週刊少年松山洋_タイトル_修正

第99号『初めて作ったもので勝負するな』

全国を回って色んな専門学校や大学に行って、沢山の若い学生さんと話をすると“僕の作品を見てもらってもいいですか?”と言われてその場で即興で評価したりアドバイスをするようなことが多々あります。

中には“このポートフォリオ(作品集)を来月あるゲーム会社に応募しようと思っているので見てもらっていいですか?”なんてものもあります。

実に頼もしい。

私自身もちょっと嬉しくもあり、嬉々としてポートフォリオを拝見するのですが、やはりというか、まぁ、つたない。

正直どれもボロボロ。

ゲーム作品もイラストもCGも全てがイマイチ。

まるで何も考えずに“とりあえず作った”というような作品ばかり。

だいたいこういう時は私はこう聞きます。

“この作品は何作目ですか?”

そう聞くと大半の学生さんが目をキラキラさせながら

“生まれて初めて作りました!どうですか?”

って聞いてくる。

“うん、だろうねッ!!!”

こういうことが本当に多いのです。

なんということでしょう。業界を志望して日々勉学に励み、研鑽しているはずの学生さんがずいぶんと程度の低い場所でウロウロとしていることが、なんとも悲しい話ですが真実であり実態なのです。

そういう状況から脱却を図っていただくために&しっかりと目を覚ましていただくために、私はストレートに言葉をぶつけるようにしています。

“うん、まずいい?業界をナメてるのかな?初めて作りました!ってなんなの?そのまるでなんか君の彼女がデートの時に作ってきたお弁当を差し出しながら「あの、初めてお弁当作ってみたんだけど……お口に合うかな?」みたいなトキメキシチュエーション的設定は?ああ、そういう時はいいんじゃない?それが美味しくても不味くても彼女が初めてお弁当を作ってくれたことが嬉しいよね?男としてはそれが例え泥団子であれ完食してニッコリ微笑んで「美味しかったよ、また作ってくれると嬉しいな!」って返せばいいよね。そう、男としてはそれで100点だと思うよ。けど、今回のこの作品はお弁当でもないし、今日はデートでもないし、俺は君の彼女でも恋人でもないよね。え、なに?ひょっとして「初めて作った割には君には才能があるなあ」なんて言葉を期待してた?本当にナメてるの?クリエイティブの世界を。この世界では年齢も性別も出身も国籍もなーんにも関係ないよ。作品が全てだよ。初めて作ったかどうかなんて関係ないよ。ここにある作品が全てだよ。そういう意味で正しく評価させてもらうけど、君の作品はゴミだね。なんの評価もできないただのゴミ。点数をつけろって言われれば0点だね。マイナス評価じゃないだけ優しさを感じ取って欲しいな。これはなんの魅力も信念も感じられないただのゴミ。道端を歩いていて君の作品が落ちていたとしても絶対に拾ったりしないね。君だって道端の小さな石ころをいちいち拾ったりしないでしょ?それと同じだよ”

だいたいここまで話をすると学生さんは下を向いて沈黙します。

誓って言いますが、別に私は学生さんにダメージを与えたいわけでもありませんし、むしろ逆で全力で応援したいと思っていますし、せっかくこうして作品を見せていただいた以上は責任を持って正しく導いて結果を出さなければと常に思ってコメントしています。

これは私がアドバイスをする時の必要なプロセスです。

流れをイメージすると「①正しい評価で自分自身の今の作品の客観的価値を知る→②世の中の実態を知る→③具体的にこれからどうすれば良いのかを指導する」という順番になります。

上のセリフで①の段階が終了しましたので、このあと②と③のプロセスに移行します。

“まずは世の中の作品がどうやって作られてるかを知ろうよ。俺らが作ってるゲームソフトだって何度も何度も作り直してるよ。なんならゲームを作る前の企画書の段階から何度も作り直してるよ。キャラクターのデザインひとつとっても企画内容に合わせて何度も作り直すんだよ。身長だって性格だって使用する武器だって全部まるごと作り直すことを何度も繰り返して最適なキャラクター像ってものを生み出すんだよ。その上でゲーム開発時にまた修正を繰り返すよ。何度でも何度でも。”

“これは別にゲームの世界に限ったことではないんだよ。漫画だってそう。みんなが読んでいる漫画だっていきなり描きはじめていることなんて無いんだよ。『鬼滅の刃』って作品知ってる?そう、少年ジャンプで好評連載中だよね。面白いよねぇ。あの作者の吾峠呼世春先生ってね。持ち込み時代は編集部から「この子は才能が全くないなぁ」なんて思われていたらしいよ。それでも吾峠先生はめげずに何度も何度も編集部にネームを持ち込んだんだって。それも毎週らしいよ。毎週30ページ超のネームを編集部に持ち込んで繰り返し繰り返し評価を受けて、それをまた修正して持ち込んで。この繰り返しが今の吾峠先生を作ってるんだよ”

“小説だってそうだよ。今の世の中、自分が書いた小説を発表すること自体は容易いよね。書いたものをそのままブログやnoteなんかにアップすればいいんだから。けど、それがプロの作家であれ素人の小説書きであれ、みんな必ず推敲ってことをやっているよ。推敲ってわかる?ネットで調べればパッと出てくるよ。そう「文章をより良くするために何度も考えて作り直して苦心すること」だよ。みんないきなり書いた作品をパッとあげたりはしないんだよ。必ず推敲しているよ。これは別に小説に限らず、世の中にあるネットニュースや雑誌の記事を書いているライターさんだってみんなそうなんだよ。”

“俺だってそうだよ。普段からブログ書いたりnote書いたり色んな文章も制作するけど。一度書き上げた文章を頭から読み直して何度も修正するよ。少しでもわかりにくいところがないか?読んでいてスムーズに頭に入ってくるか?テンポは的確か?誤字脱字は無いか?場合によってはスタッフを呼んで、その場で読んでもらって感想を聞いてまた修正してるよ。なんならツイッターのツイートひとつとってもそうだよ。何度も考えて確認してそれからアップするよ”

ここまで話して、“前提がズレていたってことを自覚していただくのと同時に、そもそもこの世界がどのように成り立っているのか”ということを知ってもらいます。

そしてここからはいよいよ“③具体的にどうすれば良いのか”をアドバイスするターンに移行します。

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株式会社サイバーコネクトツー 代表取締役 ゲームソフト開発タイトル代表作『.hack』シリーズ 『NARUTO -ナルト- 疾風伝 ナルティメット』シリーズ 『ジョジョの奇妙な冒険』 著書『エンターテインメントという薬』『熱狂する現場の作り方』漫画『チェイサーゲーム』

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コメント (4)
専門学校時代に似たような言葉を頂き、暴言混じりのストレートな言葉にだいぶ精神を持っていかれた覚えがあります。
現職はゲーム開発者ですが、あのとき言われたことは未だに「なにくそ!」と思ってますからね!!
おお、その節はありがとうございました。いいですね、私も毎日いろんな事に“なにくそ!”って思って生きてますから同じですね。お互い頑張りましょう!
大学の学部時代の構造系の先生の部屋に貼られていた、「これでもかこれでもかと頑張ることです(以下略)やっぱりダメかと諦めかけたとき初めのこれでもかが効果を現わしてくるのです」の格言を思い出しました。業界は違いますが、建築の設計演習の授業で大学の先生から同じような感じの事をドストレートに言われた覚えがあります。あのときの踏ん張りがあるから今があると思うと、これも、土俵が違ってもそれぞれの土俵で同じ事が言えますね。
全くもって同感です。
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