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創作

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#小説

別れが最期とは限らない

別れが最期とは限らない

あの人は、縁がない人。

そういうのって、わかる。直感で。
そしてそれは大体当たってる。いつだってそうだった。

卒業式の日。
わたしはあの人を見ていた。もう一生目にすることはないだろう、制服姿の細い背中を。

3年前、初めて入った高校の教室の机が高くて、足元をふわふわさせていた。 廊下側の一番後ろ席に座って教室を見回していたら、初めてあの人を見つけた。瞬間息が止まった。窓際の中間くらいに座

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はじめての小さな罪

「そこにね、おばけいるよ」

そう言って6歳の私は襖を指差した。

「あそこに、白い服を来た女の人がいる」

「本当に見えるんかい?」

おばあちゃんが目を丸くして私の方を見る。

「うん」

「やだね、前も霊感あるっていう友達が遊びに来てさ、この家は霊がうじゃうじゃいるって言ったんさ。特にあそこの、襖から縁側に続く道は霊の通り道なんだと」

おばあちゃんが私から私の母に視線を向けて言った。母は嫌

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口紅にまつわる小噺

口紅にまつわる小噺

私は電車に揺られていた。 平日の午後であった。日本中で労働の緊張が張り詰めたこの時間、電車の中は外の世界など素知らぬ顔の平穏な海中のようにのどかな空間だった。座席はまばらに埋まっているだけで、人々は手元のスマホを見つめたり、電車の心地よいリズムにまかせてうたた寝をしたりしていた。
私の目の前には若い女の人が座っていた。ショートヘアで薄手のカーディガンを羽織った地味な見た目であるのに、その背筋だけは

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嘘と真実の狭間で

嘘と真実の狭間で

テルは斗真の嘘を見破る能力を持っていた。能力というよりは、斗真という人間のみに発揮される鋭い観察眼というべきかもしれない。
例えば、常に乾いていて薄いのに人より赤い唇から吐き出される呼気からアルコールの香りが一切しないのに、声のトーンが普段よりほんのすこし明るく上ずっているように感じられる時。
テル以外の、他の人から見ればなんの変わりもないように見える些細な変化だった。
でも、テルにとって音は色彩

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はりねずみは大樹で一休み

はりねずみは大樹で一休み

全身の針を逆立てて、怖いものを追い払おうとする。そうすることでしか自分の弱さを守れない。

自分に正直になることが、大の苦手だった。一番針が突き立てられているのは自分の心なのに、覆い隠して取り繕って、全然気にしてないふりをする。でも、わたしは人を見くびっていた。人は、わたしが思っているより優しく賢いので、わたしのちぐはぐさをあっという間に見抜いてしまう。気づいてないのはわたしだけ。

貴方なんて

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創作:顔面均等法

創作:顔面均等法

 この法律が規定されたのは、現代のちょうど今頃のこと。ただし、パラレルワールドに存在するもう一つの日本での出来事。

 不況がピークに達し、税金は上がる一方の中、国民たちは働き詰めの毎日を課せられていた。
当時の彼らの娯楽といえば、自生活を写真におさめてSNSに投稿するという行為であった。人目を惹く投稿をすると、それを見た人の反応が増えて嬉しいので、彼らは実際の写真に加工アプリで手を加えて、ちょっ

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