのものの意味にも聞こえるし、旅先など慣れない環境では気持ちが落ち着かず眠れないという意味の比喩表現にも聞こえる。前者を実際派、後者を比喩派と呼ぶことにして、しかしこれより後それら分類用語はまったく登場せず話は変わる。わたしは枕にはなんのこだわりも

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漆黒を切り裂き余白をくり抜き

漆黒を切り裂き余白をくり抜き

 現代川柳と400字雑文 その16

 作ったことはないですが、クッキーを作るときに使う型抜きってありますよね。銀色の型で生地をくり抜くやつ。輪切りのニンジンをお花の形にくり抜いてカレーに入れたりシチューに入れたりもしますよね。しますかね。テレビのCMで見かけますがあれ実在の出来事ですか。ま、そういうのですね。型抜き。現代川柳を作るのは、言葉に対してあの型抜きを駆使しているようなイメージだ。おびた

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あふれてもいい泡だったからだから

あふれてもいい泡だったからだから

 たんなる思い出の話を失礼します。わたしが大学生の頃、キリンビールのホームページで放送作家の倉本美津留さんが選者を務める大喜利企画のようなものがあり、入賞景品のビールをちょくちょくもらっていた。それから10年以上後、とある舞台のアフタートークで倉本さんと直接お話する機会があって、せっかくなのでそのこと(ビールをよくもらっていたこと)を打ち明けたところ、その日わたしたちの劇団がやったネタの印象からか

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