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「書くようにしゃべる」と「しゃべるように書く」——尾川正二『文章のかたちとこころ』、年森瑛「N/A」について


いち度起きたけれど、体も思考も重たかったので、ベッドに横たわって文芸誌に掲載されていた他人の戯曲を読んでみた。思いのほか面白かった。

眠たいときは無理せず眠るのがいち番だと思う。30分の仮眠で起きるつもりが結局3〜4時間くらい眠ってしまった。カーテンを閉めて、陽光をシャットアウト。少し肌寒い。暖房をかけて、毛布をかけて、ぐっすりと眠った。やっぱり春は、気温の上がり下がりが激しくて、自律神経とかの関係で疲労が溜まるのだと思う。ここで無理をしようとすると体調を崩すので無理はしない。そのほうが損失が大きい。

ひさしぶりに戯曲を読んで思ったこと。小説よりもこざかしいなと。戯曲を読むには、小説を読むよりもずっと読解力が要る。というか、読解する際にもちいる脳の部位が絶対的に違うと思う。

今日の小説は読み手に易しく書かれている。読み手至上主義というやつ。小説だけじゃない、エッセーも、専門書(入門書)もわかりやすく書かないと駄目だという風潮がある。自分が生まれる前に書かれた書物などを読んでみると、その難解さにびっくりするのだが、その時代にはどうやら「読めないほうが悪い」という風潮があったそうだ。

とにかく小説は、小説を書くということは、複雑な物語ストーリーをわかりやすく物語るナラティブということが使命なのだ。

戯曲はそうではないんだろう。戯曲は、読者よりも観客を歓待する。つまり、観客至上主義というわけだ。そこが岸田戯曲賞などが抱えているジレンマなんじゃないかと、僕は考える。戯曲の文学性という観点から評価を下すのであれば、読み手至上主義のもとで審査をする必要がある。しかし多くの戯曲賞が観客至上主義のもとで審査をされている。文学性よりも上演可能性というわけだ。

さて、僕は今、新しい戯曲を書いている。戯曲を書くときにいつも気に掛けていることがある。「完璧な戯曲を書くこと」。上演しても面白く、戯曲を読みものとして読んでも面白い。読み手至上主義と観客至上主義とを、その両方目指すことは可能なんじゃないか、とそんなことを目指しながら、適度に意気込みながら、書いている。研究に失敗を重ね、新しい執筆の方法も編み出したのだが、この話はまた今度。

対談本や鼎談本が、戯曲よりも読みやすいのはどうしてだろう。論理的で筋が通るように編集の力が働いているからかもしれない。リアルに人間の会話を描こうとするとどうしても多少ノイジーな部分を挿れないといけない。例えば、文頭に「えーっと」、「あ」、「いや」、「なんか」を書いてあげる必要があるんだけど、対談本ではそういったものが消されてしまう。単純に読むのに邪魔だからだ。

ただし読むのに邪魔なノイジーが、読みづらさになるかといわれたら、必ずしもそうではない。

「書くようにしゃべる作家」として、芥川龍之介は夏目漱石の名を挙げている。が、漱石は「しゃべるように書く」作家ではなかった。

尾川正二『文章のかたちとこころ』筑摩書房、1989年、p47

「書くようにしゃべる」ことと「しゃべるように書く」ことはどう違うのだろう。そのことについて戯曲家は、というか文学的にものを書こうとする人は、考えていかないといけないと思う。

『文學界』新人賞を受賞された年森瑛「N/A」なんかはまさに「書くようにしゃべる」文体だと思った。

選考委員が全員一致で選んだというのもそうだし、なによりその文体がTwitterで話題になっていたので気になって買ってみて、読んでみた。

Twitterの感想はTwitterの感想として……。ただ、そういう感想を人に抱かせるっていうのはすごい実力なのだと思った。自分が今書き途中の戯曲を人に読んでもらったときの感想と比較して、自分の文体はまだまだ弱い、ということを反省し、またイチから書き始めた。ふりだしに戻るのはこれで4回目だ。でも嫌になったりはしていない。4回目にしてやっと自分の直感的なものを信じきれるような書き方を編み出した。ここまでたどり着くことができたのは、まとまった時間と適度な会話、そして資金があったからだと思う。そしてプラス思考。それで初めて、人は時間を味方につけることができるようになる。

今書いている戯曲の原稿はまだまとまったかたちになっていないけど、もしもまとまったら、すごいことになるんじゃないかと思っている。

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