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余談的小売文化論

「知性ある消費」をテーマに、現代の消費行動や理想論と現実的な問題のギャップについて考え、言語化しています。「正解」を語るのではなく、読み手が自分なりの正解を見出すための一助になる… もっと読む
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イベントとしてのファッションショーの価値

イベントとしてのファッションショーの価値

「ファッションショーは本当に必要なのだろうか」。

2、3年ほど前から海外メディアではしばしばファッションショーの変化と存在意義が議論されてきた。D2Cが定着し、百貨店などの小売バイヤーやファッションメディアを通さずとも顧客に商品を届けられるようになったことで、「ファッションショー不要論」は年々高まっているように思う。

さらに発表した瞬間にファストファッションにパクられる問題や、ハードスケジュー

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今週読んだ海外記事と雑感(2020.4.11)

今週読んだ海外記事と雑感(2020.4.11)

今週もNewsPicksでピックしたニュースとコメントを転記してまとめておきます。
文末の有料パートは海外記事の解説です。

▼私のNewsPicksアカウント

ニーマン・マーカスが破産申請を検討へ
すでに日本でも報道されていますが、米老舗百貨店ニーマン・マーカスが破産申請を検討していることが判明。申請はまだ確定ではなく、資金繰りに尽力しているようですが、店舗をすべて閉鎖している中で急に業績が改

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ブランドはコミュニティの旗印 #大日本市

ブランドはコミュニティの旗印 #大日本市

「D2Cと呼ばれる新しい小売の真髄は、モノを通してコミュニティを作っていること、その旗印としてモノが機能しているということだと思います」

昨日登壇した大日本市のイベントで、ブランド体験の意味を私はそう表現しました。

中間マージンがないとか、ECで直接売っているとか、価格帯が従来より安いとかではなく、「作ったモノをどう売るか」の発想から、まずコミュニティを作り、そこに「何を届けていくか」を考えて

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イケウチオーガニックのタオル講座から学ぶ「いい店舗体験」のあり方

イケウチオーガニックのタオル講座から学ぶ「いい店舗体験」のあり方

先月、『消費文化総研』のメンバーと表参道にあるイケウチオーガニックの店舗で牟田口さんにタオル講座をしていただきました。

当日はなんと1時間半近くかけてタオルの違いはもちろん、ライフスタイル別の選び方や洗濯の仕方などあれこれ質問しながらお話を伺いました。
タオルの世界の奥深さに感銘を受けた私たちは、結果的に全員それぞれに買い物袋を下げて帰途につくことに…!

そして帰る道すがら、『これって接客で考

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「定番」という資産

「定番」という資産

この2、3年で生まれたデジタルネイティブブランドの特徴のひとつとして、『商品数が少ない』という点が挙げられる。

ファッションブランドであるEverlaneもM.M.LaFleurも、既存のファッションブランドのようにシーズンごとに新商品を追加したりせず、定番商品を中心に扱っている。
Allbirdsに至っては、アイコンであるスニーカー以外のかたちが思いつかないくらいひとつの型に特化している。

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長く続くブランドは、信用残高を食いつぶさない

長く続くブランドは、信用残高を食いつぶさない

昔から、世代を超えて愛されるブランドに無性に惹かれてきた。

数百年前と同じものを食べ、同じ建物の中を歩き、その積み重ねられた年月に思いを馳せる。
その時間がたまらなく愛おしく、豊かな幸福を感じてきた。

だからこそ私の興味の根底には、常に『いかに長く続くものを作るか』という問いがある。

先日消費文化総研の定例読書会で、『老舗の流儀』を取り上げた。

東洋の端で三百年以上のれんを守り続けてきた虎

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#買ってくれたあなたへ に見る、今お店が語るべきこと

#買ってくれたあなたへ に見る、今お店が語るべきこと

ほぼ毎日チェックしている『 #買ってくれたあなたへ 』のハッシュタグ。自分でお店をやっているクリエイターさんたちを増やす取り組みはまだまだこれからとはいえ、日々素敵なnoteが上がってくるのを楽しみにしながらチェックしています。

そしてお題企画のハッシュタグがついたnoteを読みながら改めて思ったのは、『買ってくれた人へのコミュニケーションこそが最高の宣伝になる』ということ。

たとえば改めてブ

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老舗とそれ以外を分けるもの

老舗とそれ以外を分けるもの

半年ほど前からずっと考え続けてきたテーマのひとつに『老舗』がある。

老舗と呼ばれるブランドや企業は、いつどのタイミングで『老舗』と呼ばれるようになったのか。
『老舗』を分解するとどんな要素が内包されているのか。

ことあるごとにこの問いを取り出してはこねくり回し、ヒントになりそうな本を見つけては考えを繰り返し、半年ほど経ってようやく暫定的な答えがでた。

そのヒントとなったのが、虎屋社長とエルメ

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応援することと、相手の決断を尊重すること

応援することと、相手の決断を尊重すること

先週金曜日はEVERY DENIMの山脇さんと「仲間を増やす『伝え方』」をテーマにnoteでトークイベントを開催しました。

そこで出た質問のひとつが

『お客さまの意見や要望をどの程度取り入れていますか?』

でした。

どの程度声を取り入れるかどうかのバランスは、小売やブランドに関わらず誰もが悩むテーマだと思います。

その質問に対する山脇さんの答えは、要約すると

『意見はすべて受け入れるけ

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物語は、『買った後』にはじまる

物語は、『買った後』にはじまる

『ファネル型から、循環型へ』

先月登壇したEC CUBE DAYで、これからの購買行動についてそんな話をした。

最近『ストーリー』の重要性が至るところで語られているけれど、その多くは最終的に買ってもらうことを意識したファネル型の発想が根底にある。

しかしSNSが口コミを可視化するようになった今、買ってもらった"あと"のコミュニケーションがますます重要になっている。

「買ったあとこそが関係性

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今、コスメが売れる理由

平日でも混み合う百貨店のコスメ売場を通り抜けるたび、なぜ今こんなにもコスメだけが売れるのだろうか、と疑問に思ってきた。

国内外問わずコスメの売上は好調で、百貨店のコスメフロア増床や新たなコスメブランドの誕生など、小売業界でも唯一明るいニュースが多いのも特徴だ。

市場規模の推移をグラフでみると、その勢いがよくわかる。

(出典:矢野経済研究所)

しかし、なぜこの5年ほどでコスメ市場がここまで急

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なぜ体験には『情熱』が不可欠なのか

なぜ体験には『情熱』が不可欠なのか

6月にダグ・スティーブンスと話していた中で、『いい店舗にはオーナーのパッションがある』と言われたのがとても印象的だった。

一方で、情熱は定量的に測りづらく再現性のない要素であり、その重要性はわかりつつも軽視されることの方が多いのではないか、と感じたのもまた事実だ。

ともすれば理想論だと片付けられがちな『情熱』の重要性を腹落ちして納得してもらうには、どんな説明が有効なのだろうか、とここ最近よく考

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ブランディングとは期待値コントロールである

ブランディングとは期待値コントロールである

ほんの少し前まで、『ブランディング』といえば商品やサービスにいいイメージを持ってもらうための営みを指していた。ともすると、実物よりもよく見せる方法、という意味すら含んでいたのではないかと思う。

メリットをアピールし、ヴィジュアルを作り込み、人気のタレントを使い、『なんとなくよさそう』という印象を作ることが自分たちの商品を選んでもらうためのひとつの戦略だったからだ。

しかし今や、いい評価も悪い評

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ストーリーの前には「道」がある

ストーリーの前には「道」がある

7月に就任したnote for shopping プロデューサーとして、最近は『伝える』ことと『売る』ことの連続性について以前にも増して考えるようになりました。

もともと私はこれからブランドとメディアの境目がなくなっていくだろうと考えていて、その核には思想という名のストーリーがあると思っています。

一方で、ストーリーが重視されればされるほど、ストーリーが先行してモノが思想に追いついていない、と

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